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第063話〜ブバスティス〜

 ――東の山、ユキヒメ一族との友好が深まった日から数週間後。


 外は木枯らしが吹き、冬の到来がすぐそこまで来ていた。


 そんなある日のこと。


「エータ、ちょっと良いかな」


 夜。一日の仕事を終えてまったりとしていたエータの部屋に、ブライとダストンがお酒を持ってやってきた。


「ブライ、ダストン。どうしたんだ? 改まって」


「まぁ、とりあえず飲まんか?」


 エータは突然のことに戸惑いつつも、アイテムボックスからタンブラーを三つ取り出し、机の上に置く。


 三人は机をかこみ、イスに座った。

 トクトクトクとそそがれる少し強いお酒。


「それで、何かあった?」


 エータがお酒を飲みながら言う。


「単刀直入に言う、エータ。この村の村長になって貰いたい」


 ――ブーーーッ!!


 まるでコントのように勢いよくお酒を吹き出すエータ。


「ど、どど、どういう事!?」


「いやね、最近この村も大所帯(おおじょたい)になってきただろう? 鴉天狗のハゴノキ一族に、狸人(たぬきびと)のユキヒメ一族。彼らは一応、この村の傘下ということになっているが、実際はエータに従っている」


「このままでは指揮系統に乱れが生じると思っての。今でも、ブライとエータの二人に決定権が別れておるじゃろ? これを一本化したいんじゃ」


「はぁ⋯⋯」


 すっっっごい嫌!!!と、内心穏やかではないエータ。


 そもそも、アイテムボックスが自分しか使えない以上、いちいちブライに許可を取っていたら時間もかかるし負担になると思って、外交の決定権を貰っていたに過ぎない。


 それがなぜか、あれよあれよという間に250人の家臣を持ってしまった。(現在進行形で増加中)


 本来なら、ハゴノキ一族のこともユキヒメ一族のことも丸投げしたいのである。


 そこに村長まで??願い下げだ。


 しかし、そんなエータの思惑を完全に理解しているであろう二人は続ける。


「君がやりたくない気持ちはよく分かる。でもね、こういうのはやりたいとか、やりたくないとか、そういう話じゃ無いんだよ」


「亜人種の者たちはブライとエータ、どちらに従えば良いのか混乱しておる。そもそも、バスティの使徒ではないブライを認めておらん者もおるじゃろう。ワシとブライは、お主が責任を持って村長をやるべきじゃと考えておる」


「ぐっ⋯⋯」


(そんなこと突然言われても、社内で干されて万年ヒラだった俺に務まる訳が⋯⋯)


 エータの心にトラウマがよみがえる。

 そんなエータを見て、ブライは優しい口調で切り出した。


「エータ、安心してくれ。私たちが居る」


 それに続けてダストンも⋯⋯。


「そうじゃ。何もすべての責任を押し付けようって訳じゃ無いわい」


「でも⋯⋯」


「私たちの村の運営に不満はあったかい?」


「⋯⋯⋯⋯」


 あるはずがない。だからこそ、ブライが村長をやるべきでは無いか。と、思ったが、それを言ってもムダだろう。


 バスティの使徒である以上、避けては通れないか。


 エータは、諦めるように口を開く。


「ブライ、ダストンさん。俺、かなり間違うと思うけど⋯⋯すぐ凹むと思うけど⋯⋯。支えてくれる?」


「当たり前じゃ」


「エータ。君が私にしてくれたように、ずっと君を支えるよ。必ず」


 その二人の言葉に「逃げ場は無いな」と、思い知ったエータは、覚悟を決めた。


「わかった⋯⋯そこまで言うなら形だけでも村長になるよ」


 エータが言った。

 その瞬間だった!!


「「イェーーーーイ!!!」」


 ブライとダストンがハイタッチ!


「⋯⋯⋯は?」


「いやぁー! これで重責から開放されるよ! よっ、村長!!」


「バカ言えブライ! お主は副村長じゃろがい! ワシは副村長からも解放じゃ!! 完全にフリーじゃ!! はぁぁー肩の荷が降りたわい!!」


「お、お前ら⋯⋯」


 こ、こいつらぁぁ!!もっともらしい事を言って本音はそれかぁぁぁ!!エータはぷるぷると怒りに震えた。


「まぁまぁエータよ! 酒でも飲んで忘れんかい! ほれ!!」


「ヤケ酒しか心の安寧(あんねい)は無いのか。俺は」


「ハッハッハッ! これが運命ってヤツだね! あっ、そういえば⋯⋯」


 ブライが思い出したように言う。


「エータ! 君、この村のことを勝手に『ブライ村』と言っているだろう!!」


「えっ!? いや、だってこの村、名前無いし。不便だから⋯⋯」


 ブライは「はぁぁぁ⋯⋯」と、ため息をついている。


「そのせいで私は『ブライ村のブライ村長』だぞ! 自分の村に自分の名前をつけたイタイ奴みたいじゃないか!」


「ぷっ!!」


 思わず吹き出すエータ。


「笑い事じゃない!!!」


 ダストンが必死に笑いをこらえながら酒を机に置く。


「い、良いでは無いか。ブライ村⋯⋯ぐふっ!!」


「今すぐ新しい名前を考えていただきたい! 私は本気だよ!!」


「えー、じゃあ⋯⋯」


 エータはお酒の入ったフラフラの頭で考える。


「バスティ様の使徒の村だから、バスティ村で良いんじゃね?」


「エータ、それは安直すぎるだろう⋯⋯」


 ブライが呆れたように言う。


「それでは、ブライ村とバスティ村を合体させて『ブバスティス』というのはどうじゃ?」


「ブバスティス⋯⋯」


「ダストンにしては良いんじゃないか? 私の名前が入っているのはいただけないが⋯⋯」


 エータはこの『ブバスティス』という名前が、不思議としっくり来ていた。

 なにか『そうであるべき』とでもあるような⋯⋯。


「決めた! 今日からこの村はブバスティスだ!!」


 こうして名無しの村は、ブライ村を経て、最終的にブバスティス村に落ち着いた。


 ――――――


 三人は遅くまで晩酌をし、エータは座ったまま机の上に突っ伏し酔いつぶれてしまった。


「良かったのかい? 寿命のこと」


 ブライはタンブラーをカラカラと鳴らしながらダストンに聞く。


「えぇんじゃ、どこでビートに漏れるかわからんからのう」


「私は、ビートくんにこそ早めに伝えるべきだと思うよ」


「ブライ⋯⋯」


 ダストンは真剣な面持ちで言う。


「いまはこの村にとって一番大事な時期じゃ。強力なモンスターが出てきておる。我が息子ながら、ビートは強い。今はあの子の力が必要なんじゃ」


「⋯⋯ビートくんがあなたの身体のことを知ったら潰れてしまうとでも?」


 ダストンは頭を左右に振った。


「大丈夫じゃよ、乗り越えられる。信じておる。⋯⋯しかし、今では無い」


 ブライはフンッと鼻で笑った。


「ダストン、あなたが怖いだけでしょう」


 ダストンは「すまん、そうかも知れんのう」と小さく返した。そして、


「とりあえず、副村長という責任は降りた。エータには悪いことをしたのう。ワシが死ぬ前に⋯⋯出来ることは全て終わらせんと⋯⋯」


 そんなダストンの姿を見ながら、ブライは自身の無力さを嘆いた。


 ――――――


 後日、正式にブライからエータへ村長が渡される事となった。

 ハゴノキ一族、ユキヒメ一族にも来られるだけ来てもらい、エータはブバスティスの集会所に新しく設置された新品のステージでスピーチをすることに。


「この度、このブライ村改め、ブバスティス村の村長となりました! 宮下瑛太(みやしたえいた)です! ブライから引き継ぎましたが、みなさんの生活に大きな変化は無いと思います! ブライにはこのまま、村の相談役として活動していただきますので、みなさん! 彼にドンドン頼ってください!」


 会場からチラホラと笑いが起きる。


「俺は、女神バスティ様の使徒です。みなさんの生活を助ける力を持っています。ですが、そんなのは関係ありません! 俺は、バスティ様の使徒で無くても、アイテムボックスの力が無かったとしても、人間と亜人の交流に尽力し、みんなの住む場所の発展のために駆けまわっていたと思います!」


 会場に居るみんな⋯⋯。

 特に、村人と鴉天狗の人たちは大きくうなずいた。


「それは一重に、みんなが好きだからです! 大好きだからです!!」


 エータは自分の想いを、拙いながらも正直に伝えた。


「俺は差別とは無縁の世界に居ました。だから、こんな綺麗事を言えるんだと思います。俺の無責任な言葉に心を痛める人も居るでしょう⋯⋯。でも、諦めたくありません! 人間と亜人はわかりあえる! 俺はそれを証明したい! その為に、これからも俺に力を貸してください!」


 エータの言葉に、ビートは「ったりめぇだろ」と叫んだ。

 そして、ドロシー、イーリンも


「同じ人類で手を取りあいましょう!」

「亜人の、魔技(スキル)、教えて欲しい!」


 と、続いた。


 その声に、ブバスティスの面々も、種族を超えて、


「こうやって仲良く出来てるし、きっと大丈夫だよな!」

「そうね、私たちが証明していきましょう!」


 と、話している。


 エータは続けた。


「俺は無職(ニート)です! ジョブ持ちのみなさんにはステータスで勝てず、戦闘では役たたずです! 狩りも、農作も、裁縫も、家畜の世話も! 何もかも、みなさんに頼らないといけない男です!!」


 その場に居る全員が、真剣にエータを見ている。


「ですが! この気持ちだけは負けない! ここに誓います!! 俺は、人間と亜人種の⋯⋯! 人類の共存を諦めない!! みんなで安心して暮らせる世界を最後まで目指します!!」


 フィエルが「共に目指そう⋯⋯」と、呟いた。

 その横顔を、ライオがじっと見ている。


「戦うチカラの無ぇヤツになんでコイツらは⋯⋯」


 ライオは、エータの方を向き直した。


「こんな村長ですが! よろしくお願いします!!」



 ――割れんばかりの歓声と拍手の海。



「見せてもらうか⋯⋯ここまで啖呵(たんか)切ったんなら⋯⋯」


 ライオも含み、ここに居るほとんどの人が、エータの目指す道に希望を見出した。


「亜人種との共存⋯⋯」


 ただ一人、花飾りをつけた女性を除いては⋯⋯。


 ――――――


 コクシ大陸、南西。

 四方を山々に囲まれた小さな村に、人類共存を謳う『ブバスティス』という村が誕生した。



「あっ! それと!!」



 ん?まだ何かあるのか?と、全員がエータの方を見る。


「村長になった以上、みんなに隠し事したくないから言うんですが⋯⋯。こっちの世界に来る前は42歳でした!」



 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。



 ――どぅええぇぇーー!?



 歓声よりも大きなどよめきが村中に響き渡った。

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