第057話〜凛と咲く華の如く〜
――ブモォォー!!
天空から堕ちてくる死。
クロウガはそっと目を閉じ、それを受け入れた。
「御館様ぁー!!」
「お逃げください!!」
「クロウガさん!!」
と、その時であった。
――宝刀風――
突如として現れる風の刃。それは、グガランナの身をうがち、明確な『ダメージ』をヤツに与えた。
思わずひるみ、その勢いを弱めるグガランナ。
間に合わないと知りつつも、クロウガに走り出していたドロシーは、状況を掴めないままだったが、
「チャンスですわ!」
と、そのままクロウガに突っ込んだ。
――ドドォンッ!!
危機一髪。ドロシーとクロウガは直撃をまぬがれる。
しかし、受身をとる余裕が無かったため、二人は爆風に飛ばされ、そのまま地面へと叩きつけられた。
「今のは⋯⋯?」
エータたちが振り返ると、遠くのほうでフィエルが凛と立っていた。
その手には、淡い緑の刀身が美しいレイピアを輝かせている。
「すまない、遅くなった」
「フィエル!? お前ケガして⋯⋯って、その剣は!?」
「これは⋯⋯」
先ほどの宝物庫のことを思い出すフィエル。
――――――
怒りに満ちた表情でフィエルの元へ寄るマスジェロ。
その手には宝風細剣⋯⋯。
「くっ⋯⋯!」
フィエルは目を閉じ、身体をこわばらせる。
ハネチヨは震えながらも、マスジェロの足にしがみつき、なんとか止めようとしている。
しかし、マスジェロはそんなことをお構いなしに進む。
そして⋯⋯。
「持っていけ」
フィエルの目の前に宝風細剣を差し出した。
「すまねぇな嬢ちゃん⋯⋯。フィエル⋯⋯だったか? お前は被害者だったんだな⋯⋯」
ゆっくりと目を開けたフィエルは、状況が掴めないでいた。
「被害者⋯⋯?」
「あぁ、良いんだ。とにかく、コイツをやる。元々お前の母親にやる予定だったモンだ。バケモンでもなんでも倒してこい」
「やる、って⋯⋯。こんな立派な剣をいただいて良いのか!?」
「だからそう言ってんだろ! さっさと行け!」
フィエルはハッとみんなの顔を思い出し、
「わ、わかった! 礼はあとで必ず!!」
そう言って、宝物庫を足早に出ていった。
その後ろ姿を見送ったあと、ハネチヨがマスジェロに聞く。
「マスジェロ様⋯⋯過去にいったいなにがあったのですか?」
マスジェロは散乱した巻物を踏まないよう、避けながら宝物庫の外へと向かう。
「ちょっとな⋯⋯」
外に出て、走りさるフィエルの背中を見るマスジェロ。
彼は、その背中に誰かの面影を見ながらつぶやいた。
「まさかてめぇの娘を他人として扱うなんてな⋯⋯どこまでも腰抜けなヤローだぜ⋯⋯」
そして、澄みきった青い空をあおぐ。
(シルフィ⋯⋯)
――――――
宝物庫での出来事を説明できないと悟ったフィエルは、
「話は後だ、まずはアイツを倒そう」
と、言って、エータたちを戦いに集中させた。
グガランナが堕ちた場所には、もくもくと土煙があがっている。
その中から、ギロリとフィエルを捕捉するヤツの姿。
――ブモォォォー!!
グガランナは怒りに身を任せ、一直線に突進してきた!
「なにか足止めできるような物は⋯⋯!」
エータは必死にアイテムボックスの中身を探る。
「エータちゃ〜ん、特別にこれ使って良いよ〜」
遠くの方でケイミィが、ポーションが入っているであろう瓢箪を振っている。
「えっ!? それなに!?」
「迷ってる時間ないよ〜」
それもそうだ!と、エータは瓢箪を収納し、猛スピードでフィエルへと向かうグガランナの目の前に取り出した。
――バシャッ!!
中身がグガランナの顔面にかかる。
――ブモッ! ブモォォォオオ!!
グガランナの顔面から赤い煙がたちのぼった。
今日一番の叫び声をあげ、苦痛にもだえ苦しんでいる。
い、いったいなんなのだ。
中身は恐ろしくて知りたくない。
「ナイスだ、ケイミィ」
フィエルはつぶやき、遠く離れたグガランナにレイピアを向けた。
「フィン、最後のマナあげる」
しゅるりと風が舞いあがり、フィンが召喚される。
「少ないなー、足りない分は貸しだからね!」
フィンはふぅーっとレイピアに息を吹きかける。
すると、レイピアは緑色の風を螺旋状に纏いはじめた。
「ありがとう。いけそうだ」
フィエルはそっと構え、瞳を閉じ、深く呼吸をする。
風の螺旋は徐々に回転を増し、キィィンという高速のドリルのような音が鳴るほどに、その殺意を高めている。
「すごい、これが風宝細剣⋯⋯。きっかけさえ作れば剣が導いてくれる」
フィエルは、グガランナに向かって優しくレイピアを突いた。
――凛咲華如――
クロノハバキリが付けた深い傷跡に、レイピアから発射された風の刺突が飛んでいく。
それは、死者に花を添えるような、とても静かな『攻撃』だった。
しかし、着弾するやいなや、爆風と共に弾け、グガランナの首に血で作られた大輪の花を咲かせた。
断末魔をあげるヒマもなく、ヤツの首が飛ぶ。
グガランナは、自らの血を手向けの花とするように、この世に別れを告げたのだった。