第105話〜愛して〜
「クラス⋯⋯アップ⋯⋯?」
ディアンヌは脳内に表示される言葉を読む。
「バスティ様からの祝福か⋯⋯?」
エータはディアンヌに問う。
「そう⋯⋯みたいです。やはり、エータくんと子孫を残すことはバスティ様の本懐⋯⋯」
ディアンヌはベッドの端っこに移動し、肩を震わせた。
「ディアンヌ⋯⋯」
「どうしたんだ⋯⋯?」
エータとフィエルが心配そうにディアンヌの背中を見る。
「だ、大丈夫です⋯⋯。バスティ様のお役に立てたのが、う、嬉しいだけですから⋯⋯」
ディアンヌの言葉に、エータとフィエルは顔を見合わせた。
ディアンヌは敬虔なバスティ信徒。
きっと、涙が出るほどに嬉しいのだろう。
いまはその喜びに浸らせてあげたい。
「エータ、私も⋯⋯いいか?」
お預けをくらい、我慢の限界だったフィエルが、目をハートにしながらせまる。
「あぁ⋯⋯でも、入れるのは禁止な」
「うん⋯⋯」
しょんぼりとするフィエル。
そんな彼女の手を引き、そっと抱きしめるエータ。
まだまだ夜は長い。
「かわいい顔しちゃってまぁ⋯⋯」
「な⋯⋯! バカにするにゃ!」
「してないよ、本当にそう思っただけ⋯⋯」
そう言って、頭を撫でた。
「⋯⋯フフッ」
フィエルは目をつむり、エータの胸板に寄り添った。
(たくさん愛してあげよう。三人も妻が居たとしても、みんなが幸せだって、心から思えるように)
皇帝として、強いオスとして、一人の男として。
神に誓うエータだった。
――――――
エータとフィエルが静かに愛し合う隣で、ディアンヌは一人、両手を肩に抱き、身体を震わせていた。
(やったやったやったやったやったやった!!! バスティ様!! バスティ様バスティ様バスティ様バスティ様!! やりました!! 私はやりました!! バスティ様ァ!! あなたに! あなたに!! あなたにあなたにあなたに!! あなた様のために!! 私をもっと愛していただくために!! 私はやりました!! バスティ様も私を認めてくださったのですね!!)
ディアンヌは、エータたちに悟られぬよう、うつむいている。
しかし、強く上にひっぱられるその口角を下げることが出来ず、目は見開き、ニタニタとしてしまっている。
「フヒッ⋯⋯フフッ⋯⋯」
彼女は脳内麻薬を大量に吹きだし、そのあふれ出る情動を抑えることが出来ない。
(エータくんは私を愛してくれる⋯⋯でも、それは不変的なものじゃない。人間は愚か⋯⋯。追い詰められた時、きっとまた、私は独り⋯⋯)
ディアンヌの脳内に幼いころの映像がフラッシュバックする。
――置いてかないで! 誰か助けて! バスティ様ァ!!
(でも、バスティ様は違う! バスティ様こそ変わらない愛!! 完璧な存在!! 私は⋯⋯私はあなた様のために! あなた様のためなら⋯⋯!!)
ディアンヌはふぅ⋯⋯と、深く呼吸をし、もう一度、張り付いたような笑顔を整える。
そして、彼女の思う『刹那の愛』に興じる二人の元へと、にじりよった。
「私も、もっと愛してください。三人でしましょう」
彼女の心の闇は、まるで底なし沼のように深い。エータはその片鱗を感じ取っただけだ。しかし、それは仕方のないことだろう。
なぜなら、底なし沼とは沼の外からは『それがどれほどの深さなのか』など、わかるはずも無いのだから。
ディアンヌの性描写もガッツリカット。
内容としましては、それはもうイチャラブで⋯⋯。
二人で体温を確かめあいながら激しく、という感じです。
さて、ディアンヌの本編に出てこない裏設定なのですが。
彼女は『人一倍、欲望に弱い』です。
読み返してみるとわかるかも知れません。
睡眠欲、食欲、性欲がすべて人一倍強い。
いままで、村には食料が無く、神官という事で性欲にも縁遠かった。
だから、ディアンヌ自身も気付かずに過ごしていた。
しかし、そこにエータという存在が現れ、彼女の本来の性質である、暴食と性欲を目覚めさせてしまった。
というのが事の経緯です。
ブライから『エータの妻になれ』と言われ、エータとフィエルの情事を見るまでは『性欲がゼロ』でした。
しかし、二人のとんでもない情事を間近で見て、彼女本来の『性欲』が完全に目覚めてしまった。
なぜ、彼女は人一倍欲深いのか。それは『遺伝』であり、彼女の出生に秘密があります。
本編と関係ない部分だけ書いてしまいます。
彼女の両親は敬虔なバスティ信徒ではあるのですが、母親がとてつもなく欲深く⋯⋯。
なんと、ディアンヌは夫との子ではなく浮気相手との托卵の子です。
夫もなんとなくそれに気付いているのですが、妻であるディアンヌの母が『とんでもないナイスバディかつ床上手』であるが故、『幸せな家庭を崩したくないから黙っている』という状況でした。
表面上は神を信じ、幸せ家族ですが⋯⋯。
いびつだった訳です。
それがどのような結果を産むのか。
本編でいつか登場しますのでその時に⋯⋯。