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アイテムボックスが最強すぎて廃村を立て直すなんて余裕でした?ウソです超大変です!  作者: 河津乃毒袋
VSプリース王国編

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第143話〜深海礼賛・胡桃割〜

 紅と蒼の光る軌道だけが、闘技場を(いろど)る。



 ――白鳥(スワン)蒼湖(ブルーレイク)――

 ――白鳥(スワン)紅湖(レッドレイク)――



 海の力を纏いしドロシー、灼熱の力を纏いしロウル。

 二人の足が重なるたび、衝撃波があたりを吹き飛ばす。


「くっ⋯⋯ここに居ては巻き込まれる⋯⋯」


 シロウはぐったりとしたビートを抱え、なんとか立ち上がろうと身体に力を入れる。

 しかし、とうに限界を超えた肉体は言うことを聞いてくれない。


「アイチェ⋯⋯!」


 シロウは一番危険であろう、戦闘の最前線にいる彼女に視線を向けた。アイチェは耳をしょんぼりとさせ、闘技場のすみでひとり泣いていた。

 いつもならば喝を入れるシロウだが⋯⋯。


(アイチェ⋯⋯)


 彼女の気持ちを考えると、とてもそんな事は出来ない⋯⋯。


 それがこの状況において正しくないことは理解している。しかし、彼はどうしても彼女に声をかけられないでいた。


 すると、血だらけのモンスターたちが、よろめきながらシロウたちへと向かってきた。


「くっ⋯⋯」


 まだ動けるのか⋯⋯!

 シロウはビートを害されまいと庇うようにグッと身体を縮める。これ以上攻撃されれば、すぐにでも彼の魂は天へと召されてしまうだろう。


「でを」

「ぢげろ」

「ごんじん」


 モンスターたちはシロウとビートの身体を持ち、闘技場の外へと血をポタポタとこぼしながら進む。


「⋯⋯助けてくれているのか?」


「ごんじん」

「じだぜだい」

「あぢがど」


 上手く聞き取れないが、確かに言葉を発している。


(モンスターが⋯⋯言葉を⋯⋯?)


 混乱するシロウだったが、ハッとアイチェの顔を思い出し「アイチェ!!!!」と、さけんだ。

 しかし、その声を聞いているであろう彼女は顔をあげることは無かった。


「た、頼む⋯⋯あの子を⋯⋯」


 シロウはそれだけ告げると、緊張の糸が切れ意識を失った。



 ――――――



 ――百舌鳥蒼落(もずあおとし)――

 ――紅燕蹴撃(レッドスワローシュート)――



 ドロシーとロウルのダンスは続く。


 ワン、トゥー、スリー、とリズムを刻みながら踊るように戦い続けている。


 それは観る人が観れば、極上の舞踏であるのは明白。


(この雑草、観察眼(オブザーバント)で予測してますのに、変拍子で合わせてきますわ⋯⋯。なんてしなやかで常人離れしたリズム感⋯⋯!)


 ロウルは一手先を読んでいるにも関わらず、相手を見てから完璧に合わせてくるドロシーに戦慄していた。異常である。

 二人の命をかけたダンスはさらに拍子(ひょうし)を変えながら、複雑に、早く、鋭くなっていく。


「雑草にしては心得があるようですわね」


 踊りながらロウルが口を開く。


「舞踊とは、これ(すなわ)ち、対話ですわ」


 ドロシーはカポエイラのように逆立ちをし、胴体をぐぐぐとひねり、両足を回転させながら言う。


「生まれも! 育ちも! 関係ございません!」


 ギュルギュルとスピードをあげ、蒼い旋風を発生させるドロシー!


「人それぞれに! その場所で(アート)は花開くのです!」



 ――白鳥(スワン)(レイク)・蒼い情景――



 海のチカラを宿した旋風は大竜巻へと発展し、闘技場の金網をすべて吹き飛ばすほどに強大なチカラを増幅させている。


「ドレスを着たまま、なんてはしたない格好を!!」


 アーツドライブの規模の大きさに驚いたロウル。

 思わず紅孔雀を広げ、大量のマナを込めて振り払った。



 ――紅蓮鳳仙花(ぐれんほうせんか)――



 ドロシーの放ったアーツドライブは勢いをそのままに、ロウルのアーツドライブをかき消す。

 属性の優劣もあるだろう、だが、それだけではない何かが働いていた。


「炎が⋯⋯!!」


 かき消されていく業火をただ見守ることしか出来ないロウル。蒼い竜巻は殺意を込め、さらに大きさを増していく。



 ダンスを辞めた時点で、勝敗はすでに決していた。



 ロウルは自らに課した『ダンスでお相手する』という約束を破り、紅孔雀での攻撃をおこなった。


 それは、些細な裏切りだったかも知れない。


 しかし、そのちいさな(ほころ)びが、彼女の深層心理に無意識に『敗北』への道筋を。『心の屈服』をさせ始めていた。



(ダンスではこの女に(かな)わない)と!!



 そのままロウルの足は地を離れ、蒼い竜巻に巻き込まれていく。まるで渦潮に飲まれる一輪の花のように。

 ひきちぎれそうな身体にチカラを込め、体勢を立て直そうとするロウル。


「ぐぅぅ⋯⋯そんな、まさか⋯⋯!」


 ピグリアムの料理により常人離れしたステータスを有する彼女は、いまの今まで敗北したことが無かった。


 恵まれたジョブ、アーツ、ステータス、環境。

 かしずく家臣たち。

 金と地位に物を言わせた国宝級の魔武具『紅孔雀』。

 ハイ・ジーニアス魔道国で極秘に仕入れた、エルフの生命力を宿したカプセル。

 五十代とは思えぬ若々しい美貌(びぼう)


 それらを存分に享受(きょうじゅ)し、自分の思うがまま、蝶よ花よと育った彼女。


 しかし、彼女は見落としていた。




 ――この世界には限界突破という物があることを!




「はしたなくて、ごめんあそばせ? わたくし、王都のマナーにはまだ(うと)いんですの」


 ロウルがその声にハッとした時にはすでに遅かった。

 否。遅すぎた!!


 ドロシーの足には海のパワーを込めた水が、回転するように纏われている。それは、必殺のアーツドライブが繰り出されるという、死の宣告!!


「お、お待ちになって!!!!」


 観察眼(オブザーバント)でそのアーツドライブの威力を予測した彼女は、この世に生を受けてはじめて『恐怖』した。


「ほ、炎が⋯⋯出ない!!」


 海のチカラがうずまく中、ロウルは紅孔雀の炎の力で逃げることも出来ない。ハッキリと脳裏に浮かぶ『敗北』のイメージ。ぐちゃぐちゃになる自身の顔。


 未来が予測できるが故に、恐怖で心が支配されていく!


「わたくしの大切な人と、友達を傷つけて⋯⋯!!」


 ドロシーの目にきらりと涙が光る。

 彼女は空を蹴り、高速で縦回転をはじめた!


「あぁぁぁ! や、やめなさい!! やめてぇぇ!!」


「絶対に許しませんわ!! アイチェに頭を下げなさい! この外道!!」




 ――深海礼讃(しんかいらいさん)胡桃割(くるみわり)――




 ロウルの後頭部に、この世界でもっとも純粋な『パワー』を持つ『深海のチカラ』が振り落とされる。


「がっ!!!!」


 ロウルは白目をむきながら、大渦(おおうず)に巻き込まれるように回転し、闘技場の硬い地面へと叩きつけられた!


 顔面から垂直落下した彼女は巨大なクレーターをつくり、地面にめり込みながらも、なおグルグルと回転している。


 彼女の顔はこの世界トップクラスの美容療法をほどこした端正な顔立ちであったが、鼻と歯はねじれるように折れ、もはや見る影もない。


 アイチェは涙で濡れた瞳でそれを見ていた。


(ドロシー⋯⋯)


 ロウルはアイチェに向かって『土下座』をするように、深く、深く、地面に頭をめりこませて戦闘不能となった。惨めではしたなく地に伏した彼女。


 そんなロウルの横にふわりと降り立ったドロシーは、


「一曲お付き合いいただき、ありがとうございました」


 と言いながら、ドレスの裾を品良く持ち上げた。

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