第006話〜はじめての夜〜
異世界転生はじめての夜。出入口と屋根のない木製の桝ハウスの中で、エータは月の光を頼りに衣服を作ろうとしていた。
「アイテムボックスの中にあるスーツや革靴を使って⋯⋯いまの自分に合うようイメージ⋯⋯イメージ⋯⋯」
いまの身長は160センチくらいか、元が175センチだったからかなり低くなってる。中学の頃がそれくらいだったか。もしかしたら、転生して違う人間になったというよりも14、15歳あたりまで若返っているのかも。となると転生?転移?どっちになるんだ?
エータはそんなことを思いながら、アイテムボックスで新しく仕立てた服を取りだし、腕をとおす。
「うん。ボタンが無理!」
アイテムボックスはかなり便利な能力だが、あくまで『収納』と『取出』がメインのようである。家を建築するための技術。衣服にボタンやポケットを付ける技術。そう言った細かい作業はどうやら不可能らしい。
知識があればワンチャンなのだが、あいにく彼は不器用なアンチクショウ。家庭科の授業でドラゴンのバッグをぐっちゃぐちゃの布切れにクラフトした事があるヤベー奴なのだ!!
そんなわけで図画・工作・家庭科がオール2の男が作るDIYはシンプル!オンリー!どうしても簡素な物になる!なお、彼の辞書に『返品』の二文字は無い!!
とはいえ、人間は学習する生き物である。何度か試行錯誤していく内に『コツ』のような物を掴み、彼はなんとか形だけでも取り繕うことが出来た。
「シャツとズボンはなんとかなったな。羽織る物もボタンがないだけだから大丈夫。問題は靴か⋯⋯」
どうにも革靴のサイズダウンが上手くいかない。ガポガポとぐらつくか、歩くたびに痛みが走るかの堂々めぐりである。
このままではラチがあかないので、底と側面だけ革靴の物を使い、その周りを樹皮で囲ってツタでしばった物を作成。
履き心地は及第点と言ったところ。手で着脱するのが難しいので、アイテムボックスから直接足に出し入れする形で落ちついた。
「さて、そろそろ寝るか。屋根を設置して⋯⋯と」
細長く削られた木や枝を格子状に置き、その上にヤシの木のような大きな葉っぱを並べるように配置。窓がないのでほぼまっくらだが、葉と葉の隙間から少しだけ月光が漏れている。
――アォーーーン⋯⋯――
遠くのほうで狼が遠吠えしている。あの5匹だろうか?
(こりゃ完全に寝入るのは危険だな)
彼はそんなことを思いながらもグッスリと眠りについた。予期せぬ異世界転生と、突然始まったサバイバルに自分でも気付かぬうちに消耗していたのだろう。
――翌日。明け方。
砂浜に作られた木製の桝ハウス。そこに海底から近づく巨影。それが自分の命をおびやかす存在だという事に、エータは気付くはずもなかった。