第078話〜ランバーブレイク〜
「よし、まず一匹！！」
エータは思わずガッツポーズをする。
しかし、喜ぶエータと打って変わって、ビートは難しい顔をしていた。
「エータ！ アイツの棒おかしいぜ！」
ビートはオーガキングの棍棒を指差しながら言う。
「俺の牙狼穿が止められた！ グガランナの蹄並みに硬ぇ！ 普通じゃねぇぞ！」
「牙狼穿が棍棒に！？ 確かにそりゃなんかあるな⋯⋯」
二人が困惑しているとイーリンが口を開いた。
「アイツの棒、呪文ついてる、高度な術式！」
「なに！？ じゃあさっきのゴブリンが作ったのか！？」
「んーん、もっとスゴい魔道士だと思う。私でもマナの流れ、読めない」
「イーリンでも！？ そんなモン、野生のモンスターが持ってるワケが無い⋯⋯」
（これもバスティの使徒の影響か？ ⋯⋯いや、でもアイテムを渡すなんて直接的な干渉が可能なのか？ まさか、神とはまた別の誰かが⋯⋯）
思考をめぐらせるエータだったが「今はそれどころじゃない！」と思い、切り替えた。
「フィエル！ アイチェ！ アイツの持ってる棒は危険だ！ 気を付けろ！」
見た目はただの汚い棍棒。
油断すると前線が崩壊しかねない。
とりあえず二人に注意をうながす。
「先ほど、ビートのアーツドライブをいなしたアレか。確かに注意せねばな」
「わかった！ けど、それ以前に近付けないかも〜！」
――鬼団駄――
オーガキングは棍棒を何度も地面に叩きつけ、衝撃波をフィエルとアイチェに飛ばす。
二人はひらりと交わして居るが、回避の先を読みつつ、一角牛鬼が毒糸を飛ばしてくるので厄介極まりない。
足の踏み場が少しずつ無くなっていき、ジリジリと追い詰められていく。
蹴散らされたゴブリンたちも少しずつ数が戻ってきており、ハイマジックゴブリンのステータスアップは消えた物の、オーガキングのバフはまだ残ったまま。
長期戦になると明らかにエータたちが不利であった。
「くそっ⋯⋯マナがもう⋯⋯」
ビートは疲弊し始めている。
「ぐっ、身体が⋯⋯」
フィエルもすでに限界を超えている。
身体がギシギシと鳴り、もはや立っているのも辛い状況。
「わ、私がもっと強ければ⋯⋯」
襲い来るゴブリンたちをさばきながら、自責の念に押しつぶされそうになるアイチェ。
そんな心の隙を突き、一体のゴブリンが死角からアイチェを襲う。
「きゃっ！！」
「アイチェ！！」
一同が「やられる！」と、思った、その時であった。
――枯山水――
突如現れた衝撃波が、アイチェを襲おうとしたゴブリンを吹き飛ばし、その先にいたゴブリンの大群をも押し戻した。
「なにしてんだアイチェ！ ボサっとしてんじゃねぇ！」
「ら、ライオ様！！」
それはゴブリンチャンピオンを討伐し、駆けつけたライオであった。
ライオは辺りを見回し、赤いオーラに包まれているゴブリンたちを見る。
「なるほど⋯⋯あの一際でかいオーガが仲間の能力をあげてんだな」
すぐに理解するライオ。
「ライオ！ アイツの持ってる棒、なんとかならないか！？」
その言葉にライオは目を凝らし、棍棒を見る。
そして、アイチェに何やら耳打ちをした。
「――――っ！」
アイチェは一瞬、驚いたような顔を見せたが、キッと覚悟を決め、ふぅーっと息を整えている。
「大将！ ちびっ子！ サポート頼むわ！」
「わかった！」
「おー」
支持を出すと同時に走りだすライオ、その後を追うように走り出すアイチェ、エータ、イーリン。
「エータさん！ なにか強い素材で槍を作って欲しいッス！」
「槍を！？ アイテムボックスで無理矢理作るから、数回で壊れちゃうけど大丈夫！？」
「はいっ！ 大丈夫ッスっ！！」
アイテムボックスの中を見るエータ。
（海魔石は鍛冶師じゃないと魔法武器にならないって言ってたな⋯⋯グガランナの蹄は、槍というより鈍器になっちまう⋯⋯。おっ！？ これだ！！）
エータはアイテムボックスの奥底からとある素材を発見した。
「みんな！ エルフの護衛を最優先！ 余力のある人はライオのサポートを頼む！！」
エータの号令により、フィエル、ビートの二人は、エルフたちとケイミィ、ディアンヌを守るために後方でゴブリンを食い止めに走る。
エータ、イーリン、ライオ、アイチェは前へと進んだ。
「魔道士みたいなゴブリンを見捨てた事！ 後悔しやがれ！ アイテムボックス！！」
エータはオーガキングと一角牛鬼の上から大量の水を出す。
それと同時にイーリンが魔法を発動した。
――氷河期――
オーガキングと一角牛鬼は、頭上に現れた巨大な氷塊に当たらないよう回避行動を取る。
「今だっ！！」
身体強化で一気に距離を詰めるライオ！
オーガキングはそれを見計らったかのように、棍棒にマナを流し込む。
（一度かわして横腹にスキルドライブをっ⋯⋯！）
ライオがそう思った瞬間であった。
――愚者糸――
一角牛鬼から赤黒い糸が射出され、それがライオの足を絡めとってしまった。
ジュゥゥと衣服を貫通し、足の肉まで溶かさんとする猛毒。
「きゃっ⋯⋯！」
あまりの苦痛に顔がゆがむライオ。
オーガキングは好機と見るやいなや、ライオの身体に向かって棍棒を大きく振りかぶった。
――鬼ヶ死魔――
その瞬間、ライオの身体は白い煙と共にアイチェへと変わった。
なんと、ライオに見えたそれは変化で姿を変えたアイチェだったのだ！！
しばらくブバスティスで訓練を行っていたアイチェは、ピグリアムの食育によりステータスがアップ。
それにより、変化は『変化した者のステータスや職業、武芸術、魔技、疾走』その全てをコピーするのだとわかった。
いままで、マナの消費が大きすぎて、使いこなせていないだけだったのだ！
まだまだ発展途上⋯⋯！
しかし、オーガキングに近付くという目的は果たした！
（次の手へ⋯⋯！）
窮地であったが、アイチェは覚悟を決め、右手に持った禍々しいオーラを放つ戦槍をオーガキングの棍棒へと放つ。
「ぐぅぅっ⋯⋯！」
アイチェは、溶ける足にしっかりと力を込め、マナを槍へとそそぎ込んだ。
――樵之一撃――
オーガキングとアイチェの一撃が衝撃波を産みながらぶつかり合う。
「んんんんんー！！」
アイチェは必死にオーガキングの棍棒を受け止めている。
しかし、パワーに差がありすぎるのか、少しずつ押し負けて来た。
オーガキングは雄叫びをあげ、さらに棍棒にマナを流し込んでいく。
「負け⋯⋯ないっ⋯⋯ッス！！」
それに対抗するように、アイチェもありったけの力を込めて耐える。
すると、オーガキングの持っていた棍棒がミシミシと音をたてて亀裂が入った。
ランバージャックのジョブと、最上位レアの素材を使った槍により、大幅な特攻ダメージが棍棒に与えられたのだ。
「まさかこんなヤツに俺様が！？」
と、オーガキングは信じられない様子だ。
なぜ押し負けているのか。
それは、アイチェの持つ槍に秘密がある。
『牛鬼槍』
ベヒモスに憑依された牛鬼を、ドロシーが自爆させた時に落とした角。
それで作られた特別な槍である。
鍛冶師で無いにしても、この世界でトップクラスのレア素材で作られたソレは、オーガの最上位種であろうとほふる力を持つ。
そして、牛鬼はオーガ種と明確な上下関係がある！
アイチェは、オーガキングの隙を見逃さなかった。
「やぁー！！」
痛む足をド根性で我慢し、もう一歩を踏み出して思い切り刺突するアイチェ。
――グオォォッ！
まさか押し負けると思っていなかったオーガキングは、壊れる棍棒をバラバラと撒き散らしながら大きく上体を反らせる。
「やるじゃねぇか、アイチェ」
後ろから突然聞こえたその声に、オーガキングがハッとした刹那。
ライオの攻撃はもう終わっていた。
――枯山水・勇往邁進の型――
産まれてこの方、受けたことのない強い衝撃がオーガキングの背中を襲う。
壱トンはあろうかという巨体が天高く、山を見下ろすほど高く、高く、吹き飛ばされていく。
内蔵が破裂しそうなほどの衝撃を受けつつも、そこは最上位種。
オーガキングは身体中に力を込めて耐えて見せ、口から流血しつつも空中で体をひるがえし、着地の構えに入ろうとしていた。
しかし、
「詰んでるよ。お前」
「バイバイ」
エータは鋭く尖った巨大な三角錐の水を召喚。
イーリンがそこにマナを注ぎ込む。
身動きが取れない空中で、今から起こるであろう惨劇を予期し、無様に叫ぶオーガキング。
空に飛ばされた時点で、オーガの頂点に立つこの者の運命は決まっていたのだ。
――超巨大氷柱――
土手っ腹に風穴を開けられたオーガキングは、小さな断末魔を漏らしながら静かに息を引き取った。
