第047話〜食育〜
バハスティフに本格的な夏がやってきた!
気温がぐんぐんと上昇し、草木は萌え、西の山は青々とした森へと順調に回復している。
農作物は、アイテムボックスで綺麗な水と肥料を潤沢にあたえられ、雑草や害虫に成長を阻害されることもなく、さらに、村人たちのジョブの効果もあって大豊作となった!
「メシだメシーー!!!」
集会所にビートの元気な声がひびく。
集会所はさらに改築が進み、壁が厚くなり床がひかれている。
ピザ窯やパン窯を複数用意し、屋根には煙突を設置。
ピグリアムだけでは手が回らなくなってきたので、村の女性陣も料理の手伝いや食材のチェック。
発酵食品の開発などを手伝っている。
「今日もボクちんの最高の料理を堪能してねぇー!」
ピグリアムは嬉しそうに叫ぶ。
先日、エータはピグリアムと相談し、現世で見たことのある食べ物を片っ端から教えた。
和食、中華、フレンチ、アメリカン、イタリアン⋯⋯。
バハスティフには前の世界にある食材が数おおく存在する。
そのため、あちらの料理がこちらでもいくつか存在していたのだが、やはり文明の進み具合が違うので簡素である。
結果、エータの知識により『ピグリアムの料理のレパートリー増加とレシピのパワーアップ』に成功したのだ。
「ハンバーガーとフライドポテトうんめぇぇー!」
「ビートはそればっかだな」
「エータも魚の煮付けと漬物ばっかじゃん!」
「40超えるとこういうのが美味しくなるんだよ」
「は? 何言ってんだおめぇ」
「い、いや! なんでもない!!」
あぶねーあぶねー!!思わず実年齢ネタ言っちまった!と、エータは冷や汗をかいた。
「おや、お前たちも昼食か?」
「ビートはまたハンバーガーですの?」
「エータくんはいつも魚ですねぇ」
「私、お肉、好き」
エータとビートの隣にある四人席に、フィエル、ドロシー、ディアンヌ、イーリンが座った。
「これがいっちばん美味ぇんだ!」
ビートはニカッと笑う。
「ビートお兄ちゃん、わかる。イーリンもお肉、好き!」
フライドチキンのような物を掲げてはしゃくイーリン。ビートとイーリンは料理を頬張りながらビシッとサムズアップし合っている。
「フィエルはサラダなんだな」
「あぁ、肉や魚はどうも舌が合わなくてな。基本的に野菜やキノコしか食べない。非常時は干し肉なども食べるがな」
(((それでそのスタイルなんだ)))
全員がそう思った。
それを察知してかフィエルは「ど、どこを見ていりゅ!」と胸を隠す。
「ドロシーはバランスが凄く良いね」
ドロシーのトレイには、パン、スープ、サラダ、茹でたコッカァのササミ、カヌミの実が一切れ乗っている。
「淑女たるもの、口にする物には細心の注意をはらうのですわ!」
「言動はガサツだけどな」
ビートがポツリと呟く。
ドロシーが目を真っ赤にして「フーッ!フーッ!」と、スーパーでサイヤなオーラを放っている。
それをディアンヌが「お食事の席ですから、ね?」と冷や汗をかきながら窘めた。
「ツッコむべきか迷ったんだけどよ」
ビートが切り出す。
「ディアンヌ⋯⋯それ、全部食うのか⋯⋯?」
ディアンヌのトレイにはラーメン、餃子、チャーハン、野菜炒め、コッカァの唐揚げ、ピーマンの素揚げ、デザートに杏仁豆腐らしき物、そして、カヌミのジュースが乗っていた。
「あっ、えーと⋯⋯きょ、今日は午後食べません! から!!」
「そんな食べ方すると身体に悪いよ、ちゃんと午後も食べないと」
エータから発せられる悪魔のささやき。
ディアンヌは「えっ!? で、でも⋯⋯」と、遠慮がちにうつむいた。
「ディアンヌの治癒魔法はいつ必要になるかわからないんだ! 非常時でもフルパワーを出せるように備えておく必要があると、俺は思う! みんなの命に関わるからね!!」
エータは政治家よろしくな強い口調で、ディアンヌに訴えた。
「な、なるほど! その通りですね!!」
(うんうん、わかってくれたようだ。女の子は太ければ太いほど良い! 古事記にもそう書いてあるって俺のじいちゃんが言ってた! 知らんけど!!)
と、ムチムチ大好きなエータは考えている。
そんなエータを見て、ドロシーが冷たい目をしている。
「エータって、スケベですのね」
「ドキィ!! な、なんの事かなぁ!?」
「人間の世界では、女性にたくさん食べさせるのはスケベな事なのか?」
フィエルが純新無垢な瞳でドロシーに問う。ドロシーは「さぁね〜」と、サラダを食べはじめた。
そんなやり取りがおこなわれている中、ディアンヌは美味しそうにチャーハンを食べている。
どうやら、食事に集中しすぎて聞こえていなかったようだ。エータは心底ホッとした。
――食事を終えて。
ディアンヌは血糖値が爆上がりしたのか幸せそうにポヤーっとしている。そんな中、ビートが切り出した。
「そういやさー、最近なんだか力がみなぎる感じがすんだよな」
「あら、ビートもですの? わたくしも調子が良くて身体強化をしたまま裁縫してますのよ」
「お前たちもか、私も弓の調子が良いんだ」
「私も、冷凍庫、ひやしすぎた。この間、ピグリアム凍った」
ん?調子が良い?エータは気になって聞いてみた。
「栄養失調のデバフが無くなったからじゃなくて?」
ビートは「うーん」とうなっている。
「そこから更にパワーアップしたって感じか? 俺たちだけじゃなくて、村のみんなもそうなんじゃねぇかなぁ。豊作があるとは言え、こんなに食材が採れるなんて異常だし。ジョブやアーツの効果も上がってそうだぜ?」
そういえば、ビートは腕の筋肉が一回り大きくなったし、ドロシーはさらに肌の血色が良くなった気がする。
イーリンの髪の毛はより黒々と光沢をましたし、フィエルとディアンヌは⋯⋯。
うん、目のやり場に困る。
「それはねー! ボクちんの料理を食べてるからだね!!」
突然、後ろから声が聞こえてくる。それは、食後のお茶を持ってきてくれたピグリアムだった。
「なんだ? ピグリアムの料理を食べるとパワーアップするのか?」
ピグリアムは「そだよーん」と答える。
「ボクちん、食育のアーツを持ってるからね! エータがレシピを改良してくれたから、みんなのステータスがかなり上がってるはずだよーん!!」
「えっ!? それ本当かピグリアム!! じゃあごはん食べてるだけでパワーアップするの!? 俺たち!!」
エータは驚きの声を上げる。
「だねー! 特に成長期のみんなはね!! 王宮にいた頃は王様や年配の貴族ばかり相手にしてたから宝の持ち腐れだったけど!! ハハーッ!! いまはみんなが元気になっていくのを間近で見られるから楽しいよぉ!!」
一同は空いた口がふさがらない。
「と、とんでもねぇチート能力じゃねぇか! こんな人材を王宮の料理人にしてたプリース王国って本当に頭悪いんじゃないか!? 子供食堂の料理人にしてたら最強国家が爆誕すんだろ!!」
エータは改めて、ブライ達が国を捨てたことに納得した。
「だねー⋯⋯。ボクもそう思うよ。王宮料理人をしてた時は本当に地獄だったから⋯⋯」
ピグリアムが一瞬だけ、いつになく真剣な表情を見せた。
(既得権益と私利私欲で国益のことなんか一ミリも考えてねぇんだな⋯⋯)
こんなに明るくて善人である彼にここまで言わしめるプリース王国⋯⋯。
いったいどんな国なんだと、エータは心の中で思った。
「じゃあよぉ!!」
ビートが口を開く。
「みんなで北の山で腕試ししねぇ!?」
「「「腕試し?」」」