第017話〜ベヒモス・チャージ〜
――陸神獣の拳撃――
ベヒモスの一撃が放たれる。
まさにその瞬間であった。
――スタンッ!!
ベヒモスの目に一本の矢が突き刺さる。
――ヴォォォォ!!!――
ベヒモスは体勢を崩し、拳を空へと放つ。
ベヒモスの周りにある木々は根から吹き飛ばされ、宙を舞いおどった。
バサバサと山の木々は風になびき、大地はおおきく揺れた。
放たれたエネルギーははるか上空で太陽のごとく発光。その後、大爆発をおこし、隕石のような炎の塊が降りそそぐ。このままでは山に生きるすべての生命が脅かされ兼ねない。
――氷柱豪雨――
イーリンがそう叫び杖を空に掲げると、空中に巨大な氷柱が大量に作成され、炎の塊へと飛んでいく。
しかし、炎の塊は数本の氷柱など無視し、無慈悲に落ちてきた。
イーリンは目をつむり、力いっぱい氷柱を量産し続けている。だが、自分たちの周りに落ちてくる2、3個の炎を消すのが精一杯のようだった。
ドォン!と大きな音を立てて、十数個の炎の塊が山に落ちる。その炎は山に住むすべての生命を奪おうと、燃え広がりつつあった。
「アイテムボックス!!」
エータは大量の水を出現させ、炎で燃える山の木々たちを走りながら鎮火させていく。アイテムボックスの範囲が異常に広いこともあり、なんとか大丈夫そうだ。
(誰が邪魔しやがった?)
ベヒモスは空を見たまま硬直。
「へへっ、どうだ⋯⋯このウシヤロー⋯⋯!」
ビートは大弓を構え、ガタガタと震えている。
どうやら、先ほどべヒモスの目を攻撃し、エネルギーの軌道を変えたのはビートのようだ。彼は弓を構えたまま動けないでいる。完全に腰がくだけてしまったのだ。
(てめぇか? クソ人間)
ベヒモスの目にささった矢が一瞬で燃えさり、蒸気とともに目が再生されていく。
そして、天をあおいだその頭をビートの方にギギギと向け、新しく産まれた瞳でギョロりと睨みつけてきた。
(別によぉ。お前たちまで殺すつもりは無かったんだぜ? 使徒の魂さえ連れて行ければ)
ベヒモスは埋まった脚を、地面をマグマに変えドチャリ、ドチャリ、と抜く。その姿を見て、ビートは上手く呼吸が出来なくなるほどに恐怖した。
(そんなに死にてぇならまずはてめぇから殺してやる)
――陸神獣猛追――
ベヒモスは後脚に力を入れ、角を発光させながら一足飛びでビートに迫った。
――ドドォォン!!
何十本もの木々をなぎ倒し、やっと止まったベヒモスは、自身の角を確認する。
(感触が無ぇ。避けやがったか)
ベヒモスはチッと舌打ちをし振り返る。
砂埃の晴れたそこには、ビートとダストンを体当たりで突き飛ばし、地面に倒れるドロシーの姿があった。
「ドロシー!!!」
ビートが駆けよる。彼女はベヒモスにかすってしまったのか腕が焼け、流血していた。
「バカ親子⋯⋯」
(悪態をつく元気はあるか⋯⋯)と、ビートはホッと肩をなでおろし「すまねぇ」と優しく返した。
そして、震える足をバシンッと叩き、恐怖に飲まれそうな自分に気合いを入れた。
「親父、まさかまだボケてねぇよな」
ダストンがむくりと起き上がる。
「あぁ、目が覚めたわい」
その目には、歴戦の猛者としての闘志の炎がまた宿っていた。
マナを使いすぎてフラフラのイーリンは、よろめきながらもドロシーに近づき火傷をおった腕に氷魔法を唱えている。
ベヒモスはそんなビートたちの姿を見て、心底めんどくさそうに首をポキポキと鳴らし、また突進の構えにうつる。
(ワシの身体がバラバラになろうとも止めて見せる!)
ダストンがビートたちの前に立ち、両手を広げてベヒモスの攻撃にそなえる。身体強化を最大まで高めたその身体は白く、激しく、発光していた。
その行動のすべてが、ベヒモスをさらにイラつかせた。
(止めれるモンなら止めてみやがれ。クソ人間!!)
ベヒモスは両脚と角を赤く発光させ、先ほどより強く踏み込んだ!
――陸神獣猛追――
(ビート、すまん⋯⋯先に逝く)
ダストンの脳裏には、いままでの人生。そして、おさないビートの姿が映し出されていた。