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第050話〜羽千代〜

 地面に頭をつけながら土下座する亜人の子。

 突然のことに顔を見合わせるエータたち。


「何があったんだ? あの三足鴉と関係があるのか?」


 フィエルは真剣な面持ちで男の子に聞く。


「うん⋯⋯」


 ――エータたちは、とりあえず三足鴉をディアンヌの治癒(ヒール)で治し、男の子に事情を聞いた。


「僕の名前はハネチヨ、鴉天狗(からすてんぐ)という有翼族(ハーピー)だ。この大きなカラスはヤタ。僕がアーツで契約した相棒」


 三足鴉のヤタは、ちいさく鳴いた。

 ハネチヨは、


「先ほどは牛顔(うしがお)から助けていただき、感謝の言葉もございません!」


 と、頭を深々と下げる。


(小学生くらいなのにしっかりしてるなぁ)


 エータは感心した。


「それで〜? な〜んでウチはあんな怖い思いをさせられたのかな〜?」


 大人気なく威圧するケイミィ。


(お前⋯⋯マジで止めとけって⋯⋯)


 一同は、じとーっとケイミィを見る。

 ハネチヨは「ひっ!」と、恐怖で固まってしまった。


「だいじょぶ。ケイミィ、本当は怒ってない。ハネチヨ、危険な事した。私たちだから良かった。他の人だったら危険。心配して言ってるだけ」


 めずらしくイーリンが芯をくったことをいう。これにはケイミィも「まいったな〜⋯⋯」と言った表情である。


 そのやり取りを見て、ハネチヨはおずおずと口を開いた。


「み、水が欲しくて⋯⋯」


「「「水??」」」


 一同は声を揃えていう。

 ハネチヨは気まずそうに話を続けた。


「この山のさらに北も、大きな山脈が続いてて⋯⋯僕たち鴉天狗はその山々の恵をいただいて生きてたんだ⋯⋯。でも、僕が産まれるちょっと前に北の山が人間に焼かれちゃったらしくて⋯⋯それで⋯⋯」


「鴉天狗たちは水すらも満足に飲めない生活になったと⋯⋯」


 エータの問いかけにハネチヨはこくりとうなずいた。


「山脈を超えたもっと北の山⋯⋯」


 フィエルが顎に手を当てて考えている。


「なにか心当たりがあるのか?」


「いや、実際に見た訳じゃないんだが⋯⋯。昔、北から逃げてきたエルフを山脈から護衛した事があってな⋯⋯。エルフには迷いの森を作り出す秘術があるのに、どうやって人間に襲撃を受けたのだろうと疑問に思っていたんだ⋯⋯でも、その話を聞くと⋯⋯」


「まさか⋯⋯人間が山を丸ごと焼いた⋯⋯?」


「あぁ⋯⋯もしかしたら⋯⋯。それなら、木を曲げて侵入者を惑わせる術など、意味をなさないからな⋯⋯」


「サイテーですわ⋯⋯」


 ドロシーが心底腹立たしいという顔で言う。

 エータたちはギュッと拳を握りしめた。


 ただ、フィエルだけ、その心境は複雑であった。


(その部隊を率いていたのは⋯⋯たぶん⋯⋯)


 フィエルは目線だけをビートに向けていた。


 そんな各々の想いなどカンケーないと言いたげに、ケイミィが圧をこめて口を開く。


「それでウチが水を飲んでたから奪おうとしたんだね〜?」


「ひっ! ご、ごめんなさい⋯⋯」


「いや〜ヤタ? だっけ。撃ち落とされて良かったね〜。もし上着を持っていって、鴉天狗たちが水と間違えてコレを飲んでたら大変なことになってたよ〜」


 ケイミィが上着から瓢箪(ひょうたん)を取り出す。


「うわっ⋯⋯それは想像しただけで怖ぇな⋯⋯」


 ビートは両手を抱いてブルブルと震えた。


「みなさん、鴉天狗たちを助けませんか?」


 ディアンヌが言う。


「俺も思ってた。資源ならたくさんあるし、それに⋯⋯同じ人間がした事ってなると放っておけない」


 「だよな? みんな!」と、エータはみんなに問いかける。


 一同は「とーぜんでしょ!」と言いたげに力強く頷いた。

 ただ一人をのぞいて⋯⋯。


「ん〜お目付け役のウチとしては〜ちょおっと賛成できないかも〜」


「えっ? なんでだよ」


「だってさ〜同じ人間がやった事とはいえ、ウチらには無関係じゃ〜ん? それに無償でってのがちょっとね〜。ウチらだって〜つい最近まで餓死寸前だったし〜。いつまた同じ状況になるとも限らないし〜。貴重な備蓄を渡すのは気が引けるっていうか〜」


「あーもう! わかったよ!」


 エータは頭をかきながら言う。


「無償じゃダメなら交渉すれば良いんだろ!?」


「そそ〜! そうじゃないと〜交易に来てるあの白髪の亜人さんにも失礼じゃな〜い?」


「うっ⋯⋯痛いところ突いてきやがる⋯⋯」


 ケイミィにすっかり論破されたエータ。


 そんな訳で、エータたちはとりあえず、鴉天狗たちの集落へ行くことになった。

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