第141話〜捕まったエルフ〜
プリース王国・首都パイナス北。
地下闘技場。
ドロシー、フィエル、アイチェの三人は、ビートとシロウ探索のため、趣味の悪い石像や装飾のなされた道を進む。
「なんですのコレ⋯⋯ヘビ?」
「キメラのような像もあるな⋯⋯」
「は、早く行くッスよ〜! 不気味ッス〜!」
道には松明が残っており『まだここに誰か居る』というのを、その灯りが伝えていた。
と、通路の奥で、ケモノの声と何かが殴りあう音が聞こえる。
「出口のようですわ⋯⋯」
三人はおそるおそる通路の先へと近づいた。
そこには⋯⋯!
「し、シロウさん!!」
「ビート!!」
円形になった地下のコロシアム。
空になった観客席。
その中央、金網の中で⋯⋯。
身体中を血だらけにしフラフラになりながらも、大量のモンスターと対峙するビートとシロウの姿があった。
――宝刀風――
金網を風の刃で斬るフィエル。
「いま助けるッス! 一気呵成の⋯⋯!」
アイチェが槍を投げようとした、その時だった!
「やめろ!!」
「この者たちを傷つけてはならぬ!」
ビートとシロウは最後のチカラを振り絞ってさけんだ!
「こ、こいつらは被害者だ⋯⋯」
「急ぎ⋯⋯脱出を⋯⋯!」
破られた金網へと向かう二人。
しかし、彼らと同様ボロボロのはずのモンスターたちは、血だらけになりながらも命を燃やして二人を襲おうとする!
「くっ!」
ドロシーは身体強化を使わず、モンスターたちを二人から引き離すため、遠くへ蹴り飛ばした!
「ブッ!!」
それはオークの腹部へとヒットし、ミノタウロスやポイズンスパイダーを巻き込んで金網に激突する。
(なんですの⋯⋯?)
ドロシーは蹴り飛ばした足から、なにか不吉なモノを感じ取っていた。
「急いで二人をディアンヌの元へ運びますわよ!」
ドロシーは思考を切り替えビートの肩を抱く。
アイチェとフィエルは二人がかりでシロウを支えた。
「すまない⋯⋯」
血だらけのシロウはちいさくこぼした。
「⋯⋯やっと、お役に立てる時が来たッス」
シロウの方を向き、にっこりと笑うアイチェ。
そんな愛らしい彼女をシロウは優しくほほえみ見つめた。
「ロウルチャンのオモチャをどこに連れていく気ですの?」
「イケメンふたりをお持ち帰りなんて、下品じゃな〜い?」
闘技場を見下ろすように設置された特別観覧席から声が聞こえる。
「ロウル⋯⋯!」
ドロシーの目線の先には、愛するビートをこのような姿にした張本人がいた。
ロウル・ラ・プリース第一王女。
紅い扇子を広げてクスクスと笑っている。
「なんだ? あの者たちは⋯⋯」
フィエルがロウルとビュフィムのほうを向く⋯⋯。
すると⋯⋯!
「エルフの⋯⋯女ァ?」
ケバケバしい化粧をほどこした筋骨隆々のモヒカン男ビュフィムが、どす黒いマナを放出しながらフィエルをにらんだ。
「な、なんだ!?」
思わず気圧されるフィエル。
と、ロウルとビュフィムは足にマナを込めて、特別観覧席からドロシーたちの元へと高速で飛来した!!
「マズイですわ!!」
「お前ら! 俺たちは良い! 逃げろ!!」
「さぁ! 行け!!」
ドロシー、フィエル、アイチェを突き飛ばす、ビートとシロウ。
二人は意識朦朧としながら、土煙のなか舞い降りたロウルとビュフィムに対峙する。
ビュフィムのムチが強く地面を叩くと、またしてもモンスターたちに黒いオーラがまとわりつき、限界を超えた身体をきしませて、またビートたちに襲いかかってきた!
「もうやめろ! コイツら本当に死んじまう!!」
「外道め! 自らの手で戦え!!」
怒りをあらわにする二人に、ビュフィムは、
「いや〜よ! ネイルが取れちゃうじゃな〜い」
と、こたえた。
「ふざけやがって⋯⋯」
「度しがたい⋯⋯!」
モンスターの攻撃をいなしながら呟く二人。
そんな二人を援護しようと、三人は戦闘態勢に入った!
「ちっくっしょぉぉお!」
ビートはモンスターを素手で殴りながら、なにやら悔しがっている。
「お前ら!! 頼みがある!!」
そして、彼はさけんだ。
「あの二人を倒してくれねぇか!!」
その言葉に驚くシロウ。
「ビート殿⋯⋯! それは!」
「わかってる!!」
ビートは続ける。
「すまねぇ、ドジった上に情けねぇこと言ってるのは重々承知だ! でも⋯⋯」
彼は願いを込めてさけんだ!
「アイツらを倒さねぇと! モンスターたちが死んじまう!! 俺たちにはもう余力がねぇ! 頼む三人とも!!」
ビートは大きく息を吸い込んだ!
「ヤツらを! 倒してくれ!!」
ドロシー、フィエル、アイチェの三人の瞳に、覚悟の炎が灯った。
「言われなくても!」
「そのつもりっ!!」
「でしてよ!!」
フィエルは風宝細剣を。
アイチェは足に魔装具、手には槍を。
ドロシーは、美しい所作でドレスの裾を持った。
晴れてきた土煙の中からそれを見たロウルとビュフィムは、三人の品定めをしている。
「ロウルチャンはあの弱いタヌキと、けがれたドレスの女をやりますわ。ビュフィムは⋯⋯」
ロウルはため息をつきながら言った。
「言うまでも無いですわね」
ビュフィムはすでにフィエルしか見ていない。
「殺す殺す殺す殺す殺す! エルフの女は許さない! 私のムチで痛めつけて、産まれてきたことを後悔させてやる⋯⋯!」
その姿を見て冷や汗をかくフィエル。
「なんなんだ、アイツは⋯⋯!」
それはエルフの女性に対する異常な執着への恐怖もあった。
しかし、それだけでは無い。
フィエルは肌で感じ取っていたのだ。
(強い⋯⋯!)
ビュフィムの底知れぬチカラを!
――下僕支配――
ビュフィムは地面をパシンッと打つと、モンスターたちにどす黒いオーラを放った。
「ブモッ! ブモォォ!!」
「キシャァァ!!」
「ブオォォォ!!」
苦しむように身体を膨張させるモンスターたち。
それをなんとか抑え込むビートとシロウ。
「ぐぅぅ⋯⋯! 攻撃を受けてもダメージを与えちまう」
「回避するにも⋯⋯もはや体力が⋯⋯!」
限界を超えて無尽蔵にあばれまわるモンスターたち。
――凛咲華如――
フィエルはその元凶へと風の刃を放った!
「んふ〜! あっぶな〜い!」
ビュフィムはそれをヒョイと避け、ムチをしならせる!
――雁字搦――
「フィン!」
「あいあいさー!!」
フィエルの足に風のブーツをまとわせるフィン。
そして、フィエルはふわりとビュフィムのムチを避ける。
「それで逃げたつもりかしら⋯⋯」
彼がそう呟くと、なんとムチは黒い影を伸ばし、フィエルの身体をとらえた!!
「なっ!! マナのロープだと!?」
「ご明察〜〜!!!!」
ビュフィムは「ドラァァッ!」と野太い声を出し、闘技場の壁へと、フィエルを思いきり叩きつけた!
爆音と共にガラガラと崩れ落ちる観客席。
「エルフって本当にキラ〜い」
ガレキのはるか上空で、無傷で壁にとまるフィエル。
「だって〜、そのすばしっこさとか〜、壁に張りつく感じとか〜」
――キッショい虫そっくりだから。
そういうと、ビュフィムは身体からどろりとしたマナを放出させ、地面を這うように伝わせた。
「虫には粘着シートよねぇ⋯⋯」
――支配領域――
触手のような物がフィエルの元へと、地を這うように向かう!
「さっきから気持ちの悪い⋯⋯!」
フィエルは美しく宙を舞いながら、触手たちを避けていく。
そして、
――宝刀風――
と、風の刃をいくつもビュフィムへと飛ばした。
「それウザいのよ〜〜〜」
ビュフィムは、その巨体から考えられないほどの身のこなしで避けて見せた。
「ラチがあかない⋯⋯! 一気に決める!!」
フィエルは風のブーツにマナをそそぎ、高速でビュフィムに近づいた!
――花鳥風月――
風宝細剣の切っ先から出る風を高速で回転させながら、フィエルは突っ込む!!
すると、ビュフィムは特別観覧席へとマナのムチを伸ばし、そこから持ってきた『なにか』を盾にした!!
「――――――っ!!」
フィエルはマナを暴発させ、その盾とされた『なにか』を傷つけまいと、身体を大きくコロシアムの壁へと激突させた。
「がはっ!!」
と、フィエルの身体にドロドロの触手がまとわりついてくる!
「しまっ⋯⋯!」
完全に絡め取られてしまったフィエルは、悔しそうにビュフィムをにらんだ。
「絶対に許さないぞ⋯⋯!」
なぜ、フィエルがここまで激昂しているのか。
それはビュフィムが盾としたのが『ボロボロのエルフの女性』だったからだ。
「どうほ⋯⋯ごめ⋯⋯⋯⋯なさ⋯⋯」
カサカサになった唇を必死に動かし、エルフの女性は何かをつぶやいている。
それを見て、ビュフィムは心底嬉しそうに笑った。
「いや〜〜〜ん! 健気ぇ〜!!」
そしてすぐに表情をいっぺんさせ、野太い声で言い放った!
「でも、ヴァァァァカねぇぇ!! こんな死にぞこない! 一緒に攻撃しちゃえば良かったのにぃぃ!!」
ビュフィムはフィエルをぐいっと引き寄せる。
「あんたもこの女みたいにボロボロにしてあげる⋯⋯」
「ぐっ⋯⋯!」
「ひゃはははははははは!!」
そんな彼女を連れ戻さんと、フィンが風の刃をビュフィムへと飛ばす!
「バレてんのよ⋯⋯」
パシンッ!と、ムチを撃つと同時に、フィンの真下から黒い触手が伸びてきた!
「あぁぁ!!」
身体がちいさいフィンはメキメキとその身体を触手に取り込まれていく!
「フィン!! 解放!!」
フィエルはフィンへのマナの供給を止め、ただのつむじ風へと戻す!
「んふふ〜、懸命ね〜! あの子の心が折れてたら私の使い魔になっちゃってたかも〜」
ビュフィムは嬉しそうに笑い、
「でも、あのまま絞め殺してたらあんたの心を折ってやれてたかしら⋯⋯? 惜しいことしたわ」
そう言って高笑いをしながら、ビュフィムは闘技場の奥へと、フィエルとエルフの女性を持って消えていった。




