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第065話〜恋バナ〜

 ――コクシ歴2025。冬至。


 粉雪がチラホラと舞うギムリィ温泉に、ドロシー、イーリン、フィエル、ディアンヌ、ケイミィ、アイチェの六人の姿があった。


 肌寒い風を感じながら、熱めのお湯につかっている。


「あぁ〜訓練のあとのお風呂は染みますわ〜」


「ドロシー、おばあちゃんみたいですね」


 ディアンヌが口に手を当ててクスクスと笑っている。


「こぉーんなピチピチのおばあちゃんが居るわけございませんわぁ。んまっ! わたくしはいつまでもこの美貌を保つつもりですけど!」


 温泉に浸かりながら、片足をスラリとあげて言うドロシー。


「ドロシーちゃんってムダに美意識高いからね〜ムダに」


「な〜んで二回も言うのかしらぁ?」


「なんでだろ〜?」


「おい、やめないか二人共⋯⋯」


 フィエルが仲裁に入る。


「み、みなさん。私も御一緒してよかったんスか?」


 アイチェが両手の人差し指をチョンチョンしながら気まずそうにしている。


「アイチェ、だいじょぶ、裸の付き合い!」


「歳も近いですし、仲良くしましょう?」


 イーリンとディアンヌが、石畳のうえで立っているアイチェを湯船に誘う。


「お、恐れいるッス⋯⋯」


 アイチェはゆっくりと湯船に浸かる。


「そうそう! わたくし達、同年代ですからね! 一人を除いて!」


「ドロシーちゃぁ〜ん? それって誰のことかなぁ〜?」


「あら〜エルフのフィエルの事だったんですけど。ケイミィ、どうされたんですの〜?」


「ドロシー⋯⋯それはそれで私が傷付くぞ⋯⋯」


「裸の付き合い、みんな、仲良く!」


「イーリンの言う通りですよ。みなさんケンカしたらバスティ様から天罰がくだります」


 ディアンヌが指でバッテンを作りながら「メッ!」としている。


「そうですわね〜。それじゃあ親睦もかねて裸の付き合いらしく、恋バナ。な〜んてどうかしら?」


 一同は「恋バナ!?」と、顔を赤らめている。


「まずはアイチェから行きましょう? どなたか気になる男性はおりまして?」


「私!?」


 突然の指名に慌てるアイチェ。


「その反応〜、これは居るねぇ〜」


 ケイミィがじとーっとアイチェを見る。

 アイチェは顔から湯気が出るほど緊張しているようだ。


「えと⋯⋯その⋯⋯し、シロ⋯⋯⋯さん⋯⋯が⋯⋯」


 「きゃー!!」とテンションが上がるドロシーたち。


「結構、歳が離れているのではなくて!?」


 ドロシーがアイチェに近づく。


「うぇっ!? えっと⋯⋯私が18で、シロウさんが30だから⋯⋯じゅ、じゅっこ近く離れてるッス」


「ケイミィみたいに歳上が好みなんですのね」


「ちょいちょ〜い、なにそのウチが歳上に好きな人が居るみたいなの〜」


 一同は「えっ?」という顔をする。


「ケイミィ、ブライ、好きじゃないの?」


「はぁぁぁーー!?」


 突然のイーリンの言葉に驚きを隠せないケイミィ。


「すみません。私もてっきりケイミィはブライさんが好きなのかと⋯⋯」


 申し訳なさそうに言うディアンヌ。


「ちょちょちょちょっと待ってよ〜! なんでそんな⋯⋯!」


 身体を隠すのも忘れ、立ち上がりながらケイミィは言う。


「ケイミィ⋯⋯たぶん、バレてないと思ってるの、あなただけですわよ⋯⋯」


「あ⋯⋯⋯ぅ⋯⋯⋯⋯」


 ――ケイミィの頭に浮かぶ記憶。


(ブライなんて死んじゃえ!!)


 幼いころのあやまち。

 彼女は、ぐるぐるとまわる感情を上手く整理できずにいた。


「好きとかじゃ⋯⋯無いし⋯⋯」


 ケイミィは顔を真っ赤にしながら、ブクブクと顔の下半分を湯船につける。


「フィエルはどうですの? ここに来てもう結構経ちますけど」


「私か!? 私は⋯⋯」


 ゴクリと喉を鳴らす一同。


「その⋯⋯種族的な問題なのか、そういうのが分からなくてな⋯⋯」


 「あぁ〜」と、納得したような顔の一同。


「エルフは極端に無欲と聞きますからね⋯⋯」


 ディアンヌが言う。

 人間は万年発情期、ほかの亜人種は周期がある。

 しかし、エルフは長命すぎるため、そもそも発情期があるのかすらわからないと言われている。

 種の存続という義務感で夫婦になる者がほとんどらしい。


「興味が無いわけではないんだが⋯⋯どうもな」


「一緒に居てドキドキするとか、楽しいとか、癒されるとか、そういうのも無いんスか?」


 アイチェが聞く。


「うーむ⋯⋯君たちと居るときと男性と居るときで、心情に大きな変化は無いな⋯⋯」


「フィエルって男が居なくても生きていけそうですものね。むしろ『守ってあげたい!』くらいのダメ男の方が良いのかしら」


 ドロシーが顎に指をおき、天を仰いで考える。


「守ってあげたい⋯⋯」


 フィエルの脳裏にエータの顔がチラつく。


(これは恋とは違うのだろうな)


 フィエルはそっと気持ちに蓋をした。


「フィエル! 変な男に引っかからないよう注意しましてよ! 気になる男性が出来ましたらぜ〜ったい! わたくし達に相談すること!!」


「それってドロシーが恋バナしたいだけなんじゃ⋯⋯」


「そんな事ありませんわぁ〜ディアンヌ〜!」


 ドロシーはニヤニヤしている。


「そういうドロシーさんは誰が好きなんスか?」


 アイチェが聞く。


「エータですわ!!」


 と、ドロシーは即答した。

 すると、ブクブクと湯船の中から顔を出したケイミィが言う。


「ドロシーちゃんこそ⋯⋯バレてないと思ってるのかなぁ〜」


「は? なんの事ですの?」


 ドロシーは本当にわからないようである。


「ケイミィ、ドロシーはたぶん無自覚ですから⋯⋯」


 ディアンヌがケイミィに言う。


「あぁ〜確かに〜」


 やれやれと言った様子で顔を見合わせるディアンヌとケイミィ。


「な、なんか腹立ちますわね⋯⋯」


「ディアンヌは誰か居ないのか?」


 フィエルが聞く。


「私ですか? 私はバスティ様にお仕えしておりますので。神官(プリースト)は異性とまぐわうとアーツが弱まるとも言われてますし、一生清い身で居ようかと」


「そんなどエロい身体してますのに⋯⋯」


(そんなどエロい身体してますのに)


「世の男性がこの身体に触れないなんて⋯⋯」


(世の男性がこの身体に触れないなんて)


「お二人とも〜? 心の声が漏れてますよ〜?」


 ディアンヌは怖い笑顔でドロシーとケイミィを見る。


「イーリンちゃんは誰か居るッスか? 好きな人」


 アイチェがイーリンに聞く。


「好きな人⋯⋯?」


 イーリンは下を向いて考えている。


「イーリンにはまだ早いんじゃないか?」


 フィエルが言う。


「そんな事ありませんわ、イーリンはもうすぐ14ですわよ」


「14歳なんスか!? イーリンちゃん!」


 ドロシーの言葉に、アイチェは信じられないと言った様子だ。


「見えないよね〜この子すんごい童顔だから〜」


「童顔の域をこえていると思うが⋯⋯。イーリン、私と同じエルフなんじゃないのか⋯⋯?」


 成人が15歳とされるバハスティ。あと1年で結婚可能になるイーリンに信じられないといった視線を向けるフィエル。


「好きな人って。男?」


 イーリンは聞く。


「そう、男の子ですわ! ギムリィはナシ!」


「それじゃ、ビートお兄ちゃん」


 「えっ!?」と、固まる一同。


「い、意外でしたわね。ちなみにどこが⋯⋯」


 震えながら聞くドロシー。


「こ、これって修羅場なんじゃ⋯⋯」


「ぷぷぷっ! 面白いことになってきたね〜、ディアンヌちゃぁ〜ん」


「笑えませんよ!!」


 ケイミィとディアンヌはコソコソと話している。

 そんな二人に構わず、イーリンは続ける。


「ビートお兄ちゃん、お肉、くれる」


「えっ?」


「干し肉出来たら、こっそりくれる。美味しい!」


 ディアンヌがホッとしたような顔を浮かべ、ケイミィが「はぁ⋯⋯」と、ため息をついた。


「イーリン、それは恋愛とはまた違った『好き』だな」


「そーなの?」


 フィエルの言葉にイーリンは首を傾げている。


「あぁ、一生一緒に居たいとか、家族になりたいとか、そういう『好き』が恋愛の好きだな」


「家族⋯⋯。そっか」


 イーリンはなんとなく理解したようだ。


「んまっ! あの山猿を好きになる人なんて居ませんわよね!」


 オホホホホと笑うドロシー、そんな彼女をディアンヌとケイミィはじとーっとした目で見つめていた。


「なんか、良いですね」


 アイチェがぽつりと言う。


「私、里に同年代の女の子居なかったから、こういうのちょっと楽しいッス」


「アイチェ。あなた、明日わたくし達と一緒に狩りに行きますわよ」


「えっ!?」


「そうだな。アイチェはもう私たちの仲間なんだから」


「アイチェ、裸の付き合い、トモダチ」


「ええっ!? そ、そそそんな恐れ多いッス! 私、ちょー弱いッスよ! 足でまといになるッス!!」


「断ったら〜、無視しちゃうかも〜」


「えぇぇぇー!!?」


「アイチェさん、諦めてください。言い出したら止まりませんから」


「でぃ、ディアンヌさん助けてくださいッスよー!!」


「フフッ、私もアイチェさんと仲良くなりたいのでイヤです。いじわるします」


「なんでぇ!?」


「さぁアイチェ! 仲間のハグですわ!!」


 両手を広げて待つドロシー。


「あ⋯⋯ぅ⋯⋯」


 モジモジとするアイチェ。


「よ、よろしくッス⋯⋯ドロシーさん⋯⋯」


「ドロシー『さん』? アイチェ、仲間にさん付けですの?」


「うぅー! よろしくッス! ど、ドロシー!!」


 ドロシーはアイチェに抱きつき、頭をワシワシと撫でた。


「今日からわたくしたち! 友達ですわ!!」


 ――こうして、ブバスティス連合の温泉女子会は幕を閉じた。

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