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穢れ行く世界に  作者: バイテル
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プロローグ

空は割れ、雷鳴が世界を貫いた。

忘れられた古代の森、リーヴェルウッド。その最奥に立つ一本の黒樹──《グラナス》が、静かに呻き声をあげる。誰も知らない、誰も近づかない、けれど確かに、そこから世界の闇は滲み出していた。


カイル・ロウヴァは、遠く離れた小村・エルメアでその兆しを夢に見た。

夜ごと夢に現れるのは、燃え尽きた大地、倒れ伏す人々、空を覆う黒き翼。そして、その中心に立つ自分自身だった。


「……また、あの夢だ」


朝靄の中、カイルは重い瞼を押し上げ、鍛冶屋である父の掛け声に耳を傾けた。

十八の春、剣を握る手は逞しく、心にはまだ幼き焦燥が残っていた。彼はずっと、ここではないどこかを夢見ていた。小さな村で一生を終える未来を、心のどこかで拒んでいた。


「カイル、あの剣を持って行け」

父が無骨な手で差し出したのは、カイルが少年の頃から打ち続けてきた自作の剣だった。黒銀に光る刃はまだ粗く、だが確かな意思が込められている。


「旅に出るのだろう? お前の目を見ればわかるさ。母さんも……本当は、そう思っていた」


カイルは言葉を失った。

胸の奥で何かが溢れ、滲み、剣を握りしめる指に力が入る。振り返れば、幼いころ追いかけた丘、笑い声が響いた川辺、祭りの日に灯された篝火の数々──。どれも愛おしく、しかし、それでも彼は踏み出さねばならなかった。


エルメアの村を出る朝、村人たちは無言で彼を見送った。

誰もが、世界に広がる「異変」の気配を感じ取っていたのだろう。作物の実りは細り、夜空に見える星の数は減り、子どもたちの笑い声もどこか陰りを帯びていた。


カイルは小さく頭を下げ、村の門を潜る。

風が吹いた。懐かしい匂いを運び、未来への不安を震わせた。それでも、彼の瞳は真っ直ぐだった。


──世界は、もうすぐ壊れる。


それを救う者がいるとすれば、名もなき若者にすぎないこの自分かもしれない。

そんな確信と共に、カイルは歩き出した。


まだ知らない。

この先に待つ運命も、敵も、仲間も、愛も。

そして、自らの中に潜む《闇》さえも──。

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