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第025話〜美女と忍者〜

 牛鬼の身体から赤い光が抜けていく。


 それは明らかに牛鬼から『なにか』が抜けたのを物語っていた。


 エータが(今度こそ終わった⋯⋯?)と、気を抜いた。

 その時であった!


 死に体であるヤツの胴体が、牛から蜘蛛へとグジュグジュと音を立てながら完全に変化。

 大穴を開けられているはずの口から「キシャァァァ!」と声をあげ、こちらを威嚇し始めた。


「おいおいおい、冗談じゃねぇぞ! あんな状態でまだ動けるのかよコイツ! こっちはもう戦える状態じゃねぇんだぞ!!」


 マナが切れ「うぅ⋯⋯」と、杖に寄りかかり、なんとか立っているイーリン。苦しそうに片膝をつき、大弓を降ろしているダストン。ドロシーとビートは発射の衝撃で後ろに吹きとび、重なりあって仰向けに倒れ気絶している。


(動けるのは俺だけか⋯⋯)


 エータはアイテムボックスで簡素な鉄の棒と木の盾を取り出し、構える。盾も鉄にしたかったのだが、自分の今の腕力じゃ扱える気がしなかったから木だ。無いよりはマシだろう。

 前の世界にいた時は半べそをかきながら逃げ出していたであろう怪物。しかし、ベヒモスを見た今、もはやこんなモンスターにひるむことは無い。

 それに⋯⋯。


(この人たちを絶対に死なせたくない!)


 そんな強い意志がエータに「逃げる」という選択肢を消していた。


「エータ。逃げて⋯⋯」


「ワシらの事は良い、逃げるんじゃ⋯⋯。あんな状態でも牛鬼は牛鬼、お前さんに万に一つも勝ち目は無い⋯⋯!」


「イヤです! ビートに助けられた命⋯⋯どうせなら、あなた達の為に使いたい⋯⋯!」


 木の盾をしっかり構え、牛鬼の一挙手一投足を見逃さんとするエータ。


「エータ⋯⋯なんか来る⋯⋯」


 倒れていたビートがドロシーから降り、フラフラと身体を起こしながら言う。


「マジかよ⋯⋯コイツだけでも勝てるかわからないのに⋯⋯」


 と、牛鬼もなにか来るのを感じたのか、落ちそうな目玉をゆらゆらさせながら山の中へと一目散に逃げていった。


「逃げおった⋯⋯牛鬼の仲間では無いのか⋯⋯?」


 ダストンが疑問を口にしたその瞬間、エータの足元に矢が突き刺さる。



 ――山で暴れたのは貴様らか!?



 白百合のように凛とした声があたりに響く。

 声の方を見ると、朝焼けのように淡い金色の長髪をポニーテールにし、若草色の戦闘服を身にまとった、耳の長い美しい女性がいた。


「⋯⋯エルフか!?」


 ダストンが驚いたような表情でいう。


「愚問だ! 見たままであろう! 私の名はフィエル! 貴様ら、(ふもと)に住んでいる人間たちだな!? ここで何をしている!? 返答次第では容赦しない!!」


 フィエルと名乗った女性はギリギリと弓を構える。

 ビートは、意識が朦朧としているドロシーをかばうようにしながらフィエルを警戒。

 イーリンとダストンはもう力が入らないといった様子だ。

 張り詰めたような空気が流れる!!



「やっべぇ、めっちゃ美人⋯⋯」



 エータは思わず口にしてしまった!!!


(っておいいい! やっちまった!!)


 緊張による緊張の連続だったため、思考回路がバグっていたエータは、思った事をそのまま口に出してしまった。


 フィエルと名乗った美女は、無言で目をふせている。その身は小刻みに震えていた。


(ま、マズった⋯⋯明らかに堅物そうなお嬢さんだ。こんなふざけた事を言ったら怒るに決まって⋯⋯)


「な、な、な、びびび美人だと? わたっ私は里一番の醜女(しこめ)と言わりぇて⋯⋯!!」


 美人と言われたフィエルは、顔を真っ赤にしキョドりまくっている。


(あれ? もしかしてこの子チョロい?)


 エータは(ワンチャン見逃してくれるんじゃね?)と思い始めたが、フィエルは「えぇーい!」と首を左右に振り、弓をギリリと構えなおした。


「話をそらすな人間! そうやって私をたぶらかすつもりだろう! これだから人間は信用ならんのだ!!」


(あかーーーん! やっぱりダメだった! これは完全に選択肢をミスったか!?)


 と、その時だった!



「拙者が説明するでござる」



 暴れ舞う木の葉と共に、マフラーで口元を隠した筋骨隆々の白髪お兄さんが現れた。

 その風貌は『スタイリッシュ!ジャパニーズ!忍者!!』としか形容できない姿である。

 忍者っぽいのだが、どことなく『外国人がイメージする間違った忍者』という感じが否めないのだ。


 頭巾は被らずマフラーで口元を隠してるだけだし、忍び装束はノースリーブ。

 太ももはあろうかという巨大な両腕が、筋肉をこれでもかとさらけ出し隆起している。

 そんなマッチョな肢体に白髪が合わさっているのだがらコスプレ感マシマシ。生粋の日本人であるエータからしたら違和感の塊なのだ。


「何者だ貴様! 今のは『魔技(スキル)』だな? 亜人種か!?」


 フィエルが弓を忍者に向ける。

 えっ?スキル?亜人種?どゆこと??この忍者さん人間じゃないってこと?そうは見えないんだけど⋯⋯。と、エータは混乱を極めた。


 白髪の忍者は「いかにも」と、こたえ、話を続ける。


「拙者のことはよいでござろう、森人の娘よ。それよりも、この者たちのことだ。一部始終を見ていたが、彼らに罪はないでござる。拙者の話を聞いては貰えぬか」


 フィエルは弓を構えたまま、しばし無言になる。

 どうやら考えているようだ。そして


「良いだろう。亜人種が理由なく人間を庇うなどありえないからな」


と、弓をおろした。


「感謝するでござる。聡明な森人の娘」


 忍者は深々と頭を下げた。

 なんとまぁ任侠魂(にんきょうだましい)あふれる御方だ。


「申し遅れた、拙者の名はシロウ。向かいの山から大爆発が見えたのでな。偵察のために急ぎやってきたのでござる」


 シロウ、と名乗る亜人の忍者は背筋をピンと伸ばし、ノースリーブから出るその立派な腕を組みながら答えた。


(爆発って一発目のベヒモスの攻撃だよな!? それを向かいの山から見てココに!? どんな足してんだよこ!! 見てから対応余裕でしたってこと!?)


 数十キロはある距離を即座に移動したという人間離れした忍者、シロウは続ける。


「この者たちは山に巣食う人類の仇敵(きゅうてき)『牛鬼』と戦っておったのだ」


 フィエルは鼻で笑った。


「牛鬼だと⋯⋯そんな訳がないだろう。あいつの魔技(スキル)は『鬼軍曹(オーガサージェント)』と『致死猛毒(デッドリーポイズン)』。鬼種のモンスターを操り、猛毒を射出する物だ。あんな大爆発を起こす物ではない」


「それがだな⋯⋯」


 白髪の忍者、シロウは説明に困っているようだった。それはそうだ。牛鬼はベヒモスに乗っ取られていた。ただ、それを説明しようとすると、どうしても眉唾物になってしまう。

 エータが助け舟を出そうと口を開いた。


「えっと、信じてもらえるかわからないんですが」


 次の瞬間、ストッ!と、またしてもエータの足元に矢が放たれる!


「貴様に発言して良いとは言ってないぞ? 人間」


 フィエルは威圧するように言った。

 エータは矢にビビりながらも、この状況をどうにかする為に思考をめぐらせた。


(これを見てもらった方が早いか?)


「アイテムボックス!」


 エータは、地面に刺さった矢を『収納』した。

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