第066話〜雪合戦〜
「ブバスティス対抗! チキチキ雪合戦〜〜!!」
全身を震わせるほど、力の限り叫ぶエータ。
しん⋯⋯。と、静まり返るブバスティスの訓練場。
イーリンだけが「おぉー」と、拍手している異様な光景。
辺り一面、白銀世界の中。
急に集められたブバスティス連合の戦闘員の面々。
人間、エルフ、鴉天狗、タヌキ、獅子。三者三様の顔ぶれだが、共通している事は一つ。
(このクソ寒い中、いったいなんやねん)
という表情であった。
「⋯⋯で、今から何が始まりますの?」
前日、いきなり
「明日の正午、ブバスティスの訓練場に集合な!」
とだけ書かれた、雑すぎる手紙が届いたドロシーは、不機嫌そうに両腕を組みながら聞く。
エータはニヤリとしてこう言った。
「君たちには殺し合いをしてもらいます」
(((は?)))
全員が首を傾げる。
「ぬおぉ⋯⋯ミスった。さすがに前の世界のネタは通じるわけないか。つか、前の世界でも古すぎてわかんねぇかも⋯⋯」
そうつぶやき、エータは恥ずかしそうにコホンッと咳払いをし、話を進める。
「と、冗談はさておき。今からみんなにやって貰うのは、雪玉を使った模擬戦だ」
家屋の屋根や山に積もった大量の雪を、アイテムボックスで一気に収納し、拳大の雪玉を次々と取り出していくエータ。
「赤チームと青チームに別れてもらって、訓練場の半分ずつを両陣営とする。そして、陣地の一番奥にそれぞれフラッグを建てる。敵を雪玉で倒しながら進んで、敵陣地のフラッグを抜いた方が勝ち!!」
エータは右手を振りかざし、アイテムボックスで訓練場にバトルフィールドを作っていく。
雪で等間隔に作られたシェルター。
ぐるっと周りを囲う雪の壁。
それはまさに『氷結の闘技場』と呼ぶに相応しいたたずまい。
「雪玉をぶつけられたら五分間、ゲームから外れてもらう。五分経ったら自陣の一番奥から復活な! チーム全員が雪玉を当てられてゲームから外れた場合、フラッグを取られた時と同様、そのチームの負けが決定する」
先ほどまで不機嫌そうだったドロシーが、顎に手を当てて発言する。
「つまり、雪玉を避けながら進んでいき、敵のフラッグを取るか。短時間で一気に雪玉を当てて、敵を全滅させれば勝ち⋯⋯と、言うわけですわね?」
「そうそう!」
「ちょっと面白そうじゃね?」
「他種族との連携の練習になるな」
「つまりは雪遊びってことか」
戦闘職のみなさんから聞こえてくるやる気の波動。
ゲーム感覚で模擬戦が出来るとなればやらない手は無い。普段の稽古よりよっぽど面白そうである。
「チームはわたくし! 村長ことエータが独断と偏見で決めましたんで! みんな指示された色の服を着るように! 作戦の相談時間は三十分! それでは、チームを発表します!」
――――――
・赤チーム
①ビート。人間。男
【職業】狩人
【武芸術】探知、射撃特攻
②イーリン。人間。女
【職業】魔道士
【武芸術】魔素変換、氷結操作
※魔素変換はHPをMPに変換する。
③クロウガ。有翼族。男
【職業】侍
【武芸術】剣撃特攻
【魔技】迅速
※迅速はマナ消費による瞬間的移動速度アップ。
④シッコク。有翼族。男
【職業】侍
【武芸術】第六感
※第六感は危機察知による回避補助
⑤ウルシ。有翼族。女
【職業】狙撃手
【魔技】矢羽根
※矢羽根は自分の羽を矢として射出できる。
⑥コダイコ。狸人族。男
【職業】格闘家
【武芸術】身体強化
【魔技】幻覚
⑦ポンズ。狸人族。女
【職業】格闘家
【魔技】幻覚
⑧コリル。狸人族。女
【職業】魔道士
【武芸術】魔素奪取
【魔技】幻覚
※魔素奪取は相手のマナを奪う。
⑨タマネ。狸人族。女
【職業】魔道士
【武芸術】土石操作
⑩カエデ。狸人族。女
【職業】魔道士
【魔技】幻覚
――――――
・青チーム
①ドロシー。人間。女
【職業】踊子
【武芸術】身体強化、魅了
※魅了は相手の注意をひいたり、味方を鼓舞したり出来る。
②フィエル。エルフ。女
【職業】調教師
【武芸術】魔素供給
【魔技】精霊師
※魔素供給は他者にマナを分け与える。
※精霊師は精霊と契約を結び、マナを消費して召喚できる。また、マナの供給により精霊のステータスをアップ出来る。
③セツナ。有翼族。女
【職業】侍
【魔技】高速飛行、迅速
※高速飛行は飛行速度にバフがかかる。迅速と併用可能。
④コガラシ。有翼族。男
【職業】侍
【武芸術】身体強化
⑤コムラサキ。有翼族。女
【職業】狙撃手
【魔技】射撃特攻
⑥ライオ。獅子王族。男
【職業】格闘家
【武芸術】身体強化
【魔技】矜恃咆哮
※矜恃咆哮はマナで肺を強化し、音圧の球を発射したり、味方に一時的なバフを与えたり、敵にデバフを与えたり、様々なことが出来るスキル。
⑦シッポウ。狸人族。男
【職業】格闘家
【魔技】幻覚
⑧アナグマ。狸人族。男
【職業】魔道士
【武芸術】魔素増強、火炎操作
※魔素増強はマナの消費を増やす代わりに威力を上げる。
⑨コサオ。狸人族。男
【職業】魔道士
【武芸術】土石操作
⑩アイチェ。狸人族。女
【職業】樵
【武芸術】槍術特攻
【魔技】変化
――――――
チームを分けられた二十人はそれぞれの陣地へと移動し、作戦タイムへと入った。
そんな彼らを見て、エータはさらに声を張り上げる。
「怪我人はその都度、神官の皆さんに回復して貰います! 五分で必ず戦線復帰できるよう急ぎますので安心して競技をしてください!」
(((ダメージあるの前提なんだ)))
戦闘職の面々は一気に不安になった。
ディアンヌをはじめ、ハゴノキとユキヒメの神官が手を振りながらスタンバイしている。
その中には怪しく笑うケイミィの姿も⋯⋯。
「なお! この模擬戦には御褒美があります!!」
「ご褒美?」
「一体なんだ?」
「お食事券とかかな?」
一同はざわめきながらエータの言葉に耳を傾ける。
「勝った方のチームには! サリバン&カリナのオーダーメイド券! これで私服を作るもヨシ! 戦闘服を作るもヨシだぁぁー!!!」
――うおおおぉぉ!!!
ブバスティス村で『持っていないヤツは時代遅れ』とまで言わしめた、一大ブームを巻き起こしているブランド『サリバン&カリナ』。
そんな彼女たちのエキゾチック&ファンタスティックなオーダーメイド券と聞き、一気にやる気になる面々。
「いいなぁ⋯⋯私も欲しい⋯⋯」
ディアンヌがぽつりと呟いた。
彼女はハッと周りを見渡し、誰にも聞かれていない事に安堵。
頬を赤らめながらコホンッと咳をした。
そんな彼女を遠目にニッコリと見ていたエータは、最後にもう一つ、戦闘職のみなさんに告げた。
「そして、勝敗に関係なく! もっとも活躍した選手にはMVP賞もありますので! みなさん、最後まで気を抜かずに頑張ってください!!」
「「「はい!!」」」
こうして『第一回ブバスティス対抗!チキチキ雪合戦!』は幕を開けたのである。