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第068話〜MVP〜

 原型を留めないほどグチャグチャにされたビートの横で、エータたちは表彰式を開催している。


 勝利した青チームの面々には、サリバン&カリナのオーダーメイド券が手渡され、女性陣⋯⋯。特にアイチェは涙を流しながら喜んだ。


「えー、それではMVPを発表したいと思います!」


 エータの横で、ダストンがドラムのような物を叩く!


 ――ダラララララッ! ダダダンッ!!


「MVPは! フィエルさんです!!」



 ――わっ!!と、訓練場は歓声に包まれた!



「わ、私か!?」


 フィエルは困惑しながらも、ドロシーやセツナに背中を押されて壇上へとあがる。


「フィエルさんの素晴らしい戦略の数々! 赤チームを見事に翻弄してましたね! 今後、あなたに一小隊をお任せすることもあるでしょう! 今回は素晴らしい御活躍、本当にお見事でした! みなさん拍手!!」


 訓練場から割れんばかりの拍手を送られるフィエル。

 「なにか一言」と、エータはフィエルにうながす。


 フィエルは正面を向き、頬を赤らめながら話し始めた。


「えー。わ、わた! ⋯⋯コホンッ! 私がこのような賞をいただいていいのか⋯⋯。青チームのみんなが私の作戦を信じ、行動してくれた結果の勝利だと思っています。MVPなど恐れ多い。なので、辞退を⋯⋯」


「ダメだぞー!」

「フィエルちゃんがMVPだー!」

「胸張ってー! フィエルー!」


「うっ⋯⋯」


 フィエルは真っ赤になって固まる。

 そんな彼女を見かねて、エータがそっと耳打ちをした。


「フィエル、今日のMVPは間違いなく君だよ」


 フィエルは少し考えた後、意を決したように言葉を紡いだ。


「みんな! ありがとう! 身に余る光栄だが! 私は胸を張るぞ!!」


 訓練場はまた拍手の海に包まれた。

 フィエルは深々と頭を下げる。

 そして、拍手が収まるのを待って、エータが話し始めた。


「それでは! MVPの賞品をお渡ししたいと思います! 賞品は〜! こちら!!」


 アイテムボックスから木のテーブルと深海のような青い鉱石を取り出すエータ。


「海魔石でーーす!!!!」



 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。



 しーん。と、静まり返る訓練場。

 みんなの表情は困惑、疑問。


「あ、あれ、みんなどうした? 風魔石が貴重って聞いたから海魔石も貴重なのかな〜と思って賞品にしたんだけど⋯⋯」


 空気に耐えられず、みんなに呼びかけるエータ。


 そうなのである。この海魔石、リヴァイアサンの攻撃を受けたあと、いつの間にかアイテムボックスに入っていた謎の石。


 ブバスティスでは基本的に石や鉄しか使わなかったので、フィエルがレイピアを手に入れてもすっかり忘れられていた可哀想な代物なのだ。


 と、固まった空気を打開するため、ブライがエータに話しかける。


「エータ、海魔石なんだが⋯⋯」


「ブライ、なにか知ってんの?」


「いや、私もよくはわからない。というか、海魔石は今まで存在すら怪しまれていた鉱石なんだ」


 えっ?どゆこと??と、固まるエータ。


「考えてもみてくれ。たとえば、風魔石は、魔石に風のマナが蓄積して産まれるレア鉱石だ。貴重なのは間違いないが、地上にある以上、人類が発見するのもおかしくはない。しかし、海で同じような物があったとして⋯⋯」


 ようやく、エータも海魔石の希少性を理解した。


「リヴァイアサンが居るし海の中にあるしで到底見つけられない、超レア鉱石⋯⋯?」


 ブライは静かにうなずいた。


「風魔石、炎魔石、水魔石、氷魔石、光魔石、闇魔石⋯⋯。たくさんの魔石がある中『存在しうるのではないか?』という位しか人類が認知していない幻の魔石だよ。海魔石は」


「えぇ〜っと」


 どーすんだ?これ?という空気が訓練場に漂う。


「それなら」


 フィエルが口を開いた。


「これはマスジェロに預けて見ないか?」


「えっ? でも、マスジェロって風魔石しか扱えないんじゃなかったっけ」


「あぁ、海魔石を扱えるかはわからない。しかし、鍛冶師(ブラックスミス)である以上、なにかしら知恵は貸してくれるだろう。これは強力な武器になる、この村に必要になるときが来る」


「う〜ん、じゃあ弓にでも⋯⋯」


 フィエルは顔を左右に振りながらいう。


「私にはもう風宝細剣(エルフィンレイピア)がある。村のことを考えるなら、私ではない誰かの装備にするべきだ」


「えっ!? で、でも⋯⋯」


 村のためと言われると、村長であるエータは弱い。


「わかった! じゃあ、マスジェロに預けてみて、彼に決めてもらおう。それで良いかな? フィエル」


「もちろんだ! それが私の『この賞品の使い道』だ!」


 結局、海魔石については『マスジェロ次第』という事なり、フィエルには『ギムリィ温泉の二時間独占券+好きなお酒一樽』が送られる事になった。


 こうして、雪合戦という名の模擬戦は終わったのである。



 ――――――



 数日後、ハコノギの里にあるマスジェロ工房。


 新品ピカピカだったあの面影はどこへやら、すっかりとホコリまみれとなった汚い工房。


 しかし、なんの作業もしていないため、ホコリの奥には傷一つ無い。


「マスジェロ〜、いるー?」


 エータは、日中とはいえ明かりもついていない工房へと入る。

 窓からさしこむ陽の光が、ホコリをキラキラと照らしている。


 マスジェロは、たくさんの酒樽に囲まれながら、工房のカウンターでいびきをかいていた。

 そんな彼の肩をゆらすエータ。


「んな〜、エータか? すまん、水くれ〜。いちち⋯⋯」


「二日酔いか? あんま変な飲み方するなよ〜」


 エータはアイテムボックスから水の入ったタンブラーを出してあげる。

 それを、マスジェロは一気に飲みほした。


「あ〜、ありがと⋯⋯うぅ⋯⋯」


「体調が優れないところ悪いんだけどさ、ちょっとコレ見て欲しいんだ」


「あ〜?」


 エータはカウンターの上に海魔石を取り出す。


「これなんだけど、マスジェロって風魔石以外も加工できたりする? あっ、手が溶けるような作業は辞めとけよ、そこまでして何か欲しいわけじゃ無⋯⋯」


「こ、ここここ、これは!!!」


「うおっ!!?」


 さっきまでのフラフラとした様子はどこへやら、マスジェロはカッと目を見開き、海魔石をまじまじと見ている。


「か、かか、かいかいかい!!」


「だ、大丈夫かマスジェロ! 落ち着け!」


 エータがマスジェロの肩に手を置こうとした、その時だった。

 マスジェロはエータの手を取り、足早に工房のかまどの燃料入れを開ける。


「エータ! 火をつけろ! 今すぐ作業だ!」


「はっ!!? いや、マスジェロの手が溶け⋯⋯」


「良いからつけやがれこのウスノロ! あの伝説の海魔石だぞ!? 鍛冶師(ブラックスミス)として、コイツを目の前に手ぇなんて気にしてられっか!!」


「は、はいぃ!!」


 エータは、ブバスティスで作った木炭をかまどの中へと入れていく。


「もっと火力が上がるモン持ってこい!!」


「ちょ、わかったわかった!! 詳しい人連れてくるからちょっと待ってろ!!」


 エータは駆け足でハコノギの里へと向かった。

 マスジェロは残された海魔石を手に取り、じっくりとながめている。


「さぁて、腕が鳴るぜこいつぁ! 俺様、一世一代の大仕事だ!!」


 マスジェロの武器制作がスタートした。

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