第072話〜部隊を分けよう〜
――まだ雪が残る山道をエータたちは進む。
南の山はおびただしい数のゴブリンやオーガに占領されており、ゴブリンウォーロック、オーガファイターなど、進化した個体も数多くいた。
しかし、
――狼牙――
――凛咲華如――
――氷結豪雨――
――高天原――
――枯山水――
まるで、ただのゴブリンを蹂躙するかの如く進んでいくエータたち。
「す、すげぇ⋯⋯」
「こんなに強い人間は見たことが無いぞ、プリース国の騎士団レベルじゃないのか⋯⋯?」
グリスとライファはそれを見て戦慄している。
治癒したとはいえ、なぜ体力もまだ回復していない彼らが同行しているのか。
それは『エルフの説得』に他ならない。
フィエルは里を追放された身で、しばらく時間も経っている。
そんなフィエルが人間を引き連れて「助けに来た」と言ってもエルフたちは信用しないだろう。
そのため、戦力にはならずとも、二人を連れていく事にしたのだ。
「エルフたちがどこに逃げたのか、検討はつくか?」
ビートがたずねる。
「散り散りになってしまっていると思うが、たぶん西! サンボンクイって山のナトゥーメ渓谷辺りだ! あそこは秋によく狩りに行っていた!」
「りょーかい! 斥候は任せろ!!」
ビートが木の上をとてつもないスピードで駆けて行く。
「拙僧はより高みから山を見よう」
そう言ってクロウガが木々を抜け、上空から山を見に行った。
――しばらくして。
ビートが木々を飛びながら帰ってきた。
「どこもかしこも敵だらけだ! 固まりすぎるとやべぇぞ!!」
その報告と同時に、クロウガも上空から戻ってきた。
「山の東で大竜巻を確認! 何者かが戦闘中!!」
上空で何かを見たようだ。
「エルドラ様だ! 間違いない!」
情報により、エルフたちがサンボンクイ山の東にいるのは確実となった!
「よし、部隊を三つに分けよう!!」
エータが討伐隊を集めて、緊急ミーティングを開く!
――――――
サンボンクイ東。
①エータ。人間。
【能力】収納箱
②ビート。人間。
【職業】狩人
【武芸術】探知、射撃特攻
③フィエル。エルフ。
【職業】調教師
【武芸術】魔素供給
【魔技】精霊師
④イーリン。人間。
【職業】魔道士
【武芸術】魔素変換、氷結操作
⑤アイチェ。狸人族。
【職業】樵
【武芸術】槍術特攻
【魔技】変化
⑥ディアンヌ。人間。
【職業】神官
【武芸術】治癒、光属性吸収
※光属性吸収は光属性の攻撃をマナに変換する。
⑦ケイミィ。人間。
【職業】錬金術師
【武芸術】錬金、毒耐性
※錬金は見た事のない薬や鉱石であっても錬金法がわかる。
※毒耐性はすべての毒を無効化する。
⑧グリス。エルフ。
【職業】料理人
【武芸術】高速斬撃
【魔技】悪食
※高速斬撃は刃物を高速で扱える。
※悪食は毒性のキノコや傷んだ物でも食べられる。ただし、鉱石など『元々食べられない物』は除外。あくまで毒性を無効化するだけである。
⑨ライファ。エルフ。
【職業】狩人
【武芸術】射撃特攻
【魔技】魔素弓術
※魔素弓術はマナの弓でマナの矢を放てる。物理的な弓でマナの矢を放つことも可能。
――――――
サンボンクイ南。
①クロウガ。有翼族。
【職業】侍
【武芸術】剣撃特攻
【魔技】迅速
②ウルシ。有翼族。
【職業】狙撃手
【魔技】矢羽根
③ポンズ。狸人族。
【職業】格闘家
【魔技】幻覚
④コリル。狸人族。
【職業】魔道士
【武芸術】魔素奪取
【魔技】幻覚
⑤タマネ。狸人族。
【職業】魔道士
【武芸術】土石操作
⑥ジロウタ。狸人族。
【職業】格闘家
【武芸術】身体強化
――――――
サンボンクイのさらに東。
ナトゥーメ渓谷。
①ライオ。獅子王族。
【職業】格闘家
【武芸術】身体強化
【魔技】矜恃咆哮
②シッコク。有翼族。
【職業】侍
【武芸術】第六感
③コムラサキ。有翼族。
【職業】狙撃手
【魔技】射撃特攻
④シッポウ。狸人族。
【職業】格闘家
【魔技】幻覚
⑤アナグマ。狸人族。
【職業】魔道士
【武芸術】魔素増強、火炎操作
⑥コサオ。狸人族。
【職業】魔道士
【武芸術】土石操作
――――――
「クロウガ! ライオ! 小隊長を頼む!!」
「承知しました! エータ殿!」
「おう!!」
エータはクロウガの方を向く。
「クロウガ! サンボンクイの東にモンスターが集まらないよう食い止めてくれ! エルフが居たら東に向かうよう指示を頼む!」
次に、ライオを見る。
「ライオも同じく! エルフが居るであろうサンボンクイにモンスターが行かないよう頼む! 途中、エルフを見つけたらブバスティスに行くよう言ってやってくれ!」
指示を受けた二人はうなずき、
「モンスター共を殲滅してすぐに合流いたします!」
「食い止めるなんて舐めたこと言ってんじゃねぇ、鬼共をこの山から消し去ってやるぜ。見てろ」
と、心強い返事をしてくれた。
「毒を受けたエルフが居たら俺たちの居るサンボンクイ東まで誘導してくれ! みんな、頼りにしてる!! それじゃあ行動開始だ!!」
「「応!!」」
――部隊を三つに分けて進む討伐部隊。
途中、何人ものエルフを見つけ、鬼たちから引き離し、その都度
「東へ!」
「話はつけてある!」
「人間の村まで走れ!!」
と、指示を出していく。
エルフたちは困惑しながらも、他に術がないので指示に従っているようだ。
クロウガやライオの部隊は亜人種しか居ないので、スムーズに聞き入れてくれている。
しかし、エータたちの部隊は、
「人間だと!?」
「貴様フィエルか!?」
「やはり人間の傘下にくだったか!」
と、一悶着あり⋯⋯。
しかし、そこをグリスが、
「この人間たちは味方だ! 急ぎ東に向かえ! 村がある! 絶対に迷惑をかけるなよ!! この人間たちには恩がある! エルフの誇りにかけて誓え!!」
と、フォローを入れてくれたおかげで、なんとか聞き入れてもらうことが出来た。
無事に東に逃がすことが出来て、エータは心底ホッとした。