第015話〜凱竜天〜
ダストン、ドロシーは足をとめずに走り続けている。
(ゴブリン!? そうか、さっきのは弓矢の音だ。きっと俺たちを狙った矢が木の幹に刺さったんだ!)
まだ殺しあいに慣れないエータは、恐怖でダストンにしがみつく。
「安心せい! 頭の悪いアイツらは弓矢がなかなか当たらん!」
ダストンの優しさに感謝しつつも、怖いものは怖い。エータは力をゆるめる事なくしがみついた。
「ダストン!! ゴブリンは9時の方向にいるみたいですわ!!」
身体強化で視力を上げているのか、闇夜の中でもしっかりとゴブリンを捕捉するドロシー。
「あいわかった!! エータとやら! なにか武器になりそうな物は出せるか!? 丸太でも良い!!」
「は、はい!! じゃあ丸太を!!」
ダストンの近くに高さ150センチ、幅50センチほどの丸太が現れる。およそ人間が持てるような代物ではない。
「よっしゃぁぁあ!! 覚悟せい小鬼共!!!」
そういうと、ダストンはキキィー!と、足を止め、ミシミシと音が鳴るほどに筋肉を隆起させた。そして、おたけびと共に丸太を持ち上げ、バットをフルスイングするように振り切った!!
――凱竜天――
丸太から発せられた爆風は木々をメキメキとなぎ倒し、まるで一匹の龍がすべてを駆逐するように飛んでいく。
「うぉあああぁぁぁ!! ダストンさーん!! 俺が背中に乗ってるの忘れてませんかぁー!!」
エータは衝撃でダストンの背中から3メートルは吹きとばされた。
「相変わらずメチャクチャですわ⋯⋯」
「マナの塊。飛んでった」
ドロシーとイーリンがあきれながら言う。一同は「もうあんただけで良いんじゃないか?」という空気になっていた。
爆風の通りすぎた後をじぃーっと見るエータ達。
「ゴブリンが4体転がってますわね。」
「ふむ、まだ居そうじゃな。警戒を緩めず先に進むぞ」
ダストンの言葉に三人はうなずき、また闇夜の森を進みはじめる。
「あの⋯⋯ダストンさんのさっきの爆風なんですが、あれはいったい⋯⋯」
道中、エータはダストンの異常な腕力が気になり、聞いてみる。
「ん? 武芸術疾走のことか?」
「アーツドライブ?」
「お前さん、まさかアーツドライブを知らんのか?」
ダストンが心底あきれたように言う。
「は、はい⋯⋯」
「そんな人間がおるとは⋯⋯アーツドライブっちゅうのは、体内のマナを使って放つ技のことじゃな。先ほどの凱竜天なる技は、身体強化で筋力をあげ、鈍器特攻というアーツで威力を増加させたものじゃ」
「なるほど⋯⋯」
ゲームのスキルみたいなものか。と、エータは納得した。
「アーツドライブはイメージが大事でな。自分がいまからやろうとする行動に、ふっと名称が浮かぶことがある。その名をさけぶ事でより具体的にアーツドライブを使うことが出来るのじゃ」
「そういえば、俺のアイテムボックスもそうでした。頭に名前が浮かんできて⋯⋯」
「そうじゃろう。ジョブやアーツはその人の魂を見て、バスティ様が授けてくれるものらしいからのう。無自覚に使い方がわかるのじゃろうて」
エータはなるほどと納得した。
「イメージさえしっかりして居れば技名を口にだす必要は無いんじゃが、よっぽどの理由がない限りは叫んだ方がよいな。威力が安定するからの」
ダストンの助言を受けつつ、エータたちは更に山の奥へと進んで行った。
――――――
そんなこんなで、襲い来るゴブリンを破竹の勢いで撃破しながら一行は進む。ほどなくして、フォレストウルフの死体が転がっていた場所までやってきた。フォレストウルフは何者かに捕食されたような後があり、ほぼ原型を留めていなかった。
「間違いなくここです」
エータはこたえる。
ビートが居てくれれば良いんだが⋯⋯。と、4人は辺りを見渡す。
「バカ息子ー!! どこじゃー!!」
突然、ダストンは山中にひびく大声で叫んだ。
――スパーン!
ドロシーがダストンの後頭部を身体強化した手でビンタする、それはもう凄い音を響かせて!!
「バカですの!? バカですの!!? 親子そろってバカですの!!?? そんな大声出したらビートだけじゃなくてモンスターにも見つかってしまいますわよ!!?」
ごもっともである。しかし、ドロシー。君の声もたいがい大きいぞ。エータとイーリンは冷ややかな目で二人を見ていた。
ダストンは(すまん⋯⋯)と、叱られた大型犬のようにしおれている。歴戦の猛者のような風貌だが、よく今まで生き残ってきたものである。
そんな茶番をしていると、近くの木がガサガサと動いた。どうやら上になにか居るようだ。
「親父⋯⋯? それにお前たち⋯⋯何やってんだ?」
それは、木の枝の隙間から顔をのぞかせたビートだった。
「ビート!!」
ドロシーはすこし泣きそうな顔になったが、すぐに鬼の形相となり「あんたねぇぇ!」と怒気をこめた声で叫ぶ。
「バカ!! しー! しーー!!」
ビートは口に人差し指をおき、必死に訴える。今度はドロシーが叱られるという謎の状況。ドロシーはハッと口に手をあて、コホンと咳払いをし、ビートにいった。
「あんたを迎えに来ましたわよ。さぁ、早く帰りましょう」
ビートはキッと真剣な面持ちとなり、首を横に振った。
「ダメだ、俺はヤツに見つかった⋯⋯お前たちだけで早く逃げろ!」
いったい何に見つかったというのだろうか、一同が疑問に思っていたときだった。
「くそっ!! すげぇ勢いで近づいてきてる!! 頼む!! みんな早くここから離れてくれ!!!」
(なんだ!? いったいどうしたんだビート!? なにをそんなに慌てて⋯⋯)
と、エータが考えていた次の瞬間。
――ブモォォォォ!!!――
とてつもない鳴き声が山中にひびいた。まるで耳元で銅鑼を叩かれたような衝撃。あまりの爆音に一同は両手で耳をふさぐ。
そして訪れる静寂⋯⋯。
「な、なんじゃあの声は!!」
「ただごとじゃありませんわね⋯⋯」
「ドロシー! 怖い!」
イーリンがドロシーの服をギュッと掴む。ドドッドドッ!と、なにか大きな四足歩行のケモノのような足音が近づいてきた。
「あ、あぁ⋯⋯」
エータの本能が激しく警鐘を鳴らしていた。
(俺はコイツを知っている。コイツに会ったことがある! いや、正確には『コイツと同等の存在』に会ったことがある!!)
巨大な生物の足音がエータたちのすぐ近くまでせまる。
「みんな!! コイツには勝てない!! 逃げろ!!」
長い人生のなかで、一度も出したことのない大声でエータは叫んだ。
「陸神獣だ!!!!」