第049話〜黒い翼の男の子〜
――三足鴉の落ちた場所まで走る一行。
「おい! 探知になんか引っかかった! 三匹だ!!」
「三匹!? カラスが仲間でも呼んだのか!?」
「いや、たぶん違う! 反応がデケェ! こいつは⋯⋯!」
「もうすぐカラスの落ちた場所に着くぞ!!」
草木をかき分け、ひらけた場所に出た!
そこには、倒れた大鴉をかこむ体長2メートルを超えるミノタウロスが三体。
そして、ミノタウロスからカラスを守らんとする、漆黒の肌の小さな亜人の男の子の姿。
なぜ亜人とわかったかと言うと、彼の背中に三足鴉に酷似した美しい漆黒の翼が生えていたからである。
「く、来るな! 牛顔! ヤタに近付くな!!」
男の子が必死に叫んでいる!
全員一言も発さなかったが、考えるまでもなく『男の子を助けるための行動』を開始していた。
ドロシーは身体強化で速度をあげ、一体のミノタウロスの背中に思いきり回し蹴りをくらわせる。
ーー白鳥の湖ーー
ブモォォ!!と吹き飛んでいくミノタウロス。
それに気付いた別のミノタウロスが、ドロシーに向かって拳を振りおろす。
――氷柱豪雨――
ドロシーが殴られるすんでのところで、ミノタウロスの腕にツララを突き刺し、攻撃を止めるイーリン。
すると、旗色悪しと見た一体のミノタウロスが、黒い翼の男の子を抱えて逃げようとする!
「てめぇ! 卑怯な真似すんじゃねぇ!!」
ビートは目にも止まらぬ速さで一本の矢を高速で放った。
――狼牙――
男の子を抱えたミノタウロスは後頭部を矢で貫かれ、絶命したことにも気付かずその場に倒れた。
腕にツララの刺さったミノタウロスは、もう一方の手でそれを抜き取り、ドロシーに向かってそれを突き刺そうとしている。
「遅い!!」
――妖精之風ーー
ツララを持ったミノタウロスの腕を、風の矢でちぎり飛ばすフィエル!
両腕を負傷したミノタウロスは苦痛の声をあげている!
そんなミノタウロスを見て、ドロシーは右足にマナをこめ始めた。
その足は煌々と光を放つ!!
「ごめんあそばせ?」
――燕蹴撃――
身体強化で強化された右足は、ミノタウロスの顎を思いきり蹴りあげ、その巨体を大きく宙に浮かせる。
そして、集中力を高めていたイーリンがそこに渾身の魔法を放った。
「バイバイ」
――巨大氷柱――
仰向けに倒れようとするミノタウロスの背中に、地面から生えた巨大な氷の柱が突き刺さり、ミノタウロスのお腹に大きな風穴が空いた。
最初にドロシーに蹴飛ばされ、遠くでそれを見ていたミノタウロスは「ブモォォ!!」と恐怖の声をあげ、山の奥へと逃げていった。
「おい! 大丈夫か!?」
エータは走りながら、ミノタウロスの下敷きになっている男の子に呼びかける。
「く、来るな!!」
男の子は自力でミノタウロスの死体から抜け出し、腰が抜けたのか仰向けに倒れたまま、刀のような物をこちらに向ける。
どうやら、警戒されているようだ。
「に、人間め! それ以上近づいてみろ! ぼ、僕が斬ってやる!!」
そうだった、人間って亜人種の敵だった。立ち止まり、大きくため息をつくエータ。
「フィエル、頼めるか?」
「あぁ、任せてくれ」
フィエルは男の子に近付く。その間に、エータはみんなが倒したミノタウロス2体の死体をアイテムボックスに収納した。
「怖がらせてすまない、私の名はフィエル。南の山のエルフだ。君と同じ亜人種だな」
フィエルは前かがみになり、男の子の目線に合わせて優しく話しかける。
「え、エルフだって!? ウソだ! なんでエルフが人間なんかと!!」
男の子は刀を構えたまま叫んだ。
その声は恐怖でガタガタと震えていた。
「話せば長くなるが⋯⋯端的に言うと、人間にも良い人は居るって事だ」
「い、良い人⋯⋯?」
「あぁ、そうだ。人間に悪い人が居るように、亜人種にも悪い人がいる。亜人種に良い人が居るように、人間にも良い人が居る。それだけの事なんだ。だから、私は彼らと行動を共にしている」
「そう⋯⋯なのか⋯⋯?」
男の子はゆっくりと刀を降ろす。
「あぁ、エルフの誇りに賭けて誓おう。この者たちは『良い人』だ」
フィエルは倒れている男の子に、右手を差し出した。
「エルフにはお世話になってるし⋯⋯信じてみても、良いのかな⋯⋯」
そう言って、フィエルの手を取って立ち上がる有翼の男の子。
「アイテムボックス!」
エータは、男の子についたミノタウロスの血を収納してあげた。
男の子はかなり驚いていたが「そんな場合じゃない!」と言った様子で、こちらに向きなおす。
「い、良い人間たち!!」
そう叫ぶと、男の子は頭を地面にこすりつけて土下座した!!
「助けてくれ!!」