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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター5~ギーアル半島での外交
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5-10 クルジリオン公式訪問 2 ~共和国議会

――再誕の暦867年10月3日、自由港クルジリオン、23本松議事堂――


「テュークリム共和国議会へ、ようこそいらっしゃいました。殿下」


 私たちが入場すると、議事堂の中にいる23名の議員が全員立ち上がって挨拶する。議員たちは普段共和国首都タイルスタにいるけど、こちらの都合で会合する場所が港町のクルジリオンになった。それで場合によっては都合を合わせられない欠席者が出るかもと聞いたが、結局全員来たのね。カリスラント側のメンバーは私とファルナ、副司令ケロスのじいちゃん、参謀のホーミルマ、ティエミリアとテリークト、護衛のジャイラ、それとアインシリー。接待役のクルヴィも一緒に来ているが、議事堂には入らず外で待ってる。共和国の意思決定機関に、クルジリオンの一有力者にすぎない彼女が出席しても肩身狭い思いをするだけだろう。


 挨拶が終わり、私たちは客人のために用意した席につく。この議事堂は柱と天井で構成する開放的な建物。座席から周りの大きな松の木が見えるような作り。かつてのセルフェンギーア聖樹七国同盟とストリュア神聖帝国の戦争で、テュークリムのほぼ全域が戦場になって壊滅的被害を受けた。今の共和国首都タイルスタも当時アクシデントによって街全体が火に包まれた。一面の更地の上にただ23本の焼け焦げた松の木だけが揺るがずに立っている光景が絵画となり、戦争後半では七国同盟の精神的支えとして宣伝され、やがてテュークリムという国のシンボルとなった。本物の23本松議事堂は首都タイルスタにあるが、重要都市のクルジリオンにも同じデザインの建物が作られ、議員たちがクルジリオンに集まるときに使われる。


「最初に殿下に申し入れたいことがございます。タシフォーネの攻略と領有に、我々テュークリムは殿下のご希望に添えるように全力を尽くしました。なのになぜ、テュークリムとの国交成立がここまで遅くなり、しかも殿下と争った筈のカーチマスよりも一歩遅いのでしょうか」


「そんなことありません。副議長さんもわかっているはずです。タシフォーネの問題を解決しない限り探検艦隊は動けませんから」


「それは言い訳ではありませんか?カリスラント海軍の力がどれほど圧倒的なのかを、我々は殿下から直に教えてくださいました。殿下が留守にしている間、艦隊の半分でもあればタシフォーネの防衛など容易いではありませんか」


 まさか副議長からいきなりこんな非難とも取れる質問が来るとは。しかし私が弁明するまでもなく、議長のほうから理解を示す言葉が出た。


「まぁまぁ、アンネリーベル殿下は決して我らを無下にするつもりはないと思います。タシフォーネの件は非常に重要だから、殿下がご自分で対処するしかないでしょう」


 はぁ、なるほどね。これは、主役を立てるためにあえて悪役を演じたのね。カーチマス王の使者ミンスターと初めて会うときと同じだ。ギーアル半島ではこのやり方が一般的なのか?ちなみにこの議長と副議長は他の議員より権力が高いわけではない。議員たちの間でローテーションするただの議事進行係だと聞いた。ここにいる23名の議員は他に内政、外交や軍事の役職を持っていて、実際の影響力に差はあるが、少なくともここ議会では全員が平等な権限を持つ完全な合議制となっている。


 ファルナがカリスラント王の親書を議長に渡して、テュークリム側のカリスラント大使が紹介された。この大使をカリスラント王都に送り届け、お父様に共和国議会全員連名の国書を渡したら正式に外交関係が成立。あとはカリスラント側も大使を派遣すれば、探検と関係がない外交事務のほとんどは大使館が担当してくれる。ちなみにカリスラントのテュークリム大使になる予定の人はもうタシフォーネに到着。今はギーアル語を鋭意勉強中。大使ともなれば、翻訳魔道具に頼り切るのはさすがに体裁が悪いよね。


 次に発言するのは右側前列の高齢な議員。アインシリーは耳打ちで彼が外交関係の担当者の一人だと教えてくれた。小太りで髪が薄い、おまけに人相が悪い。なんとなく、昔第三世代錬金術の件で私を脅迫したあの中央神殿のハゲを思い出させるような見た目……と思ったら、悪い予感があたってしまった。


「アンネリーベル殿下に尋ねたいことがあります。アインシリー嬢をずっとご自分の手元に置くのは、果たしてどういう意図なんでしょうか」


「そちらの質問の意味がよく理解できませんが……カリスラント人がギーアル半島に来てまだ日が浅いので、アインシリーさんが案内役を買って出たのです」


「我が国の共和制は殿下にとってあまり馴染みがないものかもしれませんね。アインシリー嬢はクルジリオン支部長の娘御です。封建制の貴族令嬢のような立場です。そんなやんごとなき生まれの人間をずっと連れ回すとは、まるで、人質ではありませんか」


 左に座っているアインシリーは自分からそれを否定しようと、私に発言の許可を求めるようにアイコンタクトを送ってきた。でも私は首を横に振る。これは私への挑戦だからカリスラント勢だけで解決すべき。それにアインシリーが何を言っても、向こうは言わされてるのを主張するだろうし。


「こういう手合のあしらい方は儂の方がよく心得ています。一旦選手交代と行きましょうか」


 ケロスのじいちゃんが耳打ちで提案する。確かにこんな偏屈じじいと接する機会が多いのはケロスのじいちゃんだね。ここはじいちゃんに対応させて、私は相手の意図を探るのに専念しよう。


「アインシリー殿は大事な客人です。我々が彼女を人質として扱うことは一度たりともありません」


「しかし聞いた話では、ジレンディスの真っ最中にも拘らず、アインシリー嬢を戦に連れ出したではないか。例え人質にするつもりはなくとも、危険にさらしたのは事実であろう」


「探検に危険は付き物です。我々の案内役を務める以上避けられまい。そちらが納得できないと言うなら、こんなまどろっこしいやり取りではなく、こちらに何を望むのをはっきりと申してみたらどうだ」


「そうだな。ちょうどそちらにケロスヘニゲム殿の姪孫であるファロネールシア嬢がいるのではないか。アインシリー嬢と釣り合いが取れるし、こちらに預けると皆の衆も安心するでしょう」


 まるで私が爆発するのを恐れるように、ファルナが急いで私の手を握る。そんなに慌てなくてもいいのに……ファルナを人質として差し出せと言われて、確かに私はキレそうになったけど、こんな外交の場で取り乱すなんてしないよ。


「……話になりませんな。こちらにとって到底飲めない提案です。ファルナがカリスラント海軍、そしてアンネ様にとってどれくらい重要な人間なのかを理解した上の発言とは思えん」


「ほう。そうか。ケロスヘニゲム殿は自分の姪孫を送り出すのが嫌なら、他の人選を、」


「いやいや、流石にこっちから人質を求めるのは厚かましいではないか。そんなことするくらいなら、アインシリー嬢を呼び戻すほうがまだ穏便に事を収める」


 隣の中年の議員がいきなり割り込んで、まるで示し合わせがあったのようにテンポよく話を進めていく。


「んむ、しかしギーアルの情勢に明るい案内役がいないと、アンネリーベル殿下が困るのではないか」


「それなら私の姪っ子が適任でしょう。あの子はアンネリーベル殿下の話を聞いてからずっと憧れているから、船の上で多少不便があっても受け入れるでしょう。知識と教養も申し分ないし、必ず殿下のために役に立ちます」


 ……なんだよこの三文芝居。白々しいにもほどがある。しかしこれでこいつらの狙いがわかった。アインシリーが人質だなんて、向こうもそう思ってない。ただの難癖だ。ファルナを人質交換とかも当然本気じゃない。本当の目的はアインシリーをこっちから引き離して、代わりに自分の息がかかる人間を据える。


「どう対処すればいいかわかった。ここからは私が話す」


 私が小声で通告するとじいちゃんが軽く頷いた。


「それは残念ですね。私はアインシリーさんと一つ約束をしました。探検艦隊が帰国するとき彼女を一緒に連れて行くと。叶えられなくなった以上、別の方法で彼女の恩に報いるしかありません」


 これは議員たちにも初耳の話だから場が少しざわめく。


「殿下、私の姪っ子がアインシリー嬢の後任者になったら、その機会を彼女に譲ることは可能でしょうか」


 中年の議員の厚かましい問いに私は大袈裟に頭を横に振る。


「そんな軽い約束ではありません。あのジレンディスの戦いでは、アインシリーさんのおかげて私の教え子たちの命が助かりました。もしそれに匹敵するような働きを見せることができたら考えなくもないですが」


 「わかっているよな」と言わんばかりと、他の議員が一斉にあの二人に目線で圧力をかける。現在東の大陸へ渡航する手段はカリスラントが握っている。つまり私が認めた人間しかカリスラントに行けない。今のところ大使一行のカリスラント赴任は確約されたが、当然より多くの人を送り込んで、他の視点からの情報もほしい。もしここであの二人のくだらない企てが成功すると、カリスラントへ渡航する貴重なチャンスが失われる。テュークリム共和国にとって大きな痛手だ。


「殿下の話を聞くと、私の姪っ子には荷が重いように思えてきました。さっきの私の発言はどうかお忘れください」


「どうやら私は思い違いをしたようです。こんな大事な約束をしてくれたなら、アインシリー嬢が人質だなんてありえませんな。先程の思慮なき発言にお詫び申し上げます」


 引き際をわきまえているようだね。まぁこれくらいできないと議員なんて務まらないか。


 それからは休憩時間までに特筆すべきことなく、私たちと議員たちが双方の国について情報交換した。昼の会食のあとはお互いへの贈り物の披露目。こっちは相手の度肝を抜くようなすごいものを用意したから、どんな反応するかが楽しみだね。


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