第029話〜診断結果に不穏な影〜
「さぁ、ボクちんが腕によりをかけて料理を作るよぉ⋯⋯って何これ!?」
調理道具を風呂敷でつつみ、戻ってきたピグリアム。
そこには、さっきまで無かったはずの巨大な炊き出し場があった。
「こりゃあいったい⋯⋯」
その後ろから白衣のクルトがやってくる、彼女も巨大建造物に驚いている様子だ。
ピグリアムはハッと我にかえると、その巨体からは考えられないほどのスピードで台所へと向かった。
「ウッヒョー! これってキッチン!? ありがたいよぉー! この村の人たちは栄養失調気味だからね! 具材を細か〜く切ってトロトロに煮込んだタマゴスープを作るよ〜!」
水を得た魚のように活き活きとしているピグリアム。エータはそんな彼の隣に立ち、元の世界では無かった食材の説明を受けつつ、塩や香辛料など必要なものをアイテムボックスから取り出した。
「大量の食べ物があると聞いて来てみりゃ⋯⋯まさかこんな物が出来てるとはね」
クルトが柱を触りながら辺りを見渡す。と、場内の端に木の床で寝ているダストンとイーリンを見つけた。
「ダストン、イーリン、大丈夫かい?」
クルトは優しく問いかける。
「クルトか。見ての通りピンピンしておるよ。イーリンも命に別状はないじゃろうて!」
ダストンはむくりと上体を起こし、ニカッと笑いながら左腕でマッチョポーズをした。イーリンはまだ眠っている。
「そいつぁなによりだ。あんたらが向かったっていう山が、見たことない爆発を起こしてたからね。あたしゃてっきりくたばったもんだと思ったよ」
ダストンはぶわっはっはっ!と大声で笑うと
「ワシもまだまだ死ぬには早いらしいわい!!」
と、楽しく談笑する村人たちを見ながら言った。そんな彼を見て、クルトはホッと肩を撫で下ろす。
しかし、クルトはある違和感に気付いた。
「ダストン。あんた、その左腕はなんだい? 自慢のアーマーが無くなってるじゃないか」
「あぁ、これか? それがのう、ちと油断して左腕がもげてしもうたんじゃ! いけ好かんハロルドから賜ったミスリルの鎧じゃが、もう身体の一部のように思うておうたからのぅ。残念じゃわい。まっ、仕方ないじゃろうて!」
「ちょっと診せな」
クルトは嫌な予感がして『診断』を発動させる。ダストンは「心配性じゃのう」と呆れてクルトの診断を待った。
「ダストン⋯⋯あんた⋯⋯」
「あ? なんじゃい」
クルトは何かを言おうとしたが、ピグリアムの「さぁ出来たよぉ!!」という大声にかき消され、言葉を飲んだ。
「⋯⋯。ダストン、後でウチに来な。大事な話がある」
「ついにワシと一緒になるときが来たか」
「⋯⋯ふざけられるような話じゃないんだ」
「⋯⋯」
クルトの真剣な目を見たダストンは「あいわかった。後で向かおう」と、ちいさく返した。
「クルトォォ! ワシの可愛いイーリンも診ておくれぇー!!」
「うわっ、なんだいギムリィ! ⋯⋯あー、イーリンかい? そいつは魔素欠乏症だよ。あんたのマナをそそいでやりゃぁすぐ治るさね」
「本当か!!?」
ギムリィはサッとイーリンの胸に手を置き、
「魔素還元」
と、つぶやいて赤い光をそそぎ始める。
「治ったー」
と、イーリンはものの数秒で目を覚ました。
「いや! そんなに早く治るわけないさね!!」
クルトは目を飛び出させながら叫ぶ。
「ワシの可愛いイーーリーーーン!!」
「おばーーちゃーーーん!!」
――ひしっ!!
二人は熱い抱擁を交わす。
「あれ? なんかフラフラするー」
――バターンッ!
「イーーーリーーーーーン!!!」
イーリンはまたしても倒れてしまった。
「言わんこっちゃないさねー! 貧血も起こしてんだよ! 貧血も!!」
クルトはイーリンの傍に駆け寄ってディアンヌを呼んでいる。
その姿を、ダストンは微笑ましそうに見たあと、自分の左胸に手をそえ、ギュッと握りしめた。
(なんとなくわかっておるわい⋯⋯)