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第028話〜交渉は食事の後で〜

 エータはまず、木で巨大なテーブルを作り、その上に皿に盛り付けられた木の実、魚、卵、キノコなどを大量に広げた。そして、


「この通り、俺はアイテムボックスを持っています! これがバスティ様から特別な加護を受けている証拠です! まずはみなさん、ゆっくり食事でもしませんか!? それから今後について話し合いましょう!」


 と、みんなに呼びかけた。


「な、なんだこりゃ!」

「アイテムボックス!?」

「待て、幻術のスキルの可能性がある!」


 村人たちは半信半疑と言ったところだ。

 エータが「これだけじゃ無理か?」と、思っていると、


「みんな、エータは信じられるぜ!」

「そうですわ、わたくしたちが保証いたします!」


 ビートとドロシーが声を上げてくれた。

 続いてダストンも加勢してくれる。


「このエータという青年は、命懸けでビートの救出に手を貸してくれたんじゃ! この白髪の男、エルフの女も同様! 満足に動けんワシらを安全に村まで届けてくれた! みな、不安な気持ちはわかるが信じて欲しい!」


 ディアンヌが「あまり大声を出すと傷がぁ〜」とオロオロしている。


「エルフ⋯⋯」


 複雑そうな表情を見せるノバナ。

 それを察して、ケイミィがそっと肩を抱いている。


 ダストンたちの必死の説得にも、まだ村人たちは信じきれないと言った様子だ。すると、


「ぬおおおぉぉぉ!!」


 突然、コック帽のようなものを被った巨漢が猛烈ダッシュで登場。

 彼は目を輝かせ、テーブルの食材を物色している。


「こ、こ、これは海のお魚ぁぁー! なんて新鮮なんだぁー!! 海の幸なんて王宮でも見ることはないぞぉぉ!」


 巨漢は残像を残し、テーブルの上に置かれた食材をベタベタと触って大興奮。


「このカヌミの実、良い色〜! 採れたて新鮮ツヤツヤだねぇ! お、これはキノコ!? んんー良い香りぃぃ! って、卵もあるぢゃん! ボクちん感激ぃぃー!!」


(な、なんだ? このハイテンションなおじさんは⋯⋯)


 と、エータが困惑しているとブライが口を開いた。


「みな、疑問に思うことが多々あるだろう! しかし、英雄ダストンが彼らは大丈夫だと太鼓判を押し、鑑定眼(カノサー)のアーツを持つピグリアムがこれは安全な食料だと言っている! ここは一つ、彼、エータくんの好意に甘えて、ご相伴(しょうばん)にあずかって見てはどうだろうか!?」


料理人(コック)のピグリアムが食いついてるなら安全⋯⋯なのか?」

「俺はダストンを信じるぜ!」

「ビートやドロシーちゃんが嘘をつくとも思えないしね」

「な、何ヶ月ぶりのまともなメシだ? 食えるならありがたいが⋯⋯」


 みんなの援護のおかげでなんとか『一旦、全員で食事を取ろう』という流れに持ち込めそうである。


「んねーんねー! これさ、ボクちんが料理しても良い!?」


 ピグリアムと呼ばれたコックが超至近距離でエータにたずねた。

 エータは勢いに押されながら「お、お任せします!」とこたえる。

 すると、ピグリアムは、


「やったーー! 久しぶりのまともな料理だぁぁー! お道具持ってこよーーっと!」


 と、言いながらどこかへ走り去ってしまった。

 エータや村人たちはヒャッホー!と奇声をあげるピグリアムの後ろ姿をポカーンと眺めている。


(いやいや、ほうけてる場合じゃない!)


 エータは半信半疑の村人たちに『村を救いたい』という気持ちがある事を伝えるため、行動を開始した。


「ブライさん、この西口の広場ってなにかに使う予定あります?」


「ん? いや、村の住人は減ってきているからね。家を建てる予定もなければ、畑や貯蔵庫をつくる予定もないよ」


「よし! じゃあ、ここに炊き出し場を作っちゃいますね!?」


「炊き出し場?」


 ――――――


 エータはみんなに離れて貰い、高さ3メートル、広さ20平方メートルの巨大な木造建築を取り出した。


 本格的な建造物がアイテムボックスで作れないのは実験済みなので、壁はなく、床もない。

 屋根だけの完全な吹きさらしである。


 松明が置けそうな場所をいくつか設置。

 アイテムボックスで麻布のような物を作り、魚から抽出した油を木に染み込ませて松明を作成。


「なんだこりゃ!!」

「エータって子が出したの!?」

「ほ、本当にアイテムボックスなのか!?」


 村人たちは、エータの能力を信じはじめているようである。


(よしよし、とりあえず今はこれで良い。本格的な建物が必要なときはまた色々と実験しよう)


 エータは空いたスペースに目をやる。


(さっきのコックさんの調理スペースも必要かな?)


 そう思ったエータはキャンプ場をイメージし、アイテムボックスからバーベキューが出来るような石の建造物をクラフト。

 水分を飛ばした木片、鉄の網、そして鉄板なども取り出す。


 まな板や包丁を置く調理台、綺麗な水を入れた(たる)も設置。ピグリアムがスムーズに調理出来るよう、色々なものを用意する。


 さて、続いて飲食スペースだ。大きなテーブル一台だと不便なので、4人テーブルを15台作り、イスも大量に作成。

 各テーブルの上に、木で作ったピッチャーとコップを置いて、飲料水をそそいだ。


「これって、水か?」

「美味い! 泥の匂いがしないぞこの水!」

「ほんと、すごく美味しい!!」


 そんな言葉が聞こえてくる。


(きっと川の水を沸かして飲んでたんだな。それだと泥の匂いは取れないよなぁ。アイテムボックスだと不純物が完全に取り除かれるから、元が海水でも磯臭さが無くて美味い。やっぱ凄いわ、アイテムボックス)


 ダストンやイーリンが座れる状態じゃなかったので、フローリングのような床を作成し、二人にはそこに横になって貰った。

 ギムリィは、マナ切れを起こし気絶しているイーリンの手を握って泣いている。


「改めて思うが、なんじゃこのデタラメな能力は⋯⋯」

「プリース姫の伝説に信憑性が出るね」


 次々に飛びだすメイドインエータの数々に、ダストンとブライは目を丸くしている。


「あのぉ、エータさん」


 ひとしきり準備が終わった頃、ディアンヌが申し訳なさそうに声をかけてきた。


「ダストンさんの腕を治療したいのですが⋯⋯」


「そうだった!!」


 エータはすぐにダストンの元へ向かった。

 ダストンの腕は氷漬けになっており、無理に止血している状態。氷に触れているところは凍傷にもなっている。

 こんな状態でのほほんとしているのは異常な胆力だ。


「アイテムボックス!」


 エータはダストンの左腕を取り出した。

 正直、かなりグロい。二の腕あたりが溶けている。

 しかし、ディアンヌはこういう傷を見ることに慣れているのか、冷静に治療をはじめた。


 氷や泥を取ったほうが良さそうだと思ったエータは、アイテムボックスでダストンの腕の汚れをすべて取りのぞく。


「そんなことも出来るんですね! ありがとうございます!」


 そう言うと、ディアンヌは手のひらをダストンの患部に向け、腕を黄金に輝かせはじめた。



 ――特級治癒(エクストラヒール)――



 腕がすこしずつ繋がっていく。ダストンは「ぬぅぅ!」と、痛みを我慢しているようだ。


(ひぇ〜見てるこっちが痛い⋯⋯。俺、グロ耐性ないはずだけど、なんか色々ありすぎて感覚マヒしてるのかな⋯⋯前の世界だと絶対吐いてたわ⋯⋯)


 と、そんな時「ディアンヌー!」と、ドロシーが走ってやってきた。後ろには不敵な笑みを浮かべる二人の女性の姿。


「ドロシーちゃ〜ん、なんで逃げるかなぁ〜!」


「大人しく観念しなさ〜い?」


 それは、目隠れ緑髪の女性ケイミィと、ドロシーと似たワンピースを着た女性サリバン。そして、その後ろからやれやれと言った様子でもう一人の女性、


「ふ、二人とも⋯⋯ほどほどにしときなよ?」


 花の髪飾りをしたノバナがやってきた。


「ディアンヌ!? マナはまだありまして!? わたくしの足を治療して欲しいんですの!」


 ドロシーは右足の火傷を見せながら言う。


「す、すみません。ダストンさんの腕を繋げるのでマナを使い切ってしまって⋯⋯」


「な、な、な、なんですってぇー!!」


 ドロシーが泣きそうな顔でディアンヌを見る。

 そんなドロシーの肩に手を置き、悪魔のような笑顔でビーカーを押し付けるケイミィ。


「あーーーっ! その液体ってもしかして!」


 エータはあの激痛を思い出し、思わず声をあげる。


「はじめまして〜エータくん? だっけ〜。ウチは錬金術師(アルケミスト)のケイミィ〜よろしく〜。ご明察のとおり、これはウチの自慢のポーションちゃん〜」


 ケイミィは笑顔で応える。


「ドロシーちゃ〜ん、今すぐ治療しないと〜あとが残っちゃうからぁ〜、ね?」


「ケイミィ! 私が抑えとくから、ひと思いにやってやんな!」


「お〜け〜ぃ、サリバ〜ン」


 サリバンと呼ばれた女性はドロシーを羽交い締めにしている。

 ドロシーはもう身体強化(ブースト)をするマナが残っていないのか抵抗できずに居るようだ。

 そして、ケイミィは無慈悲にゆっくりとドロシーの右足に液体を垂らす。



 ――ジュゥゥゥゥッ!



「ああぁぁぁーーーー! 火傷より痛いですわぁー!!」


 ドロシーの悲痛な叫びが炊き出し場に⋯⋯いや、村中に響き渡る。


(いてぇよなぁアレ⋯⋯なんであんなに痛いんだろう。ポーションって回復薬のはずなのに⋯⋯)


 苦痛に泣きさけぶドロシーを見ながら、ケイミィとサリバンは「イーヒッヒッ!」と嬉しそうな笑い声をあげている。それを見て、ノバナはため息をつきながら頭に手を当てていた。


(この二人には逆らわないでおこう⋯⋯)


 エータは固く心に誓った。

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