第042話〜回復、そして更なる発展へ〜
――フィエルの一件から数週間。
アイテムボックスを使った大改造は進み、村の敷地は倍に膨らんでいた。
その面積、半径約2.5km。
もはや四方を囲む山々にせまる勢いだ。
なぜ急速に村の敷地を増やしたのか。
それは、村の人たちにある変化があったからである。
『全員の大幅なステータスアップ』
村人たちの栄養面が劇的に改善された為か、元々パワーに満ちていた彼らはさらにパワフルになっていた。
「本来、ジョブ持ちはゴブリンの1〜2体くらい撃退できるくらいつえぇんだ。いままではバッドステータスが付いてたから能力が落ちてたけどよ」
そうビートが言う。
「ステータス? そういう概念があるのか?」
「は? 当たり前だろ。⋯⋯ってそうか、異世界から来たんだったな。例えば、親父は筋力と体力が高ぇ。まぁ、見たまんまだな。俺は俊敏性や器用さが高ぇかな。イーリンやギムリィは体力が低い代わりに知力やマナポイント、MPってやつが高ぇ」
(まんまゲームだな。つまり、鍛えていけば俺もビートたちみたいに、現世じゃ考えられないくらい動けるようになるかも知れないのか)
「ただ、無職っていうジョブを持ってないヤツは、ゴブリン1匹に殺されるくらい弱ぇ。ジョブのステータス補正や成長率? ってのが無ぇかららしい」
「なるほどな。戦闘職じゃなくても、ジョブ持ちってだけである程度強いのか」
そういえば俺のジョブってなんなんだ?と、思ったエータだったが
(今度ブライに聞いてみるか)
と、その事をすっかり忘れてしまった。
――――――
村人たちが本来の力を取り戻したことで、クルトのアーツ『聖域』の効果が上がり、範囲も持続力もアップ。
病床に伏せる人も減ってきたので、聖域にマナをたくさん回せるようになった。
――――――
エータは、元からあった防護柵の強化が終わり、村が広がった分の防護柵を作ることに。
ビートやフィエルと狩りに出たついでに、環境に影響がない範囲で木を収納していたので、資材は潤沢にある。
ブライと相談した結果、その木を『生きたまま』アイテムボックスで融合させながら設置することにした。
つまり、根を張る木をそのまま防護柵にするのだ。
アイテムボックスで形を整えて、木々の頭をそろえ、隙間を可能なかぎり無くし、植えていく。
まるで、世界樹のように巨大な木。
その中央がぽっかりと空き、村がある。
そんな幻想的な村が完成した。
枝の間の要所に高見台を設置。
高見台には、樹脂から作ったゴムを使って、クロスボウやバリスタを置き、非戦闘員でも多少の防衛が可能なようにした。
ゴムは農作業のときに「手押し車が欲しいな」と、思ったところ。ピコンッとアイテムボックスが開き、この世界の木『ワージマ』から作れることがわかった。
ゴムが作れるのは豪運としか言いようがない。
村の生活レベルはさらにアップするだろう。
後々、村の通路をすべて石畳にして台車を作成し、生活の一部に組み込む予定だ。
馬が居れば馬車ができたが⋯⋯居ないものは仕方ない。それはいつかの楽しみに取っておく事にする。
――――――
元西口にあった炊き出し場を、そのまま集会所へと作り替え、ピグリアムがそこの住み込み管理人となった。
昼と夜、仕事を終えた村人が毎日ごはんを食べて談笑する場所だ。
イメージが不十分で倒壊するといけないので、村人たちと壁や屋根をチェック。
大丈夫だとは思うが、それでも心配な部分は、釘とハンマーでツギハギするように補強した。
エータは、イーリンや地質調査を使えるノバナを連れて、集会所の地下に氷室を作ることに。
氷室とは、要は冷蔵庫や冷凍庫である。
ノバナに「どこをどう掘れば地盤沈下しないか」を聞きつつ、木や鉱石を使って壁や天井を補強。柱を設置しながらゆっくり地下を広げていく。
「ストップ! そこが限界!」
「じゃあ、万が一を考えてすこし狭くしておくか」
「うん、それが良いと思う」
「ありがとうノバナ」
「いいえ〜」
ギリギリまでスペースを広げたら、部屋を三つに分けイーリンに氷魔法を撃ってもらう。
一つは冷蔵庫、一つは冷凍庫、一つは暗所の常温室として使う。
イーリンは強力な氷魔法を使えるが、狩りには連れて行って貰えない。
その為、村の中で自分に役割ができた事をとても喜んでいる様子だった。
「前の氷室はもっとちいさかったー! ここ広〜い!」
「一日一回、俺と様子を見に来ような」
「うん!」
ステータスがダウンしていてもベヒモスの攻撃を止めるほどの大魔道士だ、数百メートルを冷やす程度のことは彼女にとって造作もないことのようである。
――ピグリアムは総面積1kmはあろう超巨大な食料庫に大歓喜。
「キェェー!!」などという奇声を発し、一度気絶した。愉快なおっちゃんである。
意識を取り戻したあと、ピグリアムの要望で発酵食品を開発する蔵も増設することに。
醤油や魚醤、果物を使った酒なども作りたいらしい。
ピグリアムの食に対する熱意は本物だ。
基本的に食材はアイテムボックスに納めるが、イーリンが定期的に氷魔法を撃つとき、エータも食材をチェックをするというルーティンで、常に一定の食材が地下にあるよう調整する。
(俺になにかあったとき、また食料不足に苦しむことが無いようにしたいな⋯⋯)
この氷室さえあれば、エータが居なくても大丈夫だろう。氷室の存在は、村人たちの希望となる。
農家の人たちも、採れた作物や畜産物はごはんを食べるついでにここに持ってくるようだ。
豊作の時は腐らないよう、アイテムボックスに忘れず入れておく。
「どんだけ作っても大丈夫ならフルパワーで作れるべな!」
「土いじりはやっぱ楽しいぜぇ!」
「ステータスが戻ったし、農具はあるし、いくらでも働けるよ!」
村の農家たちは目をギラギラさせて張り切っている。
ま、まぁどれだけ作ろうとムダになることは無いので、彼らの好きにさせておこう。
――――――
サリバンのお願いで、細くて丈夫な『鉄の針』を作る事になった。今までは木を削ったものを使っていたらしい。
木だとあまり細いと折れてしまうので、どうしても太くなり、思ったような裁縫が出来なかったそうだ。
それであのドロシーのワンピースを縫って居るのだから大した物である。
エータは二つ返事で了承し、ついでに木の繊維を整えた糸を大量に取り出した。
絹糸には劣るが、今までとは比べ物にならない上質な糸である。
「えぇー! い、良いのかい!? エータちゃんありがとねぇ!」
サリバンは目を輝かせながら歓喜し、村人たちの寝具や衣服を新調すると張り切っている。
冬場に向けて、今から準備するのだろう。
ミシンとは行かないまでも、機織り機くらい造ってあげたいものだ。
だが、エータは原理がわからず、アイテムボックスは反応してくれなかった。
「いつか手に入れてあげたいな」
エータの欲しいものリストに『機織り機』が追加された瞬間であった。
――――――
ケイミィに「なにか面白そうな物はな〜い?」と言われたので、エータはアイテムボックスの中身を見ながら使えそうな物をみつくろった。
その中でも『マジカルケミカルマッシュ』『イビルテンタクルの残骸』『ギライマ』『エルテルク』が気に入ったようでケイミィは「んなぁー!!」と喜びの声をあげていた。
「う、海でしか採れないレア素材がこんなにぃ!! しかも、すべての錬金術師の憧れ『マジカルケミカルマッシュ』まで〜! これ海沿いにあるからなかなか手に入らないんだよ〜! これで超強力な毒⋯⋯ポーションが作れるよ〜! ありがと〜エータちゃ〜ん!!」
「いま毒って言ったよね? ねぇ、毒って言ったよね!?」
ケイミィは「ニシシ」と笑っている。
判断を誤ったのかも知れない⋯⋯。
エータは自らを呪った。
――――――
これからこの世界も夏がやってくるとの事。
鉱石が十分にあるので、エータは『真空タンブラー』『水筒』の作成にとりかかった。
鉄、アルミニウム、この世界にしかない謎の鉱石たち⋯⋯。
なにが必要かはわからないが、構造はなんとなくわかる。
エータは「ヘイ、アイテムボックス。タンブラー」と言ってみた。
――ピコンッ!!
前の世界で使っていた、手に持ちやすいタンブラーが取り出せた。
なんと、ロゴまで再現されている。
「あっ、ロゴまでイメージしちゃった⋯⋯まぁいいか」
次は水筒である。
特に、エータの居ない時にビートやフィエルが狩りに行く場合、水を持っていくのに必要だろう。
「ヘイ、アイテムボックス。水筒」
――ピコンッ!!
それは象の印がついた可愛らしい水筒だった。
「これも前に使ってたのがそのまま出たな⋯⋯」
耐久性や保温性は折り紙付きである。
エータは、村人に一つずつタンブラーや水筒を配った。
あまりの使い勝手の良さに、村人たちが感動していたのは言うまでもない。