第032話〜お見送り〜
――翌朝。
フィエルとシロウが出発するとのことで、エータ、ビート、ドロシー、ダストン、イーリンの5人は恩人である二人を見送ることにした。
ありがたいことに、そこには昨日の話し合いで亜人種との交友に前向きになった村人たちの姿もあった。
(ひーふーみー⋯⋯10人は居るかな? こうやって歩み寄ってくれる人が出てきてくれたのなら、昨日の話し合いも無駄じゃなかったな)
エータは嬉しそうに微笑む。
亜人種との交友に前向きな者たち
まず村長のブライ。
彼は亜人種との交友の賛否云々の前に、村の代表として来た側面が強い。
村に危険が及ばないなら賛、すこしでも懸念材料があるなら否、と言ったところ。
ブライ本人は賛成寄りだが、現実的ではないと考えているようだ。
医者のクルト。
医療従事者ということもあって、元から『奴隷』や『抗争』に想うところがあったのだろう。
村全体での交友は難しいと思いながらも、個人間での交友は行いたいと思っている。
神官のディアンヌ。
バスティ教の聖地である神聖マクシト国では『亜人種はモンスターとの混血』として教えているようだが、ディアンヌ本人は差別が好きではない事。
そして、バスティの使徒であるエータの言葉を信じる事にしたので、友好を築こうと考えている。
イーリンの育ての親である魔道士のギムリィ。このおばあちゃんは「イーリンが世話になったから! 以上!」である。種族など関係なく『孫を助けてくれた』ただそれだけで二人に好意的。
ドロシーの育ての親であり服飾家のサリバン。彼女もギムリィと同じである。『ドロシーを助けてくれた』それだけで信じるに値すると思っているようだ。
錬金術師のケイミィ。エータとドロシーの足を治した激痛ポーションの産みの親。
昨日の食事会で「あなたのポーションのおかげで足が治ったんです」と感謝を言ったエータに「えぇ〜苦痛に歪む顔が見たかった〜。その為に作ってるのにぃ」と返してきたやべー女。
なぜ居るのかは不明。
亜人種のことを実験体と思ってないか、周りに心配されている。
料理人のピグリアム。身長180cm、体重は100キロをゆうに超える巨漢。彼は、元々王宮の料理人の一人。
ただ、貴族たちが食べものを粗末に扱っているのを見、スラム街の人達にこっそり食料を分けたのをとがめられたことをきっかけに「いつか絶対に辞めてやる」と不満を募らせているところをダストンに誘われた。
そんな訳で、博愛主義な彼も種族の壁は気にしないようだ。
クルトによると彼も栄養失調らしいのだが、なぜワガママボディのままなのかは謎に包まれている。
農家であり夫婦のギノーとサクべ。昨日、西口の入口付近でクワを持ってた麦わら帽子のおっちゃんがギノー、麻で作られたエプロンを着たおばちゃんがサクべだ。
息子さんが亜人種との領土争いで命を落としたらしく、交友賛成派であることに驚く村人も多い。
最後に、調教師のポピーおばあちゃん。 クルトよりも大きく腰の曲がった彼女は、ダストンたちが王国を離れ、この村へ来る途中コクシカルストという山の限界集落にいた。
そこで、牛をはじめとする家畜を育てて生きてきたようだ。
山で静かに暮らしていたポピーさんは、世俗から離れていたため亜人種との確執が無い。
それで友好的という訳だ。
以上が、フィエルとシロウを見送りに来てくれた人たちである。
シロウは「こんなに来ていただけるとは、深く感謝するでござる」と頭を下げ、フィエルは「律儀だな、君たちは」と、クスッと笑っている。
さよならをする直前、イーリンがちいさな足をバタつかせてフィエルに抱きついた。
「私、寝てたから覚えてないけど。二人に助けて貰ったって聞いたー。ありがと」
フィエルはイーリンの頭を撫でながら微笑んでいる。
イーリンに続き、ドロシーがフィエルとシロウの前に立った。
「わたくしも礼を言いますわ、ありがとう。⋯⋯本音を言いますと、あなたたちに会うまで亜人種には良い印象はございませんでしたの。村へ帰る途中も、いきなり背後から⋯⋯なんて、不安でいっぱいでしたわ⋯⋯」
一歩間違えば無礼になる発言。だが、ドロシーの毅然とした態度から、フィエルとシロウはそこに悪意が無いのを感じとっていた。
「でも、あなた達はわたくし達を守り、歩み寄る姿勢も見せてくれました。だから⋯⋯わたくしもあなた達のことを信じてみようと思いますの。これからはエータやビートと同じく、わたくしとも仲良くしてくださいませ」
フィエルとシロウは「あぁ!」「これからよろしく頼む」と、ドロシーと握手を交わす。
それにブライも続き、二人にこう言った。
「我々の仲間を助けてくれて本当にありがとう。村を代表して、改めて礼を言わせていただく」
深々と頭を下げるブライ。
「人間と亜人種、種族間の溝は深い。簡単に埋まることは無いだろう。だが、動かなければ何も始まらない。村全体で⋯⋯というのは難しいが、いまここに居る者たちだけでも種族を超えた交友をはじめよう。私たちの出会いに感謝を。そして、新たな友人に幸多からんことを」
そう言ってブライは話を締めた。
フィエルは「ありがとう」と頭を下げる。
シロウはマフラーの上からアゴを触り、
「拙者は隣国、ハイ・ジーニアス魔導国に行くことが多い。山で得た物を売り、里で育てる作物の種などを買い付けるためでござる。もし、そなたたちが良ければここにも持ってこよう」
ブライは「良いのか!?」と目を見開いている。
「あぁ、ただし条件がある。エータ殿を初めとするこの村の人たちの力を借りたい。アイテムボックスを持つエータ殿が居るということは、この村は大きく発展するでござろう。拙者たちもその恩恵に預かりたい」
願ってもない提案である。
(なるほどなぁ、つまりウィンウィンな関係になりたいってことか。シロウさんが種を持ってきて、この村が育てる。アイテムボックスがあれば農作は捗るし、無限に貯蔵が可能。シロウさんにとっては良い交易相手になるって訳だな)
エータは、シロウとブライの話を途切れさせないよう心の中で思った。
ブライはシロウの提案に「もちろんだ!!」と返し、シロウの分厚い手と固く握手をかわした。
「シロウ殿との交渉はエータくんに任せて良いかな? アイテムボックスを持つ君が担当してくれるとスムーズなのだけど」
「もちろん良いですよ! よろしくお願いします! シロウさん!」
こうして、エータ達はちいさいながらも強固な『同盟』となり、二人は晴れやかな顔をして村を出ていった。
まだ南の山は危険なので、シロウが途中までフィエルを送っていくらしい。
エータが「帰りはシロウさんだけで大丈夫なの?」と、聞いたら「拙者一人ならまず安全だ。敵が認識する間もなく走り去ってみせよう」とのこと。
なんとまぁ規格外な御方である。
――――――
二人の後ろ姿が見えなくなり、
「じゃあ、昨日の話し合いで決めた『村の大改造』を始めますかね」
と、気合いを入れた、その時だった。
「エータ・ミヤシタ!」
サリバンが作ったであろう新しいワンピースをなびかせながら、ドロシーが言った。
「わたくしと結婚してくださいませ!!」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
「はぁ!?」