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第036話〜死んでもらう〜

 ブライの屋敷に戻ると、フィエルは上体を起こしドロシーと静かに談笑していた。

 イーリンはフィエルの胸にギュッと抱きつき、スヤスヤと眠っている。


「話って?」


 エータはイーリンを起こさないよう、小さな声でフィエルに問いかけた。


「まずは謝罪する。精霊の力を借りて君たちの会話を聞いていた」


(どういう事だ?)と、エータたちは首を傾げる。フィエルは、


「まぁ見てくれ」


 と、右手をそっと空へ差し出した。


 それはまるで、楽しそうに飛びまわる小鳥を指先に迎えるような美しい所作。



 ――ヒュゥゥゥ!



 フィエルの指先に小さな竜巻が現れ、その中から大きな羽の生えた光る小人が出てくる。これが精霊だろうか。


「私の職業(ジョブ)調教師(テイマー)魔技(スキル)精霊師(スピリットマスター)だ。この子は私の友達。風の精霊、フィン」


 フィンと呼ばれた精霊は、チラッとエータたちの方を向いたのち、警戒するようにフィエルの指の後ろに隠れる。

 ドロシーが頭を撫でようとすると、フンッとそっぽを向いてさらに隠れてしまった。


「私が人間ギライだから警戒しているのだろう、許してくれ」


 フィエルはクスッと笑う。


「フィン、また呼び出してすまなかった」


 フィエルが「リリース」と呟くと、フィンと呼ばれた精霊はただの風へと戻った。


「して、その精霊がどのようにワシたちの会話を?」


 珍しい物を見た、という表情でダストンが聞く。


「人間の発する声⋯⋯『音』というのは大気の振動だ。風の精霊は大気の流れそのものが命を得たような存在。なので、この子にエータたちの会話を『音』として記憶して貰い、私の耳まで運んで貰った」


「なるほど、電話みたいなモンか。一方的に聞いてるから盗聴器の方があってるかな? なんにせよ、とんでもなく優秀な能力だ」


 エータは瞬時に理解した。

 しかし、ブライ達はそもそも『大気』という概念がない為、理解できないようだった。


「結論から言う。エルフは攻めてこない。いや、攻めてこられない。という方が正しい」


 顎に手を当てて「どういう事だ?」と、ブライが聞く。


「余力が無いのだ。職業(ジョブ)を持っている人類が減ってきているのは知っているな? エルフは特に影響を受けやすい。元々、繁殖能力が高くないにも関わらず、産まれてきた子供が無職(ニート)だと里が致命的な機能不全におちいる」


「つまり、戦闘で職業(ジョブ)持ちを失いたくないから攻めてくる可能性が低い。と、いう事か」


 ブライは「なるほど」という顔をしている。


「その通りだ。戦闘能力で引けを取らないエルフが山奥へと追いやられたのもこれが原因だな。特に、この村には鬼神の如き人間⋯⋯ダストンがいるとの噂があったからな。だからこそ、今まで我々はここを襲わなかった」


「親父ってそんな有名なのか⋯⋯」


 ビートがダストンを見る。そこには、ニヤケ顔を必死に抑え、うんうんと噛み締めるように頷いているダストンの姿があった。


「ブライさん、フィエルをこの村で(かくま)う事は出来ませんか?」


 エータはブライに問う。


「難しいだろうね」


 眉間にシワを寄せてブライは続ける。


「先日の話し合いの通り、村にはエルフに良い感情を持っていない者がいる。故郷を奪われた者、大切な人を奪われた者⋯⋯。そんな彼らが、この村にフィエル殿が住む事を許すかどうか⋯⋯考えるまでも無いよ」


「でも⋯⋯」


「君たちに迷惑はかけられない。すぐに出ていく。私だって、突然エルフの里に人間が来て『私はあなた達と友好的な関係になりたいです』と、言ってきたら、まずスパイを疑う。寝首をかかれないか心配で夜も眠れなくなるだろう。だからこそ、この村の人達にそんな気苦労をかけたくない」


「フィエル⋯⋯」


 エータは改めてブライに問いかける。


「ブライさん! 本当にどうにもならないんですか!? このままフィエルを帰したら、それはフィエルに死ねと言ってるのと同じなんじゃ⋯⋯」


 それにビートやドロシーも続く。


「助けようぜ?」

「村の端っこでも、どうにかなりませんの?」


 ブライはエータ達の意見を聞き、グッと目を固く閉じ、深呼吸をする。


 そして、エータの目を真っ直ぐ見て問いかけた。


「方法は、あるにはある」


「えっ!?」

「ホントか!?」

「なら早くそうしましょう!?」


 三人は嬉しそうにブライに向かって言葉を投げかけている。

 だが、ブライの表情はどこか苦しそうだ。


「エータ、ビート、ドロシー。それからイーリン」


「んー?」


 ブライに揺さぶられ、イーリンが目をこすりながら起きる。


「フィエル殿を本当に助けたいなら、これから私がすることに一切口を挟まないと、そう誓えるかい?」


「えー?」


 寝ぼけているイーリン。

 そんな彼女の目をふきながら、ドロシーが問いかける。


「イーリン、フィエルが助かるならなんでもしますわよね?」


「もちのろん」


 イーリンは寝ぼけながら右手を上げた。


「フィエルを助けられるならなんでもします」

「当たり前だよな」


 エータとビートも賛同する。

 四人は『ブライならばフィエルに酷いことはしないだろう』と思っているのだろう。軽々しく、


「誓います!」


 と、言ってしまった。


「んもぅ! 何か方法があるなら先に言ってくださいまし!」


 ドロシーが笑顔でそう言った、次の瞬間。

 彼女はフッと気を失って倒れた。


「えっ? ドロ⋯⋯」


 エータは呆気に取られている。

 その間にイーリンもベッドの上にパタリと倒れ込んだ。


「親父! なにしてんだ!!」


 なにかを見たであろうビートが驚きの声を上げたかと思うと、彼もその場にどさりと倒れ込む。


「ビート!? これは⋯⋯!」


 刹那、エータの頭にも強い衝撃が走り、気を失った。


 その一部始終を見ていたフィエルは酷く動揺している。そんな彼女に、ブライは一歩一歩近付き、こう言った。


「フィエル殿、あなたには死んでもらう」

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