第099話〜プロポーズ〜
フィエル、ドロシー、ケイミィが集会所から出ていってしまい、これからどうするか悩んでいる一同。
と、ブライが口を開く。
「フィエルとの事はどうにも出来ない。やはり、イーリン、ディアンヌの二人と子供をつくるべきだろう。エータがフィエルと結婚したいのであればすれば良い。ただ、出発前に子供はつくってもらう。そして、命の危険がある以上、フィエルと子供をつくることは許可できない」
腕を組み、背もたれによりかかった彼は、エータに言う。
「悪いが、これだけは譲れない」
そんな彼の心境を察しているエータとクルトは、
「ブライ⋯⋯」
「またあんたは憎まれ役ばかり⋯⋯」
と、心配そうに彼を見つめた。
そこへ、猫人の獅子王族であるライオが口を挟む。
「大将、わりぃんですけどよ。獅子王族のオレからすると、情けねぇぜ、あんた」
エータを向いてそういうライオに、
「いきなりなんだよ⋯⋯」
と、ムッとするエータ。
「獅子王族は、強ぇオスは何人でも抱く。ハーレムを作る。だから、人間の大将たちの感覚がよく分からねぇ。なにがダメなんですか?」
「人間は、一人の女性を生涯をかけて愛すんだよ。獅子王族がどうとか知らねぇよ。それが人間の美徳なの!」
ライオは「ハンッ」と、バカにするように笑い、
「だから情けねぇってんですよ」
と、言った。
「なんだと?」
エータも次第にイラつきはじめる。
しかし、ライオはまったく悪びれる様子もなく話し出した。
「全員幸せにしちまえば良いだけでしょうが! チカラのあるやつぁそれが出来る! 抱いたヤツ、全員ですぜ! そこらのオスが一生かけてでもかなわないくらい! 全員、愛す! 幸せにする!」
ライオはグルルルとノドを鳴らしながら言う。
「それが強ぇオスの矜恃だ! ちげぇますか! 大将!!」
あまりの気迫に「うっ⋯⋯」と押されるエータ。
「一人のメスを幸せにするなんて誰でも出来ること⋯⋯。そんなのに固執するなんて弱ぇオスのすることですぜ。オレが信じたエータって大将は、そんなちいせぇ器じゃねぇでしょう」
「ライオ⋯⋯」
あまりにも乱暴なライオの言葉。
しかし、自分のことを評価しての言葉ということを理解し、なにも言えなくなるエータ。
シロウがマフラーに深く顔をうめ、クックと笑っている。
それに気付いたライオは、
「なにがおかしい、シロウ」
と、怒りをぶつける。
「いやなに、ライオ殿がここまでエータ殿を買っているのが嬉しくてな⋯⋯」
「おめぇ、半分は本心かも知れねぇけど、半分バカにしてんだろ⋯⋯」
ライオは「はぁ⋯⋯」と、ため息をつき、
「大将。三人とも幸せにしてやりゃあ良いんです。そんで、死ぬとかどうとか考えず、素直に抱きゃあ良い。致死率100パーセントなんてのも『そこらへんの弱ぇオス』の話でしょう。あんたはそんなんで死にはしねぇ。それに⋯⋯」
ライオは、視線を向けず、集会所の入口を親指で指さした。
「あんたを待ってるメスが居るんじゃねーですか?」
ライオの指さす方向には、フィエルがいた。
「走って出ていくドロシーとケイミィを見たのでな⋯⋯。な、なにかあったのかと思って⋯⋯」
「フィエル⋯⋯」
エータは、モジモジと気まずそうなフィエルを見た。
その瞳は、どこか寂しげな、不安そうな。
そんな印象を受けた。
(強いオス⋯⋯か⋯⋯)
エータは、フィエル、イーリン、ディアンヌの顔を見る。
不安、孤独、困惑。
いま、彼女たちにこんな顔をさせているのは、誰なのか。
「そうだな⋯⋯」
エータはぽつりとつぶやいた。
そして、
「フィエル、イーリン、ディアンヌ!」
呼ばれた三人は、
「な、なんだ!」
「ん?」
「はいっ!」
と、返事をする。
「俺は、ブバスティス帝国の皇帝として、三人を妻として迎え入れたい! 異論はあるか!?」
「いーよ、みんなと家族、なりたい」
イーリンはまだよく理解できていないが、こたえた。
「私も大丈夫です。エータくんなら」
ディアンヌは敬虔なバスティ信者として、ブバスティス帝国の未来のため、了承した。
「私は⋯⋯」
フィエルは迷っているようだ。
それは、エータが嫌なわけではない。
妻が三人いることに不満があるわけでもない。
ここで了承してしまうと『エータが死んでしまうのではないか』という事を心配しているのだ。
それを察したエータは、席を立ち、フィエルの元へ寄る。
「フィエル」
「ひゃい!」
突然せまられ、驚いてしまうフィエル。
「こんな形になってごめん。ムードもなにも無いよな⋯⋯」
優しくフィエルのほおをなぞるエータ。
「でも、絶対にフィエルを幸せにする。だから、俺の正妻になってくれないか?」
エータは、フィエルの手を取り、まっすぐに目を見て言った。
「好きだ、フィエル」
「エータ⋯⋯」
フィエルはちいさく「はい」と答えた。
かくして、エータは三人の妻を娶り。
プリース王国・首都パイナスを侵攻するまでに、三人の子を産むという使命を負った。
と、そこに待ったをかける声が、
「ちょっと待つさね」
クルトだ。
「三人は王都侵攻の要なんだろ? 身ごもった状態で山を歩き、その上、戦闘までさせるなんて、あたしが許さないよ」
ごもっともな意見である。
特に、ディアンヌの育ての親であり、医者であるクルトにとっては、絶対に許すことのできない暴挙。
「道中の負担については、拙僧らに任せていただこう」
クロウガが手をあげる。
「我ら鴉天狗一族が空路で運びますゆえ、ムダな戦闘は回避できるかと」
ビートも「俺の探知もあるしな」と合いの手をいれる。
そして、エータも口を開く。
「戦闘に関しても、ほとんど俺一人でこと足りるから大丈夫だと思う」
クルトは、
「それはさすがに無茶じゃないさね? エータ」
と言う。
しかし、
「それが、無茶じゃないんだ。もはや皇帝すら要らないと思ってる」
エータのどっしりとした自信に、クルトは「むぅ⋯⋯」と、気圧された。
その横でブライは、
「生態系の破壊と土砂崩れを考慮しないアイテムボックスか⋯⋯」
と、ぽつりとこぼした。
そして、その光景を想像し、背筋を震わせた。
「わかったさね、そんなに言うんなら⋯⋯ただし!」
クルトは声を大にして言う。
「ディアンヌを泣かせるようなことがあれば承知しないからね!」
その言葉に、エータは、
「もちろん。幸せにします!」
と、こたえた。
クルトは「あんたは無茶ばっかするから心配さね⋯⋯」と、こぼしたが、認めてくれたようだ。
「すまない、話を戻すんだが」
ブライが口を開く。
「フィエルくんとの子供の件はどうする?」