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第079話〜準備完了〜

 消える氷柱。

 空から落ちてくるオーガキング。


 しかし、その場に居た全員がそれを歯牙にもかけない。


 一角牛鬼という伝説を超えたバケモノがまだ残っているからだ。


 一角牛鬼も、自らのスキルにより、自軍の大戦力がことごとく倒されているのを把握していた為「コイツらは舐めてはいけない」と、ようやく思い始めていた。


 残る上位モンスターは一角牛鬼のみ。


 だが、疲労困憊(ひろうこんぱい)のエータ一行は未だ不利である。


 と、そこへ


「ライオ様〜! 早いですよ〜!」


 ライオ隊の面々が毒糸を燃やし、息も絶えだえに合流した。


「おめぇたちはエルフの護衛を! アナグマ、てめぇはそのまま毒糸の処理をしろ!」


 ライオの鬼気迫るその一言で、ライオ隊はボロボロのエルフ達を視認。


 迫りくるゴブリンに対して素早く迎撃体制に移る。


 そして、火炎操作(ファイアコントロール)を使えるアナグマは、味方の移動を制限される毒糸の処理に走った。


「負傷されている方はこちらに!」

「毒糸に触っちゃった人もこっちおいでね〜」


 ディアンヌとケイミィは、合流したライオ隊の回復に務めている。


「エータちゃ〜ん。これ使って〜」


 エータはアイテムボックスでケイミィの手に持っている解毒薬を収納する。


「これは!?」


「一角牛鬼の毒の解析終わったからね〜。アイツどんどん強力な毒作ってるみたいだから〜特別な解毒薬だよ〜」


 こんな短時間で!?ベチャベチャ触ってたのはそういう事だったのか!と、感心するエータ。


「アイチェ!」


 すぐさま、その解毒薬をアイチェの手元へと取り出した。


「ありがとうございますっ!!」


 アイチェは真っ赤にただれた右足に解毒薬をドロリと垂らす。


 ジュゥゥと、熱した鉄板に水を落としたような音が鳴った。


 アイチェはびくりとしながらも、解毒薬の効果により足の傷がどんどん回復しているようだった。


 緊急時にはきちんとしたポーションを渡すケイミィに、エータは(いつも痛くないポーション渡せよ⋯⋯)と、ほんの少しだけ思った。


 ――――――


「里長!!」


 ライオ隊が合流したことにより、多少余裕が産まれたフィエルは、生命に関わるほどのマナ切れを起こしたエルドラの元へ走る。


 その身体はカラカラに干からびており、およそ生存は絶望的な様子だった。



 ――魔素供給(マナギバー)――



 緑色のマナをエルドラの身体へと注いでいく。


 フィエルの胸からフィンが飛び出し、エルドラの胸に耳をおいた。


 そして、目を閉じながら頭を左右に振る。


「⋯⋯ダメ、もう心臓が止まってる」


「――――っ!!」


 動揺しつつも、フィエルはマナの供給を止めない。

 まだ、まだ何か方法があるはずだ、と。


「フィエル、貴重なマナ。戦闘に使わないとダメだよ」


 フィンの言葉に、フィエルはその手の輝きを少しずつ弱めた。


 もうダメなのか、救えないのか。


 諦めかけた、その時だった。


「それだけマナを注いでくれりゃ、あとは俺が何とかする」


 それは、先ほど助けた小さな精霊。

 ボルトルだった。


「お前らは早く前線に戻れ。あいつを倒さなきゃ元も子もないんだ」


 自体は一刻を争う。


 ボルトルが何をするかはわからないが、彼を信じることにしたフィエル。


 こくりとうなずき「ありがとう」と言ってその場を離れた。


「ありがとうはこっちだよ」


 そう呟いて、ボルトルはエルドラの体内に入り、心臓に直接電気信号を送りはじめた。


 エルドラの心臓は完全に死んでいる。


 ボルトルは人知れず自らの人生を捧げ、エルドラの心臓になることを決めたのだった。


 ――――――


 ビートはゴブリンたちを狙撃しながら、少しずつ一角牛鬼の元へ近づいていく。


 木々をぴょんぴょんと跳ねながら、ポケットの干し肉を取り出してかじる。


 少しでもマナを回復させるために。


「頼むぞ、みんな」


 エルフを守りつつ、一角牛鬼も射程に捉えられる場所へと急ぐ。


 ――――――


 着実に準備を進めるエータたちに、一角牛鬼は「ここが正念場」とばかりに、山中のゴブリンを呼びはじめた。


「ライオ、大技あと一発いけるか?」


 エータは突破口を開こうと思案する。


「いけるぜ」


 ライオの返答は半分正解であった。

 奥義は確かに出せる。


 しかし、その後、ライオは身動きが取れないほどのマナ切れを起こすだろう。


 もし、作戦が失敗すれば確実に死ぬ。


 それをエータに伝えなかったのは、ライオが彼を心から信じ、一角牛鬼さえ倒せるのならば、自らの命など捧げても良いと思っていたからに他ならない。


 長く迫害されてきた亜人種にとって、鴉天狗一族を身を削って支え、エルフを助けるためにどんな罵声をも耐え忍び、みなを動かした人間。


 エータの存在は、それ程までに光って見える。

 命を賭して守る価値があるのだ。


「イーリン。今からやろうとしてる作戦、すごく危険なんだけど⋯⋯。何があっても俺が合図するまでアーツドライブは耐えてくれ。⋯⋯俺を信じてくれるか?」


 エータはイーリンに問う。

 だが、それはあまりにも愚問であった。


「もちのろん!」


 イーリンはいついかなる時もイーリンである。

 彼女は元気にサムズアップした。

 その姿にエータは大きくうなずき、イーリンの頭を撫でた。


「よし、行こう!」


 最後の戦いだ!

 エータたちは、一角牛鬼へと走り出した。

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