第023話〜白鳥の蒼湖〜
ベヒモスは人間がコソコソと隠れているのを「所詮、クソ人間の浅知恵」として嘲笑っていた。
(おおよその場所は割れてんだ。わざわざ時間をくれてありがとよ! 撃たせてもらうぜぇ!?)
ベヒモスは上体を起こし、後ろ脚を地面に突きさす。
あの『攻撃』の準備をするために。
(今度こそ消し飛びなぁ! クソ人間共!!)
上体をひねり、心臓をドクンと鳴らすと、超高圧縮されたエネルギーが右腕に集まっていく!
――ガサガサッ!!
濃霧の影からビートが飛びだし、ベヒモスの目玉に向けて矢を放った。
ベヒモスは頭を動かし、それを避ける!
(二度も当たるわけねぇだろバーカ!!)
ベヒモスがそう思った、次の瞬間だった!
「良い角度ですわ!!」
霧の中でベヒモスの背後に高速で迫っていたドロシー。
彼女の足には鮮やかなブルーの光沢を纏ったブーツが装備されていた。
大量の魔素を使った身体強化で彼女の長い足は光り輝き、その魔素をリヴァイアサンのブーツが強力な海の力へと変換しているようだ。
(頭の中に文字が⋯⋯! いけますわ!!)
――蒼燕蹴撃――
青白い閃光が衝撃と共に弾ける!!
ドロシーはベヒモスのヒジを思い切り蹴り上げた!
「ガバァッ!!!!」
蹴られた衝撃で、エネルギーの塊になっている右腕は、ベヒモスのアゴにアッパーをする形でクリーンヒット。
無様な声をあげながら空を見上げる形となったベヒモス。
この上ない屈辱である。
しかし、彼はいまそれどころでは無い。
(なんだこりゃ!? いてぇ!! 人間の攻撃で俺様に痛みが走るわけが!! この気配!? ウミヘビ野郎!? アイツの一部か!! くそっ! 何がなんだかわからねぇが俺様の足を引っ張りやがってあのクソヘビ!! ってそんな場合じゃねぇ!! エネルギーが爆発しちまう!! 早く体勢を整え⋯⋯!)
――白鳥の蒼湖――
ドロシーは、蹴り上げた足の勢いを止めず、身体をくるりと回転させて、今度はベヒモスの後頭部に見事な回し蹴りを決めた。
一連の所作は、一つひとつ美しい。
まるで、バレリーナのようである。
「ブゴォッ!!!!」
ベヒモスの後頭部に激痛が走る。
蹴られた勢いで顔面にメリメリと右腕が埋まっていく。
(クソ人間んんんん!!!)
ベヒモスの思考が危機回避よりドロシーへの怒りで最高潮になった時、ドロシーはベヒモスの頭をつよく踏み、攻撃の射程外へと遠く飛びさっていった!
――んべっ!!
空中を美しく舞いながら、ドロシーはベヒモスに向かって渾身のあっかんべー!を披露。
(ああああああぁぁぁぁぁぁ殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!)
ブチブチブチィと頭の血管をいくつも破裂させ、マグマを噴火させるように血が吹き出したベヒモス。彼は、自分の顔面に『陸神獣の拳撃』を暴発させた。