第148話〜建国〜
エータたちと合流するフィエルとビュフィム。
オークとなったエルフの女性は、恐怖によりエータの後ろで震えていた。
「あっ⋯⋯」
ビュフィムは自らの行いを思い出し、気まずそうに顔をふせる。
「ディアンヌ、回復を頼めるか?」
「はい!」
ディアンヌは全員の傷を回復。
しかし、やはりオークをエルフに戻すことは出来ないようだ。
「エルフさんはケイミィじゃないと治せないみたいです⋯⋯」
「あぁ、ケイミィならきっとやってくれる」
エータは後ろに隠れるオークの頭を思わず撫でる。
オークは、ケイミィというのが誰かわからないが、エータの自信に満ちた表情から、希望を見出しているようだ。
「ご、ごめんなさい⋯⋯私、解毒薬は持ってなくて⋯⋯。そもそも存在するのかも⋯⋯」
ビュフィムが気まずそうにエータに告げる。
「大丈夫。うちの錬金術師は優秀だから。それよりも、ビートとシロウは見つかったのか?」
「あ、あぁ! だが、かなり危険な状態だ! 急ごう!!」
フィエルは先頭を行こうとするが、道がわからずキョロキョロしている。
「通路は入り組んでて迷うわ。私が案内してあげる」
ビュフィムが背中を見せる。
「⋯⋯私が先頭にいないと、怖いでしょうしね」
チラッとオークを見た彼。
オークはまたエータの後ろに隠れた。
――――――
湿った土の匂いに包まれながら地下通路を進み、闘技場へ向かっていると、傷だらけのモンスターたちが仰向け倒れたビートとシロウを囲っているのが見えた。
モンスターたちは、ビュフィムの姿を見るやいなや、ボロボロの身体にムチを撃ち『恩人に手を出すな』と言いたげに戦闘態勢に入る。
「⋯⋯私じゃ彼らを刺激するだけね」
ビュフィムは立ち止まり、フィエルの方を向いた。
「やっぱり私、あなた達とは行けないみたい⋯⋯。あとは真っ直ぐ行くだけだから。闘技場についたら、ヘビの石像のあるトビラから出なさい。一番早く地上に出られるわ」
「貴様はどうするのだ?」
来た道を戻るビュフィムの背中に問いかけるフィエル。
「私は⋯⋯他の出口から出るわよ」
彼は地下通路の奥へと消えていった。
すぐさまモンスターを含め全員の回復を試みるディアンヌ。
「あぢがど」
「じんげん」
「ぼんじん」
傷が癒えたモンスターがなにやら話しかけている。
言葉はわからないが感謝しているという事だけは伝わった。
「礼はここを出て元の姿に戻ってからな! 行こう!」
大所帯となったエータたちは足早に地下通路を後にする。
――真っ直ぐ進むとビュフィムの言う通り闘技場が見えてきた。
――深海礼賛・胡桃割――
ドロシーの声と共に、爆音が聞こえてくる。
「ドロシーが戦ってる!」
歩みを早めるエータたち。
――――――
地下闘技場。到着。
ボロボロのミノタウロスの近くに、抱き合うドロシーとアイチェの姿。
そして、頭から地面に突き刺さった紅いドレスの女性。
「ドロシー! アイチェ!」
「エータ! ビートとシロウは大丈夫ですの!?」
「あぁ! ディアンヌが回復してくれた! いまは眠ってる!」
その言葉にホッとした様子のドロシーとアイチェ。
「みなさんも治癒しますね!」
ディアンヌはドロシー、アイチェ、ミノタウロスにも治癒をかけた。
「ハロルドは討った! あとは勝鬨をあげるだけだ!」
エータはヘビの石像を指さす。
「あそこからすぐ地上に出られるらしい! 行こう!」
一同は地下闘技場を後にした。
――――――
それからしばらくして、白金の鎧を着た青髪の男が、はげしい戦闘跡をのこす闘技場へと来た。
「ここにも居ないか⋯⋯」
それは、騎士団長オリオン。
彼は地面に突き刺さる紅いドレスの女性を視認する。
「ろ、ロウル様!?」
なにをどうすればこのような姿になるのか理解が追いつかない彼であったが、急いで彼女を救出する。
「うっ⋯⋯」
ロウルは見るも無惨な状態であった。
そんな彼女に、オリオンは剣を向ける。
――癒輝巨星――
剣から発せられた聖なるマナが、ぐちゃぐちゃになった彼女の顔を多少治癒した。
そして、気絶した彼女を抱えて、オリオンは地下闘技場を後にするのであった。
――――――
プリース王国・首都パイナス北。
王家の隠し通路と繋がった、商店街のとある店。
ヴォルグ商会・本店。
社長室。
その床下から、のそりとあらわれるエータ一行。
「おぉ、本当に出られた」
「ビュフィムとやらは大丈夫だろうか」
「地下の道に詳しいようでしたし、大丈夫だと思いますよ」
「早く、勝利の報告、する!」
「そうだな!」
――エータたちは、商会の外へ出る。
「よし、フィエル! 最後の仕上げと行きますか!」
「あぁ!」
エータの足に風のブーツが作られる。
二人は仲良く手を繋ぎ、天空へとジャンプした!
「お疲れ様、エータ」
空へと舞い上がりながら、フィエルが嬉しそうにエータに言う。
「フィエルもな。もしかしたら、大変になるのはこれからかも知れないけど」
困ったように言う彼に、フィエルは優しくほほえみ、口を開いた。
「私がずっと支えるよ、ずっと⋯⋯」
「フィエル⋯⋯ああ、よろしくな!」
――空中で止まり、辺りを見回す二人。
パイナスは中央の王城こそ破壊されては居るが、その隣がぐるりと庭園に囲まれていることもあり、貴族街や民家にはほとんどダメージが無いようだった。
「不幸中の幸いだな⋯⋯」
エータはつぶやく。
「新しい城も、街の復興も、エータなら一瞬で終わらせられる。すぐに元の生活に戻れるだろう」
フィエルは国に混乱をもたらしたことに心を痛めているであろう彼に優しく問いかけた。
「そう⋯⋯だな」
エータは胸に手を置いて言う。
「かならず良い国にしてみせる」
フィエルはこくりとうなずき、フィンにマナをそそいで巨大な風の螺旋をつくってもらった。
それは音を増幅させるスピーカーである。
「コクシ大陸に混乱をまねいた愚王! ハロルド・ラ・プリースは討った!」
エータの声が爆音となり、首都パイナスだけでなく南のちいさな街にも届く。
「俺は! 月女神バスティの使徒! エータ・ミヤシタだ! いま現在をもって! この国、ラ・プリース王国は! ブバスティス帝国へと! その名を変える!」
その声を民衆は外へでたり、室内で震えたりしながら聞いている。
「俺は! バスティ様から! こんな言葉をたまわった! 『私たちの愛した、この世界と子供たちを守って!』と! これはつまり! 創造神プタラムと! 月女神バスティの子どもたち! 人間と亜人種のことを指していると! 俺は解釈している!」
ボロボロの布をまとい親子で抱きあう亜人が、その言葉に目を潤ませている。
「おかーさん、どーいうこと?」
「私たちが救われるかも知れないってことかも⋯⋯」
「俺は! ブバスティスを統べる皇帝として! ここに宣言する! 一つ、戦争終結! 二つ、奴隷制度の撤廃! 三つ、みなに戸籍を作り、平等に『人権』を与えること! きっと、人間の中には不安に思う者も居るだろう!」
エータは出来るかぎり、心を込めて言葉をつむいだ。
「だが! 安心して欲しい! 俺が目指すのは『平等な国』だ! 人間と亜人! どちらかを優遇したりはしない!」
エータのまっすぐな言葉に家の中で震えていた人間たちも、すこしだけ希望を見出したようだった。
「前王より! かならず良い国にして見せる! 今からその証拠を見せる! みんな! 危ないからそこを動くなよぉぉー!!」
――税収――
エータは自分のことを統治者として認めてくれた者たちから、ジョブやアーツを一時的に回収した。
「アイテムボックス!!!!」
彼がそう叫ぶと南の街の城壁は消え、首都パイナスは破壊された王城までをも完璧に再現しながら戻っていく。
その奇跡のような所業を、プリース王国の民衆は神話を目の当たりにしているような瞳で見つめていた。
「バスティ様の使徒⋯⋯」
「俺たちは夢でも見てるのか?」
「本物だ⋯⋯」
「奴隷から解放されるの?」
「戦争が無くなれば重税も少しは緩和されるかも⋯⋯」
「貧困に苦しむ平民に、まともな治療も受けさせることが出来るだろう」
「戦地におもむいた息子にも会えるようになるのか?」
人々は、これから始まる新しい生活を不安に思いながらも『もしかしたら』と、希望を抱きはじめていた。
――その時だった。
北の海から『悲しみ』が、新しく産まれた国『ブバスティス帝国』へと落ちてきた。




