第085話〜奪還〜
エータ、ビート、フィエルの三人は山を駆けている。
ドロシーと村を奪還するために。
エータとビートが殴りあった傷は、ケイミィのポーションで治して貰った。
ディアンヌに治癒を頼んだのだが「ハラハラさせられたのでお返しです、絶対に治療しません!」と、強く断られてしまい⋯⋯。
泣く泣くケイミィのポーションで妥協したのだ。
そのポーションも罰として、ケイミィが持っている中で一番痛い物しか貰えなかったが⋯⋯今から戦場へ向かうので致し方なし。
二人は仲良く大絶叫し、そのポーションを受け入れたのであった。
ビートの探知で敵を捕捉しながら進む三人。
相手にも探知持ちがいる可能性があるので、フィエルがビートにマナを供給し、範囲を広げて慎重に進んでいく。
そして、なんとかブバスティスを一望できる所まで近付くことが出来た。
村の外壁には、プリース王国の旗がずらりと並んでいる。
「これ以上進むのは危険だな」
フィエルが小声で言う。
「こっからどーすんだ? 正面突破じゃないよな。俺たち、もうほとんどマナが無いぜ」
何も聞かされていないビートは不安な様子だ。
「あぁ、ちゃんと作戦がある。フィエル、前に俺たちにやった盗聴って出来るか?」
「ん? あぁ、可能だが⋯⋯」
「それをクルトさんが言ってた場所⋯⋯。ブライの屋敷にして欲しいんだ。中にドロシーが居るか確認したい」
「わかった、フィン」
フィエルの指先に緑色のマナが吹き、小さな精霊フィンが現れる。
「あの屋敷内部の音を拾ってくれる?」
フィンは「らくしょー!」と言い、風になって消えた。
「盗聴して、そっから侵入すんのか?」
「いや、違うよビート。捕まってるのはドロシーだけだから、彼女の居場所さえ分かれば、俺がここからでもなんとか出来るんだ」
「ここから?」
フィエルとビートは要領を得ないと言った様子である。
すると、フィンが「音声送れるよー」と、声だけを飛ばしてきた。
「よし、そのまま繋いでくれ」
エータ達は、フィエルの指先から出る音声に耳を傾けた。
風切り音が段々とクリアになり、内部の音が聞こえてくる。
――男の声⋯⋯そして、ドロシーの声がした。
「チッ! 自分から誘っといてヘタクソじゃねぇか。お前、経験ねぇだろ。もう良いからさっさと脱げ」
「先に身体を洗わせていただけませんこと? ほら、あなたも汚いままは気分が盛り上がりませんでしょ」
「そう言って逃げてんのバレバレなんだよ。後がつかえてんだからサッサとしろ!」
「キャッ! お、お待ちになって。そうですわ、もう少し御奉仕してからでも⋯⋯」
「良いって言ってんだろ!」
衣服を引き裂くような音と、床に叩きつけられるような音が響く。
「ハハハッ、やっぱかなりの上玉だなぁお前⋯⋯」
「い、いや⋯⋯」
「良いねぇ。俺はグイグイ来る女より、嫌がる女の方がコーフンすんだよ。盛り上がってきたわ」
「やめて!!」
乱れる二つの足音と、何かが倒れる音。
そして、ベッドがきしむ音が聞こえる。
「やだ! やだぁー! ビートォ!!」
ブチィッと何かがキレる音がしたかと思うと、ビートの身体が、大気を震わせるほどの真紅のマナに包まれていた。