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第052話〜クロウガとの交渉〜

 ――ドスンッ!!


 突如として現れる大樽に入った水と塩。


「な、なんだこれは!?」


「貴様! なにをした!」


 うろたえる鴉天狗一同。

 その反応は想定内だったので、エータは構わず続ける。


「俺は女神バスティ様からアイテムボックスという能力を授かった者です。まずは、お近づきの印に水と塩を送らせていただきたく存じます」


「アイテムボックス!? まさか、そんな事が⋯⋯」


「父上! さっきエルフのお姉さんが言ってた通りでしょ!? バスティ様の使徒だって! 信じて良いんですよ!!」


「ぬぅ⋯⋯」


 クロウガはまだ信じられないと言った様子である。

 女性の鴉天狗も同様、いまだエータたちを警戒している。


(目の前で披露すればなんとかなるかなと思ったけど、そりゃそうか。さて、後もう一押しをどうするか)


 エータは思考をめぐらせる。


「エータちゃ〜ん。ウチとの約束忘れてな〜い?」


 エータが頭をフル回転させていると。

 突然、ケイミィが割って入る。


「交易は良いけど〜、村の損になる(ほどこ)しはダメって言ったよね〜? その水と塩、タダであげるつもりなの〜?」


(ケイミィ⋯⋯お前、こんな状況でも指摘して来るのな! マジで大物だよ!!)


 ここで引いてはいけない!

 エータは悪びれる様子もなくこたえる。


「あぁ、だってこれは俺の『私物』だからな!」


 えっ?という表情をするケイミィ。


「この水と塩は、俺が村に来る前に海からとり続けている物だ! だから、これは村の貯蓄とは別! ぜーーんぶ俺の物! なので、俺はこれを鴉天狗たちとの友好のために使わせて貰う! なんの問題もナーシ!!」


 エータは「わっはっはっ!」と、勝ち誇っている。


「うわ〜そう来たか〜。くそ〜村長になんて報告しよ〜」


 ケイミィの顔が、わざとらしくしおれていく。

 

 エータは(ん?村長??)と違和感を抱いた。


 その光景を見て、クロウガは「ふむ⋯⋯」と、しばらく考え込み。


「わかった。この水と塩をいただこう。すまんが、これらが安全な物とわかるまでしばし拘束は解けん。理解していただけるとありがたい」


 と、言って、女性の鴉天狗に「セツナ、男手を連れてこい」と、指示を出した。


 セツナと呼ばれた女性は「承知しました!」と、足早に階段をかけて行く。


 エータは「第一関門突破!」と、心の中でガッツポーズした。



 ――それから数分後。



 女性の鴉天狗、セツナは、数名の部下らしき者を連れてきて、一緒に大樽を運んでいる。

 エータは状況を見ながら、鴉天狗たちが持てるかぎりの水と塩を出した。


 そして、鴉天狗たちが物を見定めるために居なくなった時、


「ありがとな、ケイミィ」


 と、彼女に告げた。


「なにが〜?」


 ケイミィは口角をあげながらこたえる。


「わざと言っただろ? さっきの」


「さぁね〜♪」


 喰えないヤツだ。

 ケイミィはいつもブライの事を『ブライ』としか言わない。

 あえて村長と言った理由は一つしか無いだろう。


(ホントにありがとな、ケイミィ)


 エータは改めて、心の中で感謝した。



 ――それからさらに数十分後。



 クロウガが、フィエルを連れて戻ってきた。


「みんな! 無事で何よりだ!!」


 みんなの顔がパァッと明るくなる。


「フィエル! 鴉天狗の人たちを説得してくれてありがとう!」


「察していたか。私は亜人種だからか客間に通されてな。⋯⋯お前たちが牢屋に入れられていると聞いて、なんとか説得を試みたのだ。私一人では難しかっただろうが、ハネチヨが協力してくれてな」


 ハネチヨがフィエルの影からひょっこっと顔を出す。


「ありがと。ハネチヨ!」

「助かったぜ!」


 イーリンとビートが、友達のように言う。

 ハネチヨは少し照れくさそうに親指を立ててほほえんだ。


 クロウガは部下たちに指示を出し、エータたちの拘束を解く。


拙僧(せっそう)たちの無礼な振るまいを謝罪しよう。人間の者たちよ。この度の友好の品、鴉天狗ハゴノキ一族を代表して心から御礼(おんれい)申し上げる」


 鴉天狗一同が深々と頭を下げる。


「みな、九死に一生を得た。人間の中にも、そなた達のような者がおるのだな」


 クロウガ達の目からは、多少なりエータ達への警戒が解かれていた。


「俺たちは王国に属しておらず、差別や種族間の争いに触れていない事がおもな要因かと。亜人種に対する偏見がございませんので」


「⋯⋯⋯なるほど。歴史が無ければ偏見も無いという訳か」


(ちょっと含んだ言い方だな。でも、俺たちを馬鹿にする意図は見受けられない。きっと、歴史は大事だけど、それがあるから『世代を超えた確執』が産まれてるっていうジレンマを(うれ)いてるんだろうな⋯⋯)


 と、悠長(ゆうちょう)に話をしている場合ではない!

 エータは思考を切りかえた。


「クロウガさん、急ぎ耳に入れたい事が⋯⋯。俺たちの中に探知(サーチ)を使える者がおりまして、その者によるとミノタウロスがここに近付いているようなのです」


 慌てた様子で報告したエータだったが、鴉天狗たちは冷静である。


「こちらでも捕捉している。ただ、安心めされよ。いつもの事なのだ」


「いつもの事?」


「あぁ、ここいらは長く資源不足でな⋯⋯。食料を求めて牛顔(うしがお)共がよく山を登ってくる。翼のある我々しか来れないような、こんな切り立った山でもだ」


 クロウガは悲しそうに遠くを見つめる。


「ここから北方にある山が大きな山火事になった事があってな⋯⋯その影響で川が一つ無くなってしまったのだ。おかげで飲み水も食料も大幅に減り、北の山は過酷な地へと変貌(へんぼう)してしまった」


 山火事⋯⋯。

 プリース王国の人間がしたであろう、エルフをあぶり出すための焼き討ち⋯⋯。

 それが、エルフ達の命だけでなく、ここら一帯すべてに悪影響を及ぼしている⋯⋯。

 同じ人間として、受け入れがたい事実だ。


「さて、交易の話だが、ここでは何だ。拙僧の屋敷へと案内しよう」


 そう言って、エータ達はクロウガに連れられて屋敷へと向かう事になった。

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