第101話〜嬉々とした誤報〜
プリース王国・首都パイナス。
三十万の民が生活する円形状の王都。
中心に王城を構え、その周りをぐるりと庭園、貴族街が取り囲み、さらにその周りを商店街、平民街、貧民街、スラム街、城壁と続く、城塞都市。
半径7キロメートルの広大な敷地には、数々の醜い笑みと、悲しい涙がうずまいている。
そんなパイナスの王城、謁見の間にて、玉座にすわるプリース王国・国王ハロルド・ラ・プリースにひざまずく、男の姿がひとつ。
「報告いたします! 我が王国騎士団・遠征部隊! プリース王国南西部『鬼の住処』を制圧しましたことを、ここにご報告いたします!」
長身細身で、長いヒゲをくるんと巻いた男は、ハキハキと誇らしげに報告している。
その姿を、ハロルドはニヤニヤと嬉しそうにながめた。
「して、ダストンとギムリィが死んだというのは誠か?」
「はっ! このスピルドめが、副長シルドルと共に打ち倒しました!」
ハロルドを守るように背を向けて立つ、白金の鎧をまとった青髪の騎士が、難しい顔をしている。
(あの伝説の英雄ダストンと、魔法女帝ギムリィを?)
青髪の騎士が口を開く。
「⋯⋯間違いないのか?」
その言葉に、スピルドは自信満々に笑顔を見せた。
「はい! 間違いございませんオリオン騎士団長殿! 年齢も年齢ですし、全盛期よりステータスが落ちていたのかも知れませんな! ハッハッハッ!」
スピルドは「おっと、失礼いたしました」と、改めて頭を垂れる。
そんな彼を、プリース王国・現騎士団長オリオンは訝しむように見つめた。
「でかしたぞ。これで我が覇道をはばむ懸念材料は無くなった」
ハロルドはクックと笑みを浮かべ、
「そのシルドルという者が農家たちを連れてき次第、農地を増やし、スメリバ帝国へと侵攻するぞ。あの土地は良い。まさに黄金の大地だ」
と、嬉しそうに言う。
「楽しみでございますなぁ陛下! これで、このプリース王国がまたコクシ大陸を統一する日が近づいたというものです!」
スピルドのその言葉に、ハロルドはたいそう喜び、
「そうだな!」
と、高笑いをした。
そんな二人を横目に見ながら、オリオンはひとり、考え込んでいる。
(スピルド、シルドルの二人は確かに強力なアーツを持っている。しかし、ダストンとギムリィが簡単にやられるとは思えない。僻地ゆえに生活に支障が出て、ステータスを大幅に落としていたか?)
そして、スピルドをチラリと見る。
(軽薄な男だが、ウソは言っていないな。だが、不測の事態に備えて警戒はすべきだ)
オリオンは、ひとり、王国のために思案するのであった。
――――――
プリース王国・地下。
真っ赤なドレスに身を包んだ金髪縦ロールのお嬢様が、真紅の扇子をひらひらさせ、コツコツと歩いている。
そこは、とても彼女に似つかわしくない、監獄。
「ビュフィム。新しいオモチャが手に入ったとは、本当ですの?」
看守室の前で、お嬢様は声を上げる。
すると、扉がガチャリと開き、中から身長180センチを超える大柄な男性が、ピンク色のモヒカンを天井にこすりながら出てきた。
「あんら〜! ロウル第一王女殿下〜! 待ってたわよ〜! ほら、これ!」
ビュフィムと呼ばれたケバケバしい化粧をした、筋骨隆々な男性は、手に持ったムチをしならせ、なにかをパシンと叩く。
「オラ! さっさと出てきやがれウスノロ!」
その声と同時に、奥からミノタウロスやオーク⋯⋯。さらにポイズンスパイダーや一角兎など、多種多様なモンスターが現れる。
「あら、良いですわね」
ロウルと呼ばれたお嬢様は気に入ったようだ。
「エルフの女性に関しては、やはり譲ってくれませんのね」
ロウルは部屋の奥を見ていう。
視線の先には、ボロボロの服を着せられ、鎖に繋がれたエルフの女性が、ガタガタと震えながら目を閉じていた。
「こればっかりはごめんね〜」
ビュフィムは身体をくねらせながら、ロウルに謝る。
しかし、その目は笑っていない。
絶対に渡すものかという強い意志を感じる。
「まぁ、良いですわ。あなたには世話になってますし」
そういうと、ロウルはモンスターたちに「付いてらっしゃい」と言い、地下の道を歩く。
「フフフ⋯⋯楽しい楽しいお遊戯の時間ですわよ」
悪魔のように笑いながら、ロウルはモンスターたちを闇の中へといざなった。