表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/111

第106話〜いざ、首都パイナスへ〜

 ――フィエルが妊娠してから一ヶ月後。


 無事にディアンヌもその身にエータの子を宿した。


 フィエルが身篭ったとき、


「まさかエルフがこんなに早く子宝に恵まれるとは⋯⋯」


 と、エルドラは驚愕。


 本来ならば、入念な準備をし、針に糸を通すようなタイミングでしなければ、子を宿さないらしい。


 これもバスティの使徒の影響なのだろうか。



 ――――――



 ブバスティス帝国の国土、鬼の住処一帯は、キホクを中心に、北、東、南。


 それぞれ鴉天狗、狸人、エルフの三つの里を、網のように繋いでいる。


 できるだけ山を崩したくないので、陸路の石畳は最小限に。


 荷物のみを運ぶロープウェイを設置し、村人たちの負担が減るよう工夫を凝らした。


 ロープウェイは、エータの皇帝のチカラにより、大工(カーペンター)鍛冶師(ブラックスミス)を応用したワイヤーを使ったもの。

 耐久性に優れている。


 一応、ブレーキはあるのだが、人を乗せるにはまだ安全性に問題があるので、あくまで荷物だけを運ぶ手段である。


(こっそり鴉天狗一族が荷物の上に乗って楽をしているが、彼らは飛べるのでヨシとしよう)


 ハコノギ、ユキヒメ、ナトゥーメの三つからキホクに向けての一方通行であるが、それでも、ロープウェイがあると無いでは雲泥の差。


 到達地点には、大きなクッション設置し、衝撃をやわらげるようにしてある。


 身体強化(ブースト)を使える者は無理矢理止めているようだ。



 ――――――



 集会所に国民たちを集め、首都侵攻組と、ブバスティス防衛組を発表。


 ブバスティスからは、エータ、ビート、ドロシー、ディアンヌ、イーリン、フィエル、ケイミィ、ブライ。


 ハコノギからは、クロウガ、セツナ、ハネチヨ、ヤタ、シッコク、ウルシ、コガラシ、コムラサキ。

 そして、ヤタと同じ三足鴉(さんそくがらす)が三羽。

 彼らは運搬を手伝ってくれる。


 ユキヒメからは、ライオ、シロウ、アイチェ、シッポウ、アナグマ、コダイコ、コリル。


 各里でエース級の活躍をする猛者。

 アーツやスキルを二つ所持している者たちを首都侵攻組とし、残りはすべて防衛組とした。


 鴉天狗たちには上空からの偵察、狸人たちには首都内部の潜入(せんにゅう)を請けおってもらう。


 ナトゥーメのエルフたちは、まだ一角牛鬼とのダメージが残るので、まずはナトゥーメの里を再建することに集中してもらうことに。



 ――――――



 出発日。ブバスティス北門前。


「本当にこんな人数で侵攻するのか?」


 ナトゥーメ族長ドラシルが、心配そうに聞く。


「あぁ、パイナスが海に近くて広い平地にあるって聞いたから、アイテムボックスを遠慮なく使える。かならず勝てる。それに⋯⋯」


 『仲間たち』を見るエータ。


「⋯⋯みんなが居るから、負ける気がしない」


 エータのその頼もしい姿に、ドラシルは妹フィエルの顔を見た。


(俺の力不足で守りきれなかったフィエルが、こうして人間たちと共に英雄の道を歩むことになるとは⋯⋯)


 ドラシルは、当時里長だった父に、


「殺してしまうと民に不信感を植え付けます、ここは一つ、牢屋に幽閉してはいかがでしょう?」

「北の救助で活躍した彼女をまた幽閉すると、北のエルフと亀裂が産まれるでしょう。ここは彼女を斥候(せっこう)にしてはいかがでしょう?」


 と、進言したときのことを思い出していた。


(俺のせいで辛い想いもしただろう。立場上、俺が牢屋にいけば父にバレてしまう。風の精霊様をお前の元へ誘導するのが精一杯だった⋯⋯本当にすまない⋯⋯。たった一人の可愛い妹よ。今度こそ、生きて⋯⋯広い世界へ⋯⋯)


 この物語の運命を大きく変えた男、ドラシル。

 どの歴史書にも残らず、誰にも知られる事もなく。

 しかし、誰よりも事態を好転させた彼は。

 愛する妹への想いを、エータに託した。


 と、一人のエルフがエータに駆け寄る。


「使徒様!!」


 ライファだ。


「ライファ! あれ、顔の傷は?」


 ボロボロになっていた彼女の顔は、キリッとした元の美しい顔へと戻っていた。


「ノバナ殿から『痛々しいから治して』と言われてしまいまして⋯⋯。なんともお恥ずかしい⋯⋯」


「ノバナ⋯⋯」


 彼女は過去を清算し、前に進もうとしている。

 それが何よりも嬉しいと感じるエータ。


「エータ殿にお願いがございます。私のすべてのチカラをあなた様にお渡ししたい」


「⋯⋯アーツとスキルか?」


「さようでございます。私のアーツは射撃特攻(シューティングエフェクト)、スキルは魔素弓術(マナアーチェリー)。大量のマナを持つ使徒様ならば、無尽蔵に矢が放てます。かならずやお役に立つでしょう」


 片膝をついて告げるライファ。

 その後ろから、グリスもやってきた。


「使徒様、私のアーツもぜひ。高速斬撃(ハイスピードスラッシュ)悪食(バッドイーティング)を⋯⋯! 悪食(バッドイーティング)はあまり使い道が無いかも知れませんが⋯⋯」


「ありがとう二人とも、ぜひ使わせて貰う⋯⋯と、言いたいところだけど」


 エータは、ウィンドウに表示された二人のステータスを見る。


「ライファからは魔素弓術(マナアーチェリー)、グリスからは悪食(バッドイーティング)だけにしておくよ」


「し、使徒様!!」

「それならば高速斬撃(ハイスピードスラッシュ)のほうを!」


 慌てる二人。

 しかし、そんな二人にエータはこたえる。


「ライファ、君は俺たちが不在の間、このブバスティス全体を守る義務がある。だから、弓やバリスタの威力を大きく変えてしまう射撃特攻(シューティングエフェクト)は貰えない」


 エータはグリスのほうを見る。


「グリス、いま国民たちには休息が必要だ。みんなに料理が行き届くよう、高速斬撃(ハイスピードスラッシュ)でお腹いっぱい、ごはんを作ってあげて欲しい。それが俺から君への勅命(ちょくめい)だ」


 二人はすこし戸惑ったが『それが自分たちの戦場なのだ』と、エータの意をしっかりとくみ。


「かならずや、この国を守って見せましょう」

「みなの腹だけでなく、心も満たすことをお約束します」


 と、(こうべ)を垂れた。


「ありがとう、頼りにしてる。不在の間、この国を頼むよ、二人共」


 エータは胸に手を置き、目を閉じて頭を下げた。


 そして、二人が下がった後。


「私のアーツも持っていきな」

「俺のも⋯⋯必要になるかわかんねぇけどよ」


 と、数人の国民も名乗り出てくれた。


「み、みんな気持ちは嬉しいけど、この国のためにもアーツは持っておいてくれ」


 と、困ってしまうエータ。

 そんな時。


「私のも持って行って」


 髪飾りをつけた女性がやってきた。


「ノバナ!!」


 エータはすこし動揺したが、ノバナは構わず続ける。


地質調査(ジオロジカルサーベイ)は他にも持ってる人が居るから大丈夫。アイテムボックスとも相性が良いでしょう? それに⋯⋯」


 ノバナは目を閉じ、胸に手を当てて言う。


「私の想いも⋯⋯持って行って欲しいの」


「ノバナ⋯⋯」


 ギュッと胸が締め付けられるエータ。


「わかった。これは誓いだ⋯⋯」


 エータはウィンドウから地質調査(ジオロジカルサーベイ)を選ぶ。


「このアーツにかけて、かならずこの悪夢を終わらせる!」


 ノバナはエータの決意にうなずき、右手を差しだした。


 そして、二人はかたく、握手を交わしたのだった。



 ――――――



 さぁ、いざ出陣である。

 と、思った、その時。


「おぉ〜い!!」


 鴉天狗の運搬部隊に連れられて、一人のエルフが空から手を振っている。

 男は「おっとっと!」と、よろめきながら大地におり、駆け足でエータたちの元へ。


「お前たち、プリース王国に乗りこむんだってなぁ!」


「マスジェロ!!」


 それは、大きな風呂敷を持ったマスジェロだった。


「へへっ、時間くっちまったけどよ。完成したぜ?」


「まさか⋯⋯」


 エータがマスジェロの手を見ると、最後に見た時よりも、さらに酷く皮膚がただれていた。


「マスジェロ⋯⋯お前⋯⋯」


「しけた面すんな、俺様が好きでやったことなんだからよ」


 そう言って、風呂敷の中から蒼海色に輝く『魔装備』を取り出した。


「これは⋯⋯!」


 芸術品を思わせる美しいそれを見たエータは、思わず息を飲む。


「スゲェだろ⋯⋯! かならずお前たちの助けになるぜ、こいつぁよ」


 そう言って、マスジェロはニカッと笑った。


「さて、コイツを誰が装備するかだがなぁ⋯⋯」



 ――――――



 マスジェロは最後に、


「俺様の鍛冶師(ブラックスミス)と、融合(フュージョン)も持っていけ」


 と、エータに、自身の誇りを託した。


 こうして、今度こそすべての準備が整い、エータ一行は、鴉天狗や三足鴉がもつ木のカゴに乗ろうとした。


 すると⋯⋯。


「ちょぉぉ〜っと待ってぇ〜!!」


「ん?」


 エータは、カゴにかけた足を地面におろし、声の方を向く。


「ボクちんも連れってって〜!!」


 それはなんと、ピグリアムだった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ