第083話〜責任〜
「この責任をどう取るつもりだ!!」
周りの制止も振り切り、エータの胸ぐらを掴んでぐらぐらと揺らすノバナ。
その目は血走り、まばたきすらも忘れているようだ。
「お前がエルフなんて助けようとしたから! お前がみんなを連れて行ったから! お前が私の言うことを聞かなかったから!!」
ノバナは、エータを殺さんとする勢いでギリギリと首を絞める。
「離せ!!」
「辞めないか!!」
ライオとクロウガがそれを力づくで止める。
「なんでよ!! コイツのせいじゃない!! 私の言う通りだった!! 責任を取って死ね!! 死ねよ!!」
ノバナは二人に抑えられながらも暴れ狂っている。
「俺は⋯⋯」
エータがそんな彼女に声をかけようとした、その時だった。
「それは違うんじゃない、ノバナ」
エータとノバナの間に割って入る声。
それは、意外にもケイミィだった。
「ウチはエータちゃんのせいじゃないと思う」
ケイミィはいつもの人を喰ったような態度ではなく、真剣そのものと言った様子だ。
「⋯⋯は? ケイミィ? なんであんたまで⋯⋯。私の味方じゃなかったの⋯⋯?」
動揺するノバナをよそに、ケイミィは顔を横に振って口を開く。
「ウチは誰の味方でも無いよ。強いて言えば論理の味方。⋯⋯ウチはね、感情論がキライ。だからエータちゃんの考え方がダイッキライ。人の善意を信じすぎる決断がすごくキライ。だってウチの大切なみんなを、いつも危険に晒すんだもん」
そして、ノバナの目をしっかりと見た。
「でもね、今回村が落とされたのはエータちゃんのせいじゃない。エルフやゴブリンに襲われたんならわかるよ。それならエータちゃんの責任⋯⋯。でも、相手は騎士団だよ? このタイミングで騎士団が来るなんて誰も読めない。ノバナ、あなたは予測できた?」
「そ、それは⋯⋯」
「だから、この件でエータちゃんを責める人はウチはキライ。みんなの行き場のない怒りを、エータちゃんにぶつけてるだけだから。それはね、理性のない、感情だけで動く、ウチのダイッキライな知性のないケモノと同じだよ」
ノバナはそれでも納得できないと、口をパクパクとさせている。
そんな彼女を見て、ケイミィは無慈悲に言い放った。
「もし、これ以上、エータちゃんを責めるならウチが許さない。それが村長って役割を押し付けた、ウチらの責任だって思うから」
ノバナはなにも言い返せず、ただ口を開けているだけだ。
「わかったならどっか行って⋯⋯。いま、村のために大事な話してるの。このタイムロスで誰か死んだら、ノバナ。あなた、責任取れるの?」
ノバナは「ううぅ⋯⋯」と唸りながら下唇を噛んでいる。
そんな彼女を、クロウガは「今はエータ殿の顔を見るのも辛いだろう⋯⋯こちらへ」と連れて行った。
エータは、どうして良いかわからず立ち尽くしている。
そんな彼を見て、ケイミィはゆっくりと近付いた。
「エータちゃん、今はノバナに話しかけないでね。優しい言葉もかけちゃダメ。良いね?」
今はエータがどんな言葉をかけてもノバナを傷つけ、追い詰める。
そう言いたいのだと悟ったエータは静かにうなずいた。
「責任を感じてるなら、いまはこの状況をどうするかだけを考えて。それがあなたの仕事だよ」
『責任』『仕事』その言葉にハッとしたエータは、
「ありがとう。村長として今やるべき事をするよ」
と、ケイミィに告げた。
彼女は「しっかりしてよね、村長〜」と、いつもの調子でこたえた。
(ありがとう⋯⋯ケイミィ⋯⋯)
一歩間違えばすべてが崩壊していた状況。
ケイミィの助けにより、なんとか話し合いが出来る状態まで持ち込めた。
「よし、ブバスティスに何が起こったのか。整理しよう」