第146話〜永遠に愛してる〜
プリース王国・首都パイナス北。
王家の隠し通路から北に抜けた先にある、闘技場の控え室。
エータは隠しトビラになっている闘技場の壁から現れた。
「すげぇ⋯⋯歴史がある分、街の構造が完成されてるな」
いつ誰が作ったのかもわからないが、ギミックや経年劣化を見るに千年以上前のシロモノだろう。
しかし、それはまさに職人芸といった様子で、地下通路も隠しトビラも、現在にいたるまで十分にその役割を果たしている。
「監獄にビートたちは居なかった。きっとここに居るだろうな」
エータは部屋を出て闘技場を散策しはじめる。
ぼろぼろとこぼれ落ちる土壁をなぞり歩いて居ると、曲がり角から二匹のオークが姿をあらわした!
――プギィィィィ!!
その二匹は傷だらけで興奮状態にあり、身体に真っ黒でどろりとしたオーラをまとっていた。
身長は165センチほどだろうか。
オークにしてはひと回りちいさい。
「オーク⋯⋯! なんでこんなところに」
エータはアイテムボックスからウォーハンマーを取り出し、マナを込める。
それをケバケバしい化粧をしたモヒカンの男が、通路の影に隠れニヤリと腕を組んで見ていた。
「すまねぇけど、通してもらうぜ」
エータがアーツドライブを放とうとした。
その時だった!!
「――――――ッ!!」
ハッと何かに気付いたエータは、そのウォーハンマーの輝きを止め、アイテムボックスにしまう。
そして、襲い来るオークたちの攻撃を紙一重で交わしながら進む。
――プギィィ! プギィィィィ!!
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
エータはほおをかすめる拳で切り傷を作りながらも、一匹のオークの瞳をじっと見つめた。
彼は、二匹のうち、一匹には目もくれず。
ただ、もう一匹のみ。
サファイアのような蒼い瞳をしたオークの瞳を。
じっと見つめた。
そして。
「フィエル⋯⋯?」
およそ考えられない一言を放つ。
彼の言葉に、蒼い目のオークが一瞬だけピクリと止まった。
「やっぱりそうか⋯⋯」
オークたちの猛襲を右へ左へと回避しつづけ、蒼い瞳のオークへと近づいていくエータ。
「なんでって顔してる」
――プギィィ! プギィィィィ!!
さらに黒いマナに飲まれたオークは、エータに向かって狂ったように拳を振りかざす。
「わかるよ、そりゃ」
何度も何度も振り下ろされる拳をことごとく避け続け、そして、肩で息をするオークをギュッと抱きしめた。
「だって、俺の大好きな人だから」
その言葉を合図とするように。
二匹のオークから黒いマナが霧のように消えた。
「だんで」
抱きしめられたオークが言葉を発する。
「だんで、だんでばがづど?」
そう言って見つめてくるオークのほおを、エータは優しく撫でた。
「わかるよ。当たり前だろ?」
彼は優しく微笑んだ。
その太陽のような笑顔に。
オークは大粒の涙を流す。
彼女はすんすんと泣きながら、丸太のようになってしまった腕や手を見て、ぺたんと耳を下げた。
「あっ、フィエル。いまさ」
エータはオークの頭を撫でながら言う。
「こんな姿になったらもう愛してもらえないかも、とか思ってるだろ」
哀しそうにうつむく彼女の顎をそっと引き寄せたエータは、まぶたを閉じて彼女の唇へと向かう。
「安心しろ、どんな姿になっても君が好きだよ」
――永遠に愛してる、フィエル。
二人の唇が触れた瞬間。
オークは光に包まれて、金色の長いポニーテールを揺らす美しいエルフへとその姿を変えた。
オークだった者――フィエルは、瞳を閉じ涙を流しながらキスをしている。
ゆっくりと唇を離した彼女は、エータの目を見て問いかけた。
「なんで⋯⋯?」
その宝石のような瞳からぽろぽろと涙がこぼれる。
「なんで? なんで? なんでわかるの? なんで⋯⋯」
彼女は本当にわからなかった。
あんな醜いバケモノに変えられて、言葉も発せず、傷付けようとさえしたのに。
わからない、わからない⋯⋯。
自らの胸からあふれ出る、この熱い感情すらも。
「なんで、わかってくれたの? エータ⋯⋯」
エータはぽりぽりと頭をかいて、すこし照れくさそうにもう一度告げた。
「だから⋯⋯君が好きだからだよ。フィエル!」
ドキドキと鼓動が止まらない。
『好き』という二文字で頭の中がいっぱいで、どうにかなってしまいそうだ。
「エータ!!」
フィエルはエータの胸の中で、少女のように大きな声をあげて泣いた。
きっともうこの先、彼以上に好きになる人なんて現れない。
いや、何度生まれ変わろうと⋯⋯。
現れることは無い。
何度生まれ変わろうと、
かならず彼と結ばれたい。
ずっと、ずっと⋯⋯。
彼と、愛し合いたい。
彼女はそんなことを考えながら、
もうこの先、離れてしまわないように、
身体なんか飛び越えて彼と一つになりたいと、そう願うように。
強く、強く、彼を抱きしめた。




