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第107話〜空路にて〜

「んなぁ〜〜!! たか〜い!! 空って気持ち〜ね!」


「ピグリアム殿! あ、暴れないでください! 落ちます!!」


 四羽の三足鴉(さんそくがらす)と、鴉天狗飛行部隊が運ぶ大きなカゴの中で、ぴょんぴょんと跳ねる巨漢(きょかん)、ピグリアム。


 それを、鴉天狗たちは冷や汗をかきながら注意している。


「エータ、良かったんですの? ブバスティスの食事関係のいっさいを取り仕切ってるピグリアムを連れてきてしまって⋯⋯」


 ドロシーが心配そうに聞く。


 エータは、出発前のピグリアムの言葉を思い出していた。



 ――――――



「ボクちんも連れてって〜!!」


「ピグリアム!?」


 まさかの登場に呆気に取られるエータ。


「間に合った〜!」


「どうしてピグリアムが? 俺たち、プリース王国に他国の侵略を停止するよう話に行くんだぞ? そのまま戦闘になる可能性が高いし⋯⋯料理人(コック)のピグリアムは危ないから連れていけないよ」


 すると、ピグリアムは腕をバツにし、


「ところが、そうはいかないんですねぇ〜!」


 と、こたえた。

 料理人(コック)が必要な場面があるのだろうか?


「ボクちん、王都に絶対許せないヤツが居るからね〜! もし、戦闘になったらギッタンギッタンだよ〜!」



 ――お前ピグリアムか!? うははは! こんな所に居るなんて俺様ツイてるぜ〜!



 ピグリアムの脳内に汚い笑い声が響く。


「えっ!? 戦うの!?」


「うん!!!!」


 それは無理なんじゃ⋯⋯と、思ったエータだったが。


 よくよく考えてみると、もしかして⋯⋯。


「まさか、食育(フードエディケーション)って、本人にも効果があるのか⋯⋯?」


「もっち〜! もっちもちだよ〜!!」


 驚愕の事実である。


 食育(フードエディケーション)は成長期のほうが効果が高く、食べれば食べるほど強くなる。


 つまり、神託を得てから彼はずっと⋯⋯。


「どうするんだ? エータ」


 ブライが耳打ちする。

 エータはしばらく考えた後⋯⋯。



 ――――――



 連れてきたわけである。


「料理はグリスが中心になって動いてくれるみたいだし、食材の管理についてはブライの帳簿があるから大丈夫。これから暖かくなってくるしな。餓死するような事態にはならないさ」


「それはそうなんですけど⋯⋯」


 グラグラと揺れるカゴの端っこを強く握るドロシー。


「ピグリアム! ちょっとは落ち着きなさい! 遊びに行くのではありませんのよ!!」


「ふぁいっ!!」


 ドロシーにオカンのように叱られたピグリアムは、ビシッと直立したかと思うと、カゴのすみに小さくなって座った。


「ピグリアム、おかし、食べる?」


 しょぼんとしてしまった彼に、イーリンがクッキーを渡そうと一枚、麻の袋から取りだす。


「うん⋯⋯ありがと、イーリン」


 彼がそう言うやいなや、イーリンが先ほどまで持っていたクッキーが袋ごと消失。


「あれ?」


 と、イーリンが不思議に思っていると、


「美味しいね〜」


 と、ピグリアムが口をもぐもぐさせていた。


「おー!」


 イーリンは目をキラキラさせながら、その(ことわり)を調べている。


「人智を超えた! はやわざ! ふんすっ!」


 それを見ていたビートとアナグマも興味津々で、


「なぁ、ピグリアム、いまのまたやってくれよ」

「梅のはちみつ漬けあるんですけど、食べます?」


 と、彼にちょっかいをかけている。


「緊張感ねぇなコイツら⋯⋯」

「まぁ、今から気を揉んで疲弊するよりはよいでござろう」


 ライオとシロウはちいさな声で話す。


 その隣でアイチェは、


(久しぶりのシロウさん! と、と、隣に座っちゃったッス〜!!)


 と、顔を真っ赤にしている。


 その一連の流れを見て、エータは「あはは⋯⋯」と、すこし心配になっていた。


「まったく⋯⋯みんな、緊張感が足りないぞ⋯⋯」


 フィエルは風宝細剣(エルフィンレイピア)を手入れしながら言う。


「特に⋯⋯」


 わなわなと震えるフィエルの視線の先には⋯⋯。


「エータくん、お腹すいてませんか? 私、サンドイッチ作ってきたんで、欲しいときは言ってくださいね。あ〜んしてあげますから」


 ハートを飛ばしながら、べったりとエータにくっつくディアンヌの姿。


「ディアンヌ! そ、そういうのはなぁ!」


 フィエルは、たまらず大声で指をさした。


「え〜? なんですか? フィエルちゃん」


「サンドイッチとか⋯⋯その⋯⋯」


 みんなの視線で恥ずかしくなり、言いよどんでしまうフィエル。


「だって一応、私も妻ですし。旦那様の食事を用意するのはおかしな事ではないでしょう?」


「そうじゃなくて⋯⋯」


 と、フィエルは「うー!!」としている。


「ま、まぁフィエル⋯⋯良かったらフィエルもこっちに来るか?」


 エータの呼びかけに「いい!」と、言って、フィエルはそっぽを向いてしまった。


「あなた達、この一ヶ月で変わりすぎではありませんこと⋯⋯?」


 ドロシーが呆れたように言う。


「良くも悪くもだね〜」


 ケイミィは、なにがどうしてこうなったのか、わからない様子だ。


「仲が良いのは結構だが、敵地に乗り込むことを忘れずに、節度を持ってね。あと、痴話喧嘩はしないように頼むよ」


 ブライの言葉にも、フィエルは「痴話喧嘩ではない!」と、背を向けたまま、不機嫌そうにこたえた。


 その様子を見て、ブライはやれやれといった顔をしている。

 そして、


「ディアンヌ、そういうのはエータと家に居る時にしなさい」


 と、注意した。


「そういうの。というのは、こうやって肌を合わせることですか?」


 ディアンヌはエータの腕にギュッと胸を押しつける。


「ちょ⋯⋯!」


 その様子を、じとーっと横目に見ていたフィエルは、フンッとさらに不機嫌になってしまった。


(違うんだぁぁフィエルぅぅ⋯⋯)


 エータの心の中はぐちゃぐちゃである。


「敵地に乗り込むからこそ、私はいまこの時を⋯⋯。愛する人と一緒にいる時間を大切にしたいんです⋯⋯」


 ディアンヌはぽつりとこぼす。

 その表情は、愛しい人と居るはずなのに、どこか孤独なようであった。


「いまこの時を大切に⋯⋯」


 ドロシーはビートを見る。


「ギャハハハハ! ピグリアムすげぇー! マジで食いもん消えるじゃん! どーやってんのそれ!?」


「結婚する相手を間違えたかしら⋯⋯」


 口角がひきつるドロシー。

 それに気付いたビートは、


「おい! ドロシーも来いよ!! ピグリアム面白いぜ!?」


 と、少年のようにニカッと笑った。


「い、良いですわ⋯⋯」


 彼女は「うん、間違えたかも知れない⋯⋯」と、心の中で思った。


(愛する人と一緒にいる時間を大切に、か⋯⋯)


 ブライは、ケイミィをチラリと見る。


 その視線に気付いたケイミィは「チッ!」と、大きな⋯⋯それは大きな舌打ちをしてそっぽを向いた。


 会議の日から、ずっとこんな調子である。


(完全に嫌われてしまったな⋯⋯)


 ブライはふぅ⋯⋯とため息をつき、立ち上がってカゴの外を見た。


「そろそろ着きそうだね」


 腕を組み、カゴから外を監視するクロウガに聞く。


「そうですな。あと半刻(はんこく)もあれば」


 クロウガは外から視線をそらさず、こたえた。


 と、その時⋯⋯。

 クロウガはある異変に気付く。


「⋯⋯ん? なんだあれは?」

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