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第073話〜ライオ・ナトゥーメ渓谷〜

 ――サンボンクイ東のさらに東。ナトゥーメ渓谷。


 ブバスティス村に一番近いライオの隊は、道中のモンスターの数こそ少ない物の、


『自分たちが突破されるとブバスティスに危険が及ぶ』


 という事を、いたいほど理解していた。


「上位種だけは絶対に漏らすんじゃねぇぞ! 逃がしやがったら殺すからな!!」


 ライオの(げき)が飛ぶ。


(見えるだけでも100体近くゴブリンがいやがる。オレの隊ですらそうなんだ、一角牛鬼が居るエータの隊は⋯⋯)


 ライオは自分のほおを強く叩き、集中力を高めている。


「フンッ! まさかオレが人間に仕える日が来ようとはなぁぁー!!」


 ライオは、シロウからエータの話を聞いた時のことを思い出していた。



 ――――――



「タサブロー様。バスティ様の使徒が現れました」


 狸人(たぬきびと)では無いにも関わらず、隠密部隊の忍術を体得し、生真面目に任務をこなすシロウ。


 そんな彼がおよそ信じられない報告を行ったのは記憶に新しい。


「シロちゃん、おめぇも冗談を言うようになったんだなぁ」


 広い座敷に座り、煙管(キセル)を吹かしながら報告を聞くタサブロー。


「それが⋯⋯信じられないかも知れませんが、事実なのです。拙者はこの目で見ました。あれは間違いなく伝説のアーツ。アイテムボックス」


「ありえねぇ。どうせ騙されたんだろう、シロウ」


 タサブローの後ろに立ち、腕を組んでいるライオ。


 黄金のたてがみからのぞく鋭い眼光は、鍛え抜かれた2メートルの四肢をいつでも行使(こうし)するぞと言わんばかりにギラついている。


「ライオ様⋯⋯拙者は騙されてなどおりません。拙者が報告を(あやま)ったことがございましたか」


「ねぇよ。だから、今日がその初めての誤報なんだろ?」


 ライオとシロウは無言でバチバチと火花を散らしている。


「まぁまぁ。辞めねぇか二人共」


 二人は「申し訳ありません」と、(こうべ)を垂れる。


「シロちゃん、おめぇもわかってると思うが⋯⋯人間は卑劣(ひれつ)だ。亜人種は単純なモンが多くてどーにも騙されやすい。その点、人間は小賢(こざか)しく、だまし、(あざむ)くことに躊躇(ちゅうちょ)が無ぇ。だからこそ、純粋な能力では亜人種に適わねぇクセに大陸を牛耳った。そうだろ?」


 タサブローはふぅー。と、煙を吐きながら続ける。


「だからよぉ。いくらシロちゃんの報告でも、おいそれと聞き入れるわけにゃあいかねぇなぁ。そうやって騙された奴らがどんな目にあったか⋯⋯シロちゃんも知らねぇ訳じゃあるめぇ」


「⋯⋯承知しております」


 ライオはクックと笑い、口を開く。


「ジーニアスとかいう人間の国まで交易なんぞに向かうカワリモノだ。まんまと毒されたんだろーよ。人間に」


「そんな事は! エータ殿は信ずるに(あたい)するお方でございます!」


「やめろっちゅーんに!」


 タサブローは強く二人をたしなめた。


「ライオ。まぁ、気持ちはわかるがな。俺っちたちは犠牲を出しすぎた⋯⋯」


 タサブローが遠くを見つめる。


 それは、大切な物を守りきれなかった後悔、懺悔(ざんげ)

 人間への怒り、失望。

 様々な感情が混ざった瞳をしていた。


「でもなぁ、夢ぇ見ちまうよな⋯⋯。バスティ様の使徒かも知れねぇ人間か」


「フンッ。ありえませんな。もし現れたとして、人間である訳がねぇ。あんなクズども⋯⋯」


「そだなぁ⋯⋯」


 タサブローはまた大きく煙管(キセル)を吸い、ため息のような長い息を吐いた。


「なぁ、ライオ。もしよぉ⋯⋯」


「なんでしょう。タサブロー様」


 タサブローはライオの方を見ず、背中を丸めて言った。


「もし、本当にシロちゃんの報告が本当だったらよぉ。ライオ⋯⋯。俺っちよりもその人を守っておくんなぁ」


「タサブロー様⋯⋯!」


 ライオは思わず姿勢を崩し、タサブローの方を見る。


「そんな事を仰らないでください! オレの忠義はタサブロー様に捧げた物! いくらタサブロー様の頼みであっても、守るべき相手は自分で決めます! 獅子王族の誇りにかけて⋯⋯!」


 そう言って、ライオはたてがみを撫でた。


「ハッハッハッ! 頭の硬ぇヤローだ! 可愛いヤツめ!」


 タサブローはひとしきり笑った後、(さと)すようにゆっくりとライオに言った。


「それじゃあ無理強いは出来ねぇなぁ。けどよ、俺っちは許すからなぁ」




 ――もし、おめぇがその人に「付き従っても良い」って思えたらよぉ、そんときゃあ頼むぜぇ。俺っちの可愛いライオ。



 ――――――



 ライオは身体中のマナを解放し、黄金色に輝いている。


(タサブロー様、悪鬼(あっき)のような人間どもから救っていただいたあの時から、オレの命はあなた様の物でした!)


「うおおぉぉぉー!!」


 ライオがおたけびを上げ、地面をえぐるほどの脚力でゴブリンたちに突撃する!



 ――山茶花(さざんか)――



 暴風のようにゴブリンの間を走るライオ。


 彼に横切られたゴブリンたちは、何が起きたのかもわからないまま頭を潰されていく!


(ですが、申し訳ありません。あなた様の御意志とはいえ、お仕えする者を変える不義理をお許しください!!)


「ゴブリンごときがオレに勝てると思うな!!」



 ――裂破掌撃(れっぱしょうげき)――



 ライオのスキルドライブにより、20体は吹き飛ばされるゴブリンたち。


「す、すげぇ⋯⋯」

「ライオ様に続け!!」

「絶対、村にゴブリンを通すな!」


 彼の一騎当千の活躍に、小隊は鼓舞されているようだ。


(エータとかいう人間は本物です! シロウの報告は本当でした!!)


「ザコを蹴散らして総大将を守りに行くぞテメェら!」


 大声でさけぶライオ。

 すると、小隊がざわつき始めた!



「ライオ様! 最上位種です!!」

「デカイやつが来ます!!」

「なんだアイツは!!」



 ――ウォォォォ!!



 それは突然現れた!


 木の陰から、3メートルはあろう巨大なゴブリン!

 ライオよりも体格も筋肉も一回り大きい!


 そんなバケモノが鉄塊を持っておたけびを上げた!



 ――小鬼矜恃(ゴブリンズプライド)――



 その声に呼応(こおう)するように、ゴブリンたちが赤い光に包まれていく!


「ゴブリンチャンピオンだ!!」

「手下共のステータスを上げているぞ!!」

「みんな気を付けろ!!」

「こんな奴が村に行ったらドロシーたちだけじゃ守りきれんぞ!!」


 ライオはその巨体からは考えられないほどにヒラリと宙を舞い、ゴブリンチャンピオンの目の前に立ちはだかる。



(亜人種を解放するバスティ様の使徒! いや、もうそんなのはどうでも良い! オレは、エータがどういう人間かまだよく知らねぇ! でも、アイツの夢は信じてぇ! 信じられる!! 信じてんだ!! その為にこの命を賭けてやる!!)


日和(ひよ)んな! オレが居る!!」


 ライオは、エータが亜人種にかけてきた言葉の数々。村長に就任したときのこと。エルフのために地面に頭をこすりつけたこと。


 ⋯⋯罵倒されても、バカにされても、まっすぐに『亜人種を助けたい』という意志を曲げなかった姿を思い出していた。


 そして、



 ――ありがとうライオ、頼りにしてる。



「ガォォォォォ!!!!」



 ライオの決意を乗せたスキルドライブが辺りを包む。



 ――矜恃咆哮(プライドハウリング)――



 ライオの近くにいたブバスティスの面々は、黄金の光に包まれた。


「力がみなぎってくるようだ!」

「何百体でもかかってこい小鬼ども!」

「村には一匹たりとも行かせはせん!」


 みんなの心に勇気の火が灯る。


 その姿を見たゴブリンチャンピオンは、木を根から引っこ抜き、ライオへと投げつける!


 ライオは残像を残しながら、目にも止まらぬ速さでゴブリンチャンピオンの背後へとまわる!



 ――ゲギャァァァ!!



「ライオ様! 危ない!!」


 ゴブリンチャンピオンはライオの行動を予測し、鉄塊を大きく横へと薙ぎ払った!!



 ――メキメキミシィ!!



 ライオの身体ごと、何本もの木々をなぎ倒すゴブリンチャンピオン。


「ライオ様ぁぁー!!!」


 図体のデカい緑のバケモノが、(みにく)くニヤリと笑った。


 その時だった。


「良い夢は見れたか?」


 なんと、ゴブリンチャンピオンが殴ったのはライオが作り出した残像であった。


 刹那。地面すれすれまで重心を落とし、足元まで間合いを詰めるライオ。


 両腕は隆起(りゅうき)し、激しい光をはなつ!


「ユキヒメ流・体術奥義!!!!」




 ――枯山水(かれさんすい)勇往邁進(ゆうおうまいしん)の型――




 ゴブリンチャンピオンの大きく出張った腹が、ライオの掌撃(しょうげき)により波紋(はもん)を作っていく。


 敵味方問わず、ライオの攻撃を認識した者はごくわずかだった。


 それは、攻撃を受けたゴブリンチャンピオンでさえも例外ではない。


 なぜなら、ライオがゴブリンチャンピオンの鉄塊を回避してから、攻撃を仕掛けるまで1秒もかかっていないからだ。


 その瞬きすら許さない刹那の攻撃。

 衝撃の瞬間、音速を超えるスピードでゴブリンチャンピオンの巨体は吹き飛んだ。



 ――グギャァァァァ!!



 山の木々をなぎ倒しながら地平線の彼方まで。


 どこまでもどこまでも止まることなく吹き飛んで行く緑の巨体。


 ゴブリンたちの纏っていた赤い光が消えたのを合図に、ゴブリンチャンピオンは静かに息を引き取った。

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