第031話〜命の期限〜
――話し合いの後。
みなが寝静まる夜更け。ビートに見つからないようこっそりと抜け出したダストンは、約束通りクルトの家へと来ていた。
ディアンヌは隣の部屋で鼻ちょうちんを作りながら「もう食べられません〜」と眠りこけている。
「して、話とは?」
ダストンは蝋燭の灯りの中、イスに前かがみになって座り、クルトにたずねる。
向かい合うように座るクルトは言った。
「あんたはいま、身体強化で生きながらえている」
ダストンは「どういうことじゃ?」と首をかしげた。
「つまり、生物としてのあんたはもう死んでるってことさね」
「いやいや、何を言うておる。ワシはまだ生きておるじゃろう」
ダストンに近付き、彼の左胸に手を添えるクルト。
「心臓がね。もう止まってるも同然なのさ。自力で動くことが出来なくなってる。いまあんたが生きてるのは無意識に身体強化で心臓を強化してるからだよ」
「⋯⋯」
衝撃の事実にもダストンは(やはりか)と、冷静であった。
身体の中にある見えない器。その器に亀裂が入ったように、マナが常に流れ落ちている感覚。それが、ベヒモスの攻撃を受け止めたときからずっと続いていたのだ。
あのとき、ダストンは死んだ。
そして、クルトがわざわざそのことについて触れるということは、自分がもう長くないことの証左だと、ダストンは気付いていた。
「して、ワシはいつまで持つ?」
ダストンはクルトの目を見ていう。
そんな彼を見て、クルトは、
「あんた、死ぬのが怖くないのかい?」
と、驚きの表情を浮かべながら問う。
ダストンはフフっと笑いながら「怖くないわけがなかろう」と応えた。そして、窓から光り輝く星々を見つめながらゆっくりと口を開いた。
「今日な、ビートの戦いを間近で見た。そりゃあ立派になっておったよ。あいつはワシの目の届かないところでどんどん成長しておる。もう、一人で十分にやって行けるじゃろう」
クルトの目に涙があふれる。
「ワシは今世での役割を終えた、そう思っとる。死ぬのは怖い。じゃが、いつ死んでも悔いはない。それだけのことなんじゃ」
クルトは手で涙を拭きながら「一年だ」と言った。
「ダストン、あんたの命は持って一年。でも、それは身体強化で安定的に心臓を補助した場合の余命だ。凱竜天のような武芸術疾走を撃ったらマナが乱れてその瞬間にあんたは死ぬ」
クルトはダストンの大きな手を握った。
「良いかい? 絶対に、なにがあっても。もうアーツドライブを撃つんじゃないよ? 約束しとくれ」
ダストンはクルトの手を優しく握り返し「あいわかった」と、笑顔で返した。
――そんな二人の会話を、ディアンヌは扉越しに聞いていた。口元に手をあて、声を殺し、泣きながら。