第051話〜鴉天狗一族〜
――背中の翼で大空を舞うハネチヨに連れられて、北の山へと進むエータたち。
なんと、空路を進んでいる!
アイテムボックスを使い、木とツタで大きなブランコを作成。三足鴉のヤタにそれを掴んで貰い、イーリン、ディアンヌ、ケイミィが乗っている。
そして、エータ、ビート、ドロシー、フィエルは、フィンの風を足にまとい、大きくジャンプしながら進んでいるのだ。
フィエルのマナの消費が激しいため、あまり長時間は無理らしいが、急がないと約束の日没までに帰れないので仕方なく。
「ウッヒョォ! 楽しいなコレ!!」
ビートがはしゃぎながら落ちていく。
「フィエルはいつもこんな景色を見てたんだな!」
まるで重力のすくない惑星に降りたったように、ジャンプすると大きく大きく飛び上がることが出来る。
とても楽しい。
「この能力に何度助けられたかわからない。本当にフィンには頭が上がらないよ」
フィンはフィエルの肩で「これでもか!」と、ドヤ顔している。
「それにしても、この山脈広すぎねぇか!?」
ビートの言う通り、本当に北に都市があるのか疑いたくなるほどの険しい山々。
王国の中枢にいた面々がゴッソリ脱走したにも関わらず、十数年も追っ手が来ないのも頷ける。
モンスターを倒しながらこっちまで追っ手を差し向けるなんて、きっと簡単ではないのだろう。
「見えてきたよ! あれが僕の住んでるハゴノキ山!!」
ハネチヨが指をさす。
その方向には、鋭く尖るように生えた山があった。
ハネチヨの言う通り、その山から何かを焼くような煙が見えており『そこに誰か住んでいる』と言うのが見て取れる。
山に近づくため、エータたちは大きく大地を踏みしめ、天高く飛びあがる。
――と、いきなり突風がエータたちを襲った!
「こりゃまずいぞ! 一旦降りよう!!」
「ダメだ! 間に合わねぇ!!」
「うわっ!!」
エータたちは突風に煽られて、激しく回転しながら上空へ打ちあげられる。
「父上やめてください! この人たちは良い人間さんなんです!!」
ハネチヨが叫ぶが、何者かの『攻撃』は止まない!!
突風がおさまったと思いきや、今度は大きな竜巻が襲いかかってきた!!
「フィエル! どうにか出来ないか!?」
「ダメだ! マナが足りない!!」
「くそっ! 空中じゃ抵抗できねぇ!」
「飲みこまれますわ!!」
――うわぁぁー!!
エータ一行は竜巻の中へと吸いこまれた。
――――――
ジメジメとした空気が肌をなでる。
土とカビのすえた匂いで目が覚めるエータ。
「ここは⋯⋯?」
どうやら、牢屋に入れられたようだ。
手足をしばられている。
アイテムボックスがあるため、拘束も牢屋も意味を成さないのだが、勝手に動くと事態が悪くなる可能性がある。
エータはとりあえず、状況確認からはじめることにした。
ビート、ドロシー、イーリン、ディアンヌ、ケイミィ。みんな、エータと同じように手足をしばられて気を失っている。
「フィエル? ⋯⋯フィエル!!」
エータはエルフの彼女が居ないことに気づき、大きくうろたえた。
しかし、監視が居るかも知れないと冷静さを取り戻す。
恐る恐る、牢屋の格子に近づき、奥を見る。
どうやら、この地下はまだまだ続いているようだ。
とりあえず、向かいの牢屋にはフィエルは居ない。
ちいさな声で隣に呼びかけたが返事がないので、こちらも同様だろう。
エータは監視が居ないか、もう一度辺りをよく見回し、アイテムボックスで壁に小さな穴を空けた。
⋯⋯やっぱり居ない。
どうやら、フィエルだけ別の場所に連れていかれたようだ。どうする?
「そうだ! 探知!」
エータは、ビートの身体を足でゆさぶった。
「⋯⋯ん、あれ? クセェな⋯⋯」
「ビート、大声出すなよ。俺たちはいま捕まってる⋯⋯」
「なっ! ⋯⋯にぃ?」
「大丈夫だ。いざという時はアイテムボックスで逃げられる。ただ、一つ問題があってな。フィエルが居ないんだ。探知で見つけられないか?」
ビートは難しい顔をしている。
「探知は『モンスター』や味方に対する『害意』に反応するアーツだ。だから、味方は探せねぇ。でも、フィエルに何かしようとしてる奴が居たら見つけられっかも」
「そうか、だから俺が村に来た日、助けに来た俺たちにビートが気付いてなかったのか⋯⋯。さっきのヤタのときも反応してなかったしな」
「あぁ、アーツで契約したって言ってたし、ハネチヨが調教師なんだろうな。野生のモンスターじゃない上に、水が欲しかっただけだから反応しなかったんだ」
「とりあえず、フィエルの無事だけ確認できるか?」
「おっけ! 任せろ!」
ビートは目を閉じて神経を研ぎ澄ませる。マナを大量に消費しているのか、身体がうっすら輝いていた。
「⋯⋯範囲を広げて見たが、近くに敵意みたいなモンは感じねぇな。ただ⋯⋯」
「どうした?」
「この場所から15キロ先、結構な量のモンスターが居るぜ? 反応からして、たぶんミノタウロスだ。真っ直ぐこっちに向かって来てる」
「ミノタウロスの群れ? それってヤバいんじゃないか?」
「あぁ、二体倒すのに結構なマナ使っちまったからな。大群だと対処できねぇかも⋯⋯。それに、フィエルのマナも尽きかけてたし⋯⋯ちとマジィぞ」
どうする?
今すぐ抜け出してフィエルを探して逃げるか?
そんな事を考えていると、コツコツと階段を降りてくる音が聞こえてきた。誰かが牢屋に来たらしい。
「ビート!」
エータはビートに合図を送り、二人で気絶したフリをした。
「まだ寝ておるのか、本当に大丈夫なのか? ハネチヨ」
「父上! この人間さんは良い人たちですよ!!」
「ふむ、エルフの娘もそう言っておったしな。それに、バスティ様の使徒だとも⋯⋯。話だけでも聞くべきか」
男がそういうと、気の強そうな女性が怒号をあげた。
「⋯⋯おい! 貴様ら! 起きろ!!」
その声を合図に起きる面々。
「フンッ⋯⋯何人かは狸寝入りだったか。いま錠を開けてやる。変な事は考えるなよ」
「父上、それはあまりに失礼すぎます⋯⋯」
(おいおい、なんか雲行き怪しいぞ?)
そう思いながらエータは、ハネチヨが『父上』と呼ぶ者を見る。
身長は170センチほど、ハネチヨと同じく漆黒の肌に黒い翼をたずさえ、山伏の衣装を着た男が立っていた。
その横には、護衛であろう、同じく漆黒の肌に黒い翼を持つ女性が。
「人間よ、我が息子。ハネチヨを牛顔共から助けてくれたそうだな。⋯⋯感謝する。拙僧の名はクロウガ。この鴉天狗の里『ハゴノキ』の長をしている」
クロウガと名乗った男は頭を下げた。
どうやら、まったく話が通じないという訳ではないらしい。
「俺たちはここから南の山間に住んでる者です。突然の来訪失礼します。ハネチヨからこの里が食糧難だと聞き、交易に来ました」
「交易だと?」
クロウガは怪訝な表情を浮かべる。
(そりゃそうか。飢餓に苦しむくらい何もないって言ってるのに交易も何もあったもんじゃないしな。⋯⋯ただ、ケイミィが睨みを効かせてる以上、村で作った物をタダって訳にはいかない)
ここでエータは、なぜかニヤリと笑った。
(『村で作った物』はな!!)
「アイテムボックス!」
「な、なんだ!?」
おどろく鴉天狗一族を後目に、エータはアイテムボックスの中から、木の樽にはいった水と塩を大量に取り出した!




