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第058話〜風宝細剣〜

 グガランナとの戦闘が終わり、ディアンヌが治療に追われている。

 エータたちは、マナを使いきって動けないクロウガの元へ集まった。


「助力、感謝いたします。ハゴノキの里が壊滅する所でございました」


「いえ、犠牲者が出なくて本当に良かったです」


 エータは、横になったクロウガと固く握手をする。


「なぁ、さっきのフィエルのアーツドライブってなんなんだ? お前、調教師(テイマー)だし、剣撃特攻(ソードエフェクト)も持ってないだろ?」


 ビートが切り出す。


「それは、この剣のチカラだな」


 フィエルは腰からすらりとレイピアを取り出した。


「ハネチヨからいただきましたの? 美しい剣ですわね」


 ドロシーは、クロウガに寄り添うハネチヨの方を見る。


「そ、それは⋯⋯」


 ハネチヨは気まずそうに言い淀んでいる。

 どうしたというのだろう。

 一同が疑問に思っていると、


「いーよ、説明しても。かくれんぼはもう終わりって事で」


 突然、長い金髪をボサボサにしたエルフがやってきた。


「い、良いのですか? マスジェロ様」


 クロウガは動かない身体に鞭を打ち、上体を起こしてマスジェロに問う。


「あー、隠居生活にも飽きたしな。ちったぁ陽の光も浴びねぇと早死にしちまう」


 マスジェロと呼ばれたエルフは、あくびをしながら身体を伸ばしている。


「俺様はマスジェロ、見てのとおり高貴なエルフだ」


 腹をポリポリとかいているマスジェロ。


(((高貴なエルフ⋯⋯?)))


 一同は、心の中でハモった。


「どこがだよ、こぎたねぇおっさんじゃん」


(((ビートぉぉぉー!!)))


 デリカシーというものをバスティ様の元に置いてきたであろうビート。

 ズケズケとマスジェロに言う。

 鴉天狗一族に緊張がはしる。


 すると、マスジェロは「あっはっはっ!!」と、大笑いをし、


「てめぇ! 気に入ったぜ! そーだ、エルフなんてモンはな。産まれながらに高貴じゃねーんだ! 特に俺様みてぇなこぎたねぇおっさんはな!」


 と言った。

 どうやら、ビートのことを気に入ったようである。


「おもれーな! おっさん!」


 波長が合うのか、ビートも「あっはっはっ!」と笑った。


 その様子を見て、クロウガたち鴉天狗一族は「ホッ」と肩を撫で下ろしている。


「それで、あなたは何者ですの?」


 ドロシーが問う。


「そのお方は⋯⋯」


 クロウガが口を開く。


「そのお方は、エルフには珍しい鍛冶師。マスジェロ様です。フィエル殿の持っている剣⋯⋯風宝細剣(エルフィンレイピア)。そして、我が一族にくださった宝扇(ほうせん)黒羽団扇(くろばねうちわ)』を造ったお方でございます」


 ざわつくエータ一行。


「あのとんでもない団扇(うちわ)と剣を!?」

「マナが尽きたフィエル、すごい風、操ってた!」

「魔道具や魔道武器が造れるってことだね〜?」


 その声にマスジェロはまんざらでも無い様子だ。


「おうおう、俺様の作品の良さがわかるたぁ見る目があるじゃねぇか! おめぇたち!」


 よほど自分の造ったものが好きなのであろうマスジェロ。

 エータたちにべた褒めされて鼻高々である。


「エルフは種族的に『鉄』と『熱』が扱えねぇからな。俺様が【鍛冶師(ブラックスミス)】の神託を受けたときにゃあ、頭のかてぇエルフ共から白い目で見られたモンだぜ。でもよぉ⋯⋯」


 マスジェロはフィエルの剣を指さしながら言った。


「強ぇだろ? 俺様の造ったモンは」


 フィエルはこくりとうなずく。


「まるでマナのブースター⋯⋯風のチカラを何倍にも増幅してくれる」


「へへっ! 大事に使えよ」


 マスジェロはニカッ!と笑った。


 と、マナが多少戻ってきたクロウガが切り出す。


「みなさま、我が里を救っていただいた礼をしたいのですが⋯⋯」


 クロウガはグガランナの首に刺さったままのクロノハバキリを見る。


「やはり、我が里に代々伝わる名刀・クロノハバキリを差し上げたく⋯⋯。我らには、マスジェロ様からいただいた黒羽団扇(くろばねうちわ)がありますゆえ、里の防衛はなんとか継続できます」


 それは、優しいウソである。

 クロウガたち鴉天狗一族は義理堅いのであろう。

 クロノハバキリを渡してしまえば、今後、ミノタウロスやオークが壁を登ってきた際に、対処が難しくなる。

 しかし、それを恩人であるエータたちに悟られたくないのだ。


 だが、中身が良い大人であるエータは、そんなことはお見通しであった。


 そして、クロノハバキリよりも『価値のあるもの』が欲しいと感じていた。


「クロウガさん、その事なんですが⋯⋯。一つ。お願いしたい事がございます。今回の件はそれで手打ちとしませんか?」


 エータがにやりとし、クロウガに言う。


「なんでございましょう。拙僧らが出来ることであればなんなりと⋯⋯しかし、クロノハバキリより良いものは⋯⋯」


「フフフ⋯⋯それじゃあ⋯⋯」



 ――――――



 夕刻。ブライの村。


「遅い、もう日が落ちるというのに⋯⋯」


 ブライは後悔していた。

 ケイミィが居るとはいえ、やはり北の山になど狩りに行かせるべきでは無かったのだと。


 落ち着かない彼は、北口の門におもむき、エータたちの向かった山を静かに見守っている。


(早く帰ってきなさい⋯⋯)


 そう彼が祈っていると。


「ブライ! なんかがこっちに飛んでくるぞ!!」


 木で出来た生きた柵、その枝元の見張り台にいる村人がブライに叫んだ!


「なに!? モンスターか!?」


「デカい鳥と⋯⋯有翼族(ハーピー)だ!!」


「ハーピーだと!?」


 ブライに最悪のシナリオが頭をよぎる。

 まさか、エータたちが⋯⋯!


「も、ものすげぇ数だ! 50人は居る!!」


「くっ⋯⋯! 急ぎ、迎撃の準備を⋯⋯!」


 (きびす)を返し、村人たちに指示を出そうとするブライ。そんな彼を見張りが止める。


「あっ!? なんだ?? ちょっと待てブライ」


「どうした!?」


「⋯⋯ビートがこっちに手を振ってるぞ?」


 ブライは訳がわからず「ん?」と、首をかしげる。


「エータもドロシーも居る! ははっ! アイツら、ハーピーたちに運んで貰ってるぞ!!」


 その瞬間、ブライは最悪のシナリオから、最高のシナリオへと予想を切り替えた。


「なるほど⋯⋯そういうことか」


 ブライは村人たちに大声で指示を出した。


「急ぎ宴の準備を! 客人だ!!」

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