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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター5~ギーアル半島での外交
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5-9 クルジリオン公式訪問 1 ~到着

――再誕の暦867年10月2日、自由港クルジリオン、港の近海――


「はしたないですよ、アンネ様」


「だって、私が気球に乗るのをみんなが許してくれないし」


「はぁ、アンネ様は高いところが苦手だから、そもそもできないでしょう?」


「うぐぅ……」


 ブリッジの上に登って、遠くからクルジリオンの街を眺める私と、どうにかやめさせようとするファルナ。ファルナの言いたいことはわかるけど、これはじっと待っていられない。だって、初めて西の大陸の大都市に入るのよ?本当は3ヶ月前、クルジリオン支部と友好関係を築いたときからずっと計画していたし、楽しみにしていた。でもタシフォーネのことを優先しないといけないから、公式訪問がこんなにも遅くなった。


 10分後、街に近づいてきて、みっともない姿を見せるわけにもいかないので私たちはブリッジに戻った。もうしばらくすると、ついに全艦隊8隻がクルジリオンの港に停泊するが、まずは海兵二班に護衛されてるティエミリアとテリークトが先に降りて、様々の手続きを済ませながら状況を確認する。さらに一時間経つと、やっと安全が確保できて、私も降りれるようになった。


 埠頭には前に一度会った、商業ギルドのクルジリオン支部長が自ら出迎えに。


「ようこそクルジリオンへ。アンネリーベル殿下のご来訪を心より歓迎致します」


 アインシリーは父に挨拶だけして、そっちに行かずに私たちと一緒に進む。ここでも案内役というスタンスを崩さない。


「ずいぶんと物々しいね」


 街道の両サイドで横断幕を掲げている群衆を見て私が呟く。あれは多分一般人だが、明らかに組織されている。人の壁、ということか。支部長の責任問題にしようと、カリスラント人にちょっかいを出そうとする輩がいる――という情報はこちらも掴んだ。それでクルジリオン支部は二重の防衛ラインを設けた。歓迎する民衆は当局が動員する形で不穏分子が紛れ込むのを防ぐ。そんな一般人の列から少し離れたところに、おそらく衛兵など治安維持機関の人間が多く配置されていて、どんなトラブルにも即時対応できる監視体制を維持する。人の壁で見えなかったが、遠くから怒鳴り声がして、さっきから何人かが拘束されたみたい。この人の壁が突破されない限り、多少の騒ぎがあっても地元のいざこざで片付けられる。外交問題に発展することがない。


「こちらがリフィミシエ・ホテルです。カリスラント探検艦隊の滞在中は殿下の宿泊先として貸し切りにしました」


 広場の北にある、小洒落な商店と高級住宅が並んでいる区画に、一際大きい建物がある。この豪華な四階建ての館がこれから半月の間、探検艦隊の上位女性士官の宿泊地になる。ケロスのじいちゃんたち上位男性士官は向こうのとある議員の別荘に泊まる。他のみんなもこの周辺に宿泊先が割り振られている。クルジリオン支部の鮮やかな手配は相当気合が入るように見える。船で留守番するとき以外はみんな街の中で快適に過ごせそうね。


 ホテルの入口に十数人の女性スタッフがこちらを待っている。「ユールカ」という聖樹信仰の赤い入れ墨を見せるため全員が右肩が空いてる服を着てる。なるほど、チョッカーで生地を固定するのか。ギーアル半島の女性のフォーマルな服はこんな感じになっているのね。


 最前列にいる赤く着飾った姿の、おそらく20代後半の女性が前に出て挨拶する。


「この度アンネリーベル殿下の接待役を任されました、クルヴィと申します」


 カリスラント海外領地財務監査局の調査によると、クルヴィはこのリフィミシエ・ホテルを建てたオーナーにして、クルジリオンの顔役の一人で歓楽街に大きな影響力を持つ。彼女はクルジリオンのスラムに生まれた孤児だが、その美貌と歌声で歓楽街の酒場に大人気の歌姫になり、自分のカリスマを使って歓楽街で食い物にされてた女性たちを助ける過程で、「カラピスケラ・リフレイン」という互助組織が出来上がった。カラピスケラはギーアル半島の珍しい赤い花で、赤い装飾を好むクルヴィの異名でもある。今の彼女はクルジリオンのスラムと歓楽街で生きる伝説のように崇められている。この若さでよく伏魔殿のようなクルジリオンで新しい組織を興してのし上がったね。


 しかしクルヴィの台頭によって、歓楽街での既得権益が侵されて彼女の敵になった人も多い。今回私の接待役に命じられたのも善意だけじゃない。スラム生まれの彼女が王女相手に失態を演じるのを期待しているだろう。「カラピスケラ・リフレイン」と歓楽街の二大勢力との関係は要注意だ。「イヴェリの牙」という、歓楽街の南側とスラムの一部を支配下に置く、義侠団体の中でも見境がない連中はクルヴィを目の敵にしている。暴力で服従させた女性の大半が「カラピスケラ・リフレイン」に助けられたから。自前の武力を持たない「カラピスケラ・リフレイン」が頼ったのはクルジリオンの古株の義侠団体「ドリンストル・ファミリア」。そっちも決して善人ではないが、行動に節度があるのでまだ話し合いの余地がある。それにクルヴィを利用して競争関係の「イヴェリの牙」の地盤に侵食する算段だから利害が一致している。まぁとにかく非常に複雑でデリケートな問題だから、よそ者の私たちは深入りしないほうがいい……と言いたいところだが、カリスラント海軍の男性士官は歓楽街のお得意様になりつつある。まぁうちの人間は金払いが良く、身元が確かだし比較的に行儀がいいから上客だよね。そのうちカリスラント勢も歓楽街の争いに巻き込まれる気がする。


「クルヴィさん、これは翻訳機能がある魔道具です。そちらの裁量でスタッフたちに使わせてください。ただし貴重品なので、ホテルから持ち出すのは遠慮してもらいたいです」


「これが、噂のカネミング石のイヤリング……こんな貴重な物を預けてくださるとは。殿下の信頼を決して裏切らないと誓います」


 ケロスのじいちゃんにもカネミング石のイヤリング2つ預けて向こうの宿泊先で使う。万が一紛失したら探検艦隊にとって大きな痛手になる。クルヴィの責任問題にしたい連中はそこを狙いそうから、貸し出さないほうがいいかもしれないが……やっぱり言葉が通じないのは不便だから。まぁ探検艦隊の滞在中リフィミシエ・ホテルと向こうの別荘は海兵隊が警護するからそう簡単に盗まれることはないだろう。


 ホーミルマとキーミルの指揮のもとで、海兵とホテルのスタッフが荷物を上の階に運ぶ。その間に私とファルナ、アインシリーはクルヴィの招待を受けてラウンジで一服する。テュークリム共和国東の丘陵地帯原産の、柑橘類っぽいハーブティの香りを楽しんで、洗練な建築スタイルとエキゾチックな彫刻と絵画を眺める。二ヶ月前の会合ですでに高度な料理技術を見たが、建築と芸術もかなり発達しているようね。彫刻はそこまで特別な感じがしないが、絵のほうはどうも違和感が……そうか、これは画材から私の知ってるものと違うね。一体何を使ったんだろう。


「居心地が良くて、内装の意匠もいい感じですね」


「お褒めいただき光栄です。このリフィミシエ・ホテルは高名な建築家と芸術家を招いて、私財を惜しむことなく投入してやっと築き上げた、私の自慢の城です」


 フェインルーサ大公にとってのリガンジエル城のように、リフィミシエ・ホテルは「カラピスケラ・リフレイン」の新しい力の象徴。地盤がスラムと歓楽街にあるクルヴィだが、このままでは行き詰まるのを危惧して、上流階級に食い込むために街の中心部にこの豪奢なホテルを建てた。歓楽街以外の拠点を作って保護下の人々により多くの働き口を提供する目的も兼ねてると思う。街の有力者たちは依然クルヴィを見下しているが、リフィミシエ・ホテルが優れた施設ということは認めている。外国の王女の宿泊先にしても大丈夫と思うくらいだ。クルヴィの狙いはある程度の成果があったと言えるだろう。まぁこれは私の想像にすぎないから、真実とは限らない。


 もう少し他愛もない話を続けたら、三階にある私の部屋の用意が終わった。今日はもう遅い時間だし、明日はテュークリム共和国の議員たちとの会合があるから早めに休もう。


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