第067話〜大乱闘〜
エータがアイテムボックスで銅鑼のような丸い鉄板を取り出す。
「それでは! 試合を開始する! 一同! 礼!」
「「「よろしくお願いします!!」」」
エータは大きく息を吸い込み、布を巻いた木の棒を構えた!
「それでは、はじめ!!!!」
――ゴォォォン!!
強く打ち付けられた鉄板は、耳をつんざくような爆音をバトルフィールドにとどろかせた。
――試合開始である。
青チーム、鴉天狗のセツナが上空に飛び上がる!
――鴉之迅翼――
それは音を置き去りに、残像を産みながら赤チームの奥へと突き進む。
――狼牙――
鏃を布に置き換えられた訓練用の矢が、まるで生きているかのようにセツナを追跡する!
「ぐぅ!!」
高速で飛行するセツナの横腹に見事にヒット!!
(なんでこのスピードで当たるのよ! ビートくんってやっぱり異常だわ!!)
セツナは痛みを我慢し、翼を大きく羽ばたかせ、自陣の空へと逃げ帰る。
と、バトルフィールドの外で、エータとブライが実況ごっこをしながら今のプレイを解説しだした。
「エータ、ビートくんが矢を撃ったみたいだけど、これは反則にならないのかい?」
「これは雪合戦と模擬戦をミックスした独自のゲームなので、アーツやスキルは許可しております! ブライさん!」
「なるほど。して、いまの矢でセツナくんは五分間のペナルティを受けるのかい?」
「いいえ、ブライさん! これはあくまで雪合戦なので、雪玉以外は何が当たってもOKですよ! ただし、負傷が激しく、本人が動けなくなった場合はアウトになります! ジャッジメンが選手を回収し、雪玉ヒットと同じく五分間のペナルティが発生するので注意してください!!」
「なるほど! 試合に参加してない戦闘職のみなさんは審判であり、回収係なんだね? 雪玉以外は当たっても良いけど、ダメージには気を配らないといけないね!」
そんな茶番を無視してゲームは進む。
「ナイスセツナ! 作戦通りですわ! 顔を出しましたわね? ビート! 年貢の納め時ですわ!!」
ドロシーが拳大の雪玉を握り、大きく振りかぶった!!
「喰らいなさい!!!」
キィィィンッとドロシーの手が光り、雪玉が発射される!
――ボッ!!
それは雪のシェルターをいとも容易く破壊し、赤チームのポンズとカエデを吹き飛ばしながら尚も進む。
「うおわぁぁー! 嘘だろぉぉ!?」
――バゴォンッ!!
雪玉はバトルフィールドの雪をかきわけ、地面をえぐり、ようやく止まった様だった。
間一髪でそれを避けたビートはエータに叫ぶ!
「審判!! これ有りなのかよ!! 顔面に当たったら死ぬぞ!!!」
「彼女は身体強化で雪玉を投げただけなのでセーフです」
「俺のいつもの鏃よりアイツの雪玉の方がよっぽど危なくねぇか!? あんなゴリラ居たら勝てるモンも勝てねぇだろ!!」
ビートがそんな事を言った瞬間、大量の雪玉がまるでレーザービームのようにシェルターを貫通してきた。
ポンズとカエデは巻き込まれないよう、五分間のペナルティのためバトルフィールドの外に出ていく。
赤チームは「こりゃいかん!」と、身をかがめて嵐が去るのを待っている。
「あいつ!! 射撃特攻が無いから当たるわけねぇのに数でゴリ押してやがる!!」
ビートは逃げ回りながらドロシーの弾幕が切れるのを待っている。
「ビート殿、拙僧らに任されよ」
「全部撃ち落として見せるでござる」
クロウガが木刀を、コダイコが拳を構える!!
――高天原――
――枯山水――
ドロシーから射出される雪玉を、剣と拳の風圧でことごとく落としていく二人。ゆっくりと動いて見えるが、確実に雪玉を撃ち落としていくそれは、まるで高度な『型』を見ているようであった。
と、その瞬間、青チームが前線を押し上げる!
「ライオ殿! 作戦通り右を! 拙僧は左を行く!!」
「任せろ! コガラシ! 息を合わせっぞ!!」
両翼から囲うように攻めてくる青チーム!!
「おぉーっと! これは鶴翼の陣!! 青チーム、フラッグではなく全滅を狙う気だぁー!!」
「セツナくんを上手く囮にして、赤チームのキーマンであるビートくんの居場所を把握し、ドロシーくんで抑える。もし対処されても、赤チームの主力が後手にまわる。その隙をついたわけだね」
「ブライさん! これはかなり作戦を練ってきているようですねぇ!」
「青チームには実戦経験豊富なフィエルくんが居るからね、きっと彼女の策だろう」
その通りである。いつも最前線で戦わされ続けてきたフィエルは、戦闘のはじまりから終わりまで里長にこき使われてきた過去がある。
しかし、その辛い経験が、戦場を俯瞰する能力と戦線予測を養い、彼女をステータス以上の実力へと押し上げていたのだ。
そしていま、彼女はブバスティスで健康的な生活を送り、ステータスがアップし始めている!!
そんな彼女に死角はない!!
「両翼! 正面! スキルドライブ! 撃て!!」
フィエルの凛とした指示が飛ぶ!!
「「うおおぉぉ!!」」
コガラシとライオは、クロウガとコダイコを挟むようにスキルドライブを放った!!
――飛影黒刃――
――裂破掌撃――
コガラシが斬撃を!
ライオは掌底波を飛ばす!!
――ズズゥンッ!!
バトルフィールドに粉雪を撒き散らしながら、二人の技の衝撃が辺りに広がる!
「続いて! 後衛部隊! 撃て!!」
フィエルの容赦ない攻撃の指示が青チームに飛んだ!
「続け続けぇー!!」
「このまま決めるわよアナグマ!!」
「了解コムラサキ!!コサオ!合わせろ!!」
「は、はい!!」
「でけぇのが来るぞ!!」
コムラサキが射撃特攻を全開にして黒い光を放ちながら矢にマナを込める!
アナグマとコサオは詠唱をはじめ、炎と土が空中で交わる!!
――大鴉之爪――
――火天上地――
大量のマナを込められたコムラサキの矢が、アナグマとコサオの合体魔法である巨大な隕石と共に赤チームの陣地へと飛んでいく!!
――ドゴォォ!!
それは、見えない視界の中で巨大な音を響かせ『確実に何か当たった』ような感触を青チームに与えた。
すぐさま飛び出すセツナ、ドロシー!!
彼女たちが狙うは、そう!
フラッグである!!
「あぁーっとぉ! ここで青チーム! 空と陸とでフラッグを狙いに行ったぁぁー! なんという緻密に計算された作戦だぁー!!」
「二手三手先を読んでいるね。鶴翼の陣から全滅狙いかと思いきや、フラッグの獲得が本命。ここまで連携されてしまっては、もし赤チームに生存者が居ても対処できないだろう」
ハイスピードで空と陸を駆け抜けるセツナとドロシー!!
と、二人は厚く舞う雪の中で信じられない物を見た!!
「なんですの!? この壁は!?」
「これじゃフラッグを取りにいけない!」
それは、氷と土で作られた巨大なドーム!
――富士之頂――
「イーリンちゃんすごい! あの攻撃を受けきったの!?」
コリルが両手を合わせながら言った。
イーリンはむふーっ!としながら杖を構えている。
「タマネちゃんの土と岩で、層、作ってる」
イーリンは一人の力では受けきれないと判断し、タマネの土石操作と協力。氷と土と岩で層を作り、赤チームの陣地を覆ったのである。
「はぁ⋯はぁ⋯イーリンちゃんのマナ、なんでまだ残ってるの⋯⋯? 普通こんな大規模な魔法使ったらマナ切れ起こすよ⋯⋯?」
余裕な表情を見せるイーリンとは裏腹に、タマネはすでにマナが尽きかけているようだ。
「冬だから、大気の冷気、利用した!」
「えぇ⋯⋯それって身体の内と外のマナを同時に操作したって事? 両手に筆を持って一枚の絵を描きあげるような物だよ⋯⋯? 凄すぎるって⋯⋯」
コリルとタマネはイーリンを尊敬の眼差しで見つめた。
「シッコク殿の第六感が無ければ試合が決まっていたでござるな」
「うむ、さすがは鴉天狗随一の回避の達人。見事なり。拙僧も鼻が高いぞ」
「身に余る光栄にございます。クロウガ様、コダイコ様」
フィエルの策を第六感にて看破したシッコク。
彼が「大技が来ますぞ!」と進言しなければイーリンたちの魔法は間に合わなかっただろう。
クロウガとコダイコがうなりながら賞賛している。
「よっしゃ! 反撃するぞ!!」
ビートが音頭を取ると、赤チームは「おぉー!!」と雄叫びをあげた。
やられっぱなしの赤チームであったが、ここで動きを見せる。
――風見鴉――
黒い羽が空中にいるセツナに向かって大量に飛んでいく。
「ちぃっ! ウルシか!!」
ハイスピードで駆け抜けるセツナ。しかし、羽の弾幕は激しさを増し、セツナは一旦自陣へ戻ろうとする。
その瞬間!
――閃轢狼――
突然、五本の矢が下から上に向かって退路を塞ぐように現れた!!
「くっ! これはビートくんの!!」
セツナが空中で静止した瞬間を、赤チームは見逃さない!
――氷柱豪雨――
――風見鴉――
黒い羽とツララがセツナを襲う!!
「ぐぁぁー!!」
たまらず、セツナは地面へと落ちた!
それを見ていたジャッジメンの戦闘職はセツナを回収する。
五分間のペナルティだ!
セツナは「無念⋯⋯!」と言いながら治療を受けている。
「っしゃ! あとはあのゴリラだけだ!!」
――ドゥッ!!
ビートが叫んだ瞬間、ドロシーの足元が大爆発を起こし、弾丸のようにビートに向かっていく!!
「おいぃぃ! 目的変わってんだろ!!」
フラッグなぞ見向きもせず、ドロシーはビートまで一気に間合いを詰め、思いきりグーパンを顔面に決めようと拳を振った!!
――ポスッ!
「ドロシー選手、雪玉ヒット! フィールドから外れてください!!」
ドロシーの拳がピタッと止まる。
どうやら、すんでのところで雪玉が当たってしまったらしい。
「わーい、当たったー!」
イーリンがぴょんぴょん飛び跳ねている。
「あーんもう! 悔しいですわぁ!!」
ドロシーは大人しくフィールドの外へと歩いていく。
その様子をビートは
「コヒュー⋯⋯コヒュー⋯⋯」
と、髪の毛を真っ白にし、シワシワになりながら見送った。
赤チームにペナルティを終えたポンズとカエデが戻ってくる。
「名誉挽回!!」
「ここから巻き返しますよ〜!」
二人は気合い十分といった様子だ。
「くっ⋯⋯青チーム! 防御の構え!!」
フィエルが叫ぶ。しかし、赤チームはここが好機とばかりに前線を押し上げる!!
――濃霧蜃気楼――
イーリンが自陣を濃い霧で包む。
「なっ! バカな! こんな乾燥した空気で霧だと!?」
「イーリンさんのマナ操作は異次元だわ!」
「赤チームが何かしてくるぞ! 気をつけろ!」
青チームが狼狽えた、その瞬間であった!
「「「幻覚! どろんっ!」」」
霧の中からそんな声が聞こえ、中からたくさんの人影が!
「なにっ!!?」
「ビート殿が二人!?」
「コダイコ様もだ!」
「惑わされるな! 幻術だ!!」
赤チームは、幻覚が使えるポンズ、コリル、カエデの三人を、赤チームのエースである、ビート、クロウガ、コダイコに化けさせた!!
そして、青チームが混乱している隙をつき、攻撃を仕掛ける!
――枯山水――
静かな湖畔に広がる一滴のしずくの如く。
コダイコは音もなく正拳突きを空へ放つ。
それは波紋のように広がり、激しい拳圧となって、青チームのシェルターと前衛を、フィールドの外へと吹き飛ばした!!
「くっ! 魔法で応戦を!!」
アナグマが杖を構える!
しかし!!
――魔素奪取――
突如現れたクロウガに右手を捕まれ、マナを吸い取られていく!
「お前⋯⋯! コリル⋯⋯か⋯⋯」
「ご明察〜!」
クロウガの姿をしたコリルはヒラヒラと左手を振っている。
その横を本物のクロウガが走り去る!
「拙僧が活路を開こう」
クロウガの木刀が黒いオーラに包まれた。
――飛影黒刃――
先ほど、コガラシの放った物より一回り大きいそのスキルドライブは、青チームのシェルターを破壊し、フラッグまでの直線ルートを作り出した。
「いけない! フラッグを守れ!!」
フィエルの指示が飛ぶ!!
しかし、赤チームは左右正面の三方向からフラッグに向かって走り出している!
「へへっ!! 探知でお前らの場所はバレバレだぜ!! 殺気はおさえておくんだったなぁ!!」
ビートが赤チームの死角から素早くフラッグへと近付いていく!
「貰った!!!」
ビートがフラッグに手を伸ばした!
その時だった!!
――ドッ!!
先端が布に覆われた槍を持ったクロウガがそれを食い止める!
「なにっ!? クロウガ!? 幻術か!?」
ビートの探知は幻覚を無視して発動する!
しかし、このクロウガは間違いなく本物!!
「ビート殿! 拙僧はこちらに!!」
クロウガは後ろの方でコガラシと鍔迫り合いをしている。
「くそっ! じゃあコイツは⋯⋯!? って顔がアイチェじゃねぇか!!」
「ひえっ!! ば、バレたッス!!!」
それは変化をしたアイチェであった!
外見はクロウガに限りなく近いのだが、顔だけアイチェというなんとも間抜けな姿である。
「くそっ! あと少しだってのに⋯⋯!」
ビートは一旦距離を取り、腰につけたパチンコを取り出す!
「おっと!? ここでビート選手がなにやらオモチャのような物を取り出したぞ!?」
「あれはパチンコ。どうやら作戦タイムの時に作ったようだね。雪玉を発射するつもりかな?」
ビートは逃げながら足元の雪をギュッと固め、パチンコにセットした!
「っしゃぁ! これで終わりだぜ!!」
――パシュッ!!
「ひゃんっ!!」
射撃特攻で強化されたその玉は、見事、アイチェにヒットした!
「アイチェ選手! 雪玉ヒット! フィールドから外れてください!!」
赤チーム最大のチャンス!!
一気に走り出すビート!!
「貰ったァァー!!!!」
みなが固唾を飲んで見守る!
フィエルは弓を構えるが間に合わない!
世界がスローモーションのようにゆっくりと動き始める!!
そして!
ビートの手がフラッグにかかる!!
その瞬間であった!!!
――ガシッ!
「へっ?」
「セツナ選手、ドロシー選手、戦線復帰です!」
最悪のタイミングで五分間のペナルティが解除された二人。あと少しでフラッグに届きそうなビートの腕を、ドロシーが笑顔で掴んでいた。
「あら?⋯⋯ビート、お久しぶり」
「あっ、えーと⋯⋯」
ビートの顔から滝のような汗が流れる。
「こ、降参しま⋯⋯」
――バキボキメキメキメキィッ!!!
――――――
こうして
『第一回ブバスティス対抗!チキチキ雪合戦!!』は、青チームの勝利で幕を閉じた。