第077話〜花鳥風月〜
「チクショウ⋯⋯!」
悔し涙を流しながら落ちていくボルトル。
それを指差しながら笑う、ハイマジックゴブリンとオーガキング、そして、一角牛鬼。
――愚者糸――
一角牛鬼は、トドメとばかりに口から赤黒い糸をボルトルへ射出した。
「すまねぇ、エルドラ⋯⋯」
眼前へとせまる一角牛鬼のスキルドライブ。
明確な『死』を前にボルトルが諦めた。
その時だった。
――宝刀風――
風の刃がそれを切り刻む。
そして、足に風をまとい急加速したフィエルが、左腕でボルトルをキャッチした。
「大丈夫か!? 精霊さん!」
「お前⋯⋯」
ボルトルはその顔に、フィエルでは無い女性の面影を見ていた。
「離れていてくれ!」
フィエルはボルトルを降ろすと、そのまま一角牛鬼の元まで走り出す。
――凛咲華如――
凛と突き出されたレイピアから放たれる、ドリルのような風の刺突。
一角牛鬼は「一匹のエルフが一体なにを?」と、余裕を見せていたが、ただならぬ殺気を感じ、前脚でそれを防御した。
――グギャァァァ!!
突如、一角牛鬼の脚は宙を舞い、ドチャリと地面へ転がった。
とまどいを隠せない一角牛鬼。
と、怒りのままにフィエルに向かって毒の糸を発射した。
――愚者糸――
「くっ⋯⋯!」
身体がきしみ、上手く回避できないフィエル。
そこへ、青い光が走る!
――氷河期――
イーリンのアーツドライブにより、糸は先端から凍り始めた。
そして、そのまま一角牛鬼に向かって、パキパキと音を立て、全てを凍てつかせんと冷気が向かっていく。
ハイマジックゴブリンは、それが一角牛鬼に大ダメージを与えるものと判断。
ドクロの杖を掲げて何やら呪文のような物を唱えた。
――鬼火舞――
炎によりブツリと切れる糸。
一角牛鬼たちの連携もなかなかのものである。
ハイマジックゴブリンがホッと肩を撫で下ろした、その隙をビートは見逃さなかった。
針の糸を通すような、狙いを済ました一撃を放つ。
「やっと隙が出来たぜ! ナイス! フィエル、イーリン!」
彼は身体を激しく発光させ、アーツドライブを放った!
――牙狼穿――
バチバチと赤く輝く一筋の光。
魔狼のオーラを纏ったそれは一角牛鬼へと一直線に飛んでいった。
――鬼棍棒――
「大将が危ねぇ!」と、謎の呪文が描かれた木の棒で受けとめるオーガキング。
しかし、勢いが止まらない。
このままではマズいと判断した彼は、それをハイマジックゴブリンの方へといなした。
あわててマナの防御壁を作り出すハイマジックゴブリンだったが、ビートの放った矢は易々とそれを貫通し、ハイマジックゴブリンの左半身を粉砕。
さらに、着弾の爆発でフィエルの方へと吹き飛ばされてしまった。
べちゃりと地面へ打ち付けられた彼。
当然、オーガキングへの怒りに満ちている。
「チャンスだ!!」
フィエルはすぐさまレイピアを構え、ハイマジックゴブリンにトドメを刺そうと走った。
それに気付いたハイマジックゴブリンは、痛む身体に鞭を打ち、ありったけのマナを杖に込めてスキルドライブを放つ。
――大炎界・衆合地獄――
「なんだと!?」
フィエルの眼前に、高さ3メートルはあろうかという、黒い炎の壁が迫る。
「逃げ場が⋯⋯!」
敵に近すぎて、今からでは回避が間に合わない!
「フィエルーー!!」
エータはやっと前線に追いついた。
だが、それはフィエルが炎に焼かれる寸前のことだった!
「エータ! お水! たくさん!」
イーリンが叫ぶ。
まだ状況を理解しきれていないエータだったが、イーリンを信じ、すぐさまアイテムボックスを開いた。
「ありったけ出すぞ!!」
エータはイメージを膨らませ、いままさに、フィエルを亡き者にせんとせまる、ハイマジックゴブリンのスキルドライブに大量の水を召喚。
「アイツの技! 盗む! ふんすっ!」
たった一度、ほんのゼロコンマ何秒という世界で、イーリンは高度なマナの流れを読み取っていた。
「魔法なら! 負けない!」
――大寒界・頞哳吒地獄――
相反する二つのエネルギーが衝突。
それは完全に力が拮抗し、まるで初めから何も起きていないかのように対消滅をおこした。
――ゲギャァ!?
なにが起きたのか理解できないハイマジックゴブリンは呆気に取られている。
そこへ、仲間を信じて前に突き進んでいたフィエルの姿。
彼女は風宝細剣に風のドリルをまとわせた!
「終わりだ!!!」
――花鳥風月――
フィエルはハイマジックゴブリンを貫き、スライディングをしながら止まる。
そして、そのまま剣についた血を風で払うと、同時にハイマジックゴブリンの身体が薔薇のような血しぶきをあげて弾けた。