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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター5~ギーアル半島での外交
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5-5 シーリンタ支部長との会談 1

――再誕の暦867年9月25日、タシフォーネの砦、応接室――


 予定の朝10時を越えてもシーリンタの代表が来ない。応接室にはすでに私とミンスター、ファルナとケロスのじいちゃん、そしてカリスラント海軍の参謀たちやカーチマスの従者陣も待機している。普通なら王女の私と、王の従兄であるミンスターを待たせるのはかなりまずいことだが、今回は私たち最初から約束の場所にいるし、天候がよくないから船が出るのが遅くなったんだろう。仕方ないか。


 もうしばらくすると待ち人が従者1名とともに現れた。ちょっと痩せすぎるくらいの、髪の毛が少なくなってきた初老の男性が今のシーリンタ支部長みたい。2番艦がシーリンタに行ったとき、テリークトたちが会った前任の支部長は人相が悪い、まるでヤ◯ザみたいな人だと聞いた。そんな彼は「大公より預かったタシフォーネを失ったケジメとしてこの命を差し出す」と言って、自発的に支部長を辞任して従軍した。今はフェインルーサの軍需官のチーフとして辣腕を振るうらしい。本当部下たちによく愛されているのね、大公。


「遅くなって申し訳ありません。そちらは、アンネリーベル殿下でおられますね?」


「ええ。よく来てくれました。支部長さん」


 支部長はすでに面識があるミンスターとも挨拶して、参加者の簡単な紹介を終えてやっと会談が始まる。


「これからのシーリンタは、タシフォーネの主であるアンネリーベル殿下と良好な関係を築きたいですが……その前にいくつの問題を片付ける必要があると存じます」


「そうですか。どんな問題なんでしょう?」


 初手から要求とは。ちょっと感じ悪いけど、聞かないわけにもいかない。


「先月の16日、そちらの艦隊がリガンジエル城に攻撃する際に、攻撃指定範囲外への被害は弁償すると宣言しましたが、その言葉を信じてもいいですね?」


「……あのときの弁償請求?今更ですか?」


「はい。恥ずかしながら、この間まで我々シーリンタ支部はまともに業務遂行できなかったので、被害状況の調査が遅れました」


 私たちはギーアルの文字が読めないので、支部長が出した被害報告と弁償請求の書類をミンスターの従者に渡して、代わりに読み上げるように頼んだ。


「……三件もあるのですか?」


 こいつ、本気なのか?こっちをバカにしているとしか思えない……


「……ティエミリアとホーミルマ、あのときの着弾地点の記録を取ってきて。支部長さん、この三件の被害の詳細な地点と時間を教えてくれますか?」


「はぁ?そこまでする必要はありますか?」


「支部長さんには理解できないかもしれませんが、カリスラント海軍に自分たちの攻撃がどこに落ちたのかを調べるすべがあります。まぁ具体的に言うと、こちらは着弾地点を見ながら修正してやっと満足できる攻撃精度を手に入れました。リガンジエル城への攻撃もこちらはよく見ていたし、記録を取りました。半径3KM圏外に落ちた攻撃は多くないし、少なくともあの時点で家屋などの建物が燃えた記録はありません」


「えっ?いや、しかし……」


「まぁ、とりあえずこちらが取った記録を見ましょうか」


 戻ってきたティエミリアたちは合計18枚の着弾地点記録チャートをテーブルの上に広げる。これは戦闘中で戦術分析士官たちが射角計算のために、空中観測の報告を元に作成した即席なノートだから、素人には読みにくい。本来なら戦闘後すぐに廃棄処分するはずだが、リガンジエル城への攻撃は弁償問題になる可能性があるので特別に保存しておいた。まさか本当に出番が来るとは。


「こちらのチャート1とチャート3に注目してください。範囲外に落ちた攻撃はこの辺りに集中しています。この場所はリガンジエル城の南、街の北の斜面、建物がない草地だから多分持ち主がいない土地、弁償する必要がないと思いました。もしかして、三件の被害の中にこれが?」


「い、いいえ……あの草地は無主地だから、別の場所だと思いますが……」


「なら、一体どこに被害が出ましたの?」


「……この図面が全面的に正しいと断言できるのでしょうか。被害があった場所の記録が漏れたかもしれません」


「こちらの情報収集能力を疑うのですか?そちらは具体的な場所も教えられないというのに?」


 顔色が悪くなる支部長を見ると、どうもこっちを騙そうとしてるように見えない。ということは、この虚偽の被害申告は他の人が仕掛けた?別の可能性も一応考えてみるか……あっ。まさか、不発弾?燃焼弾の起爆に使われる魔力導線の性質はかなり安定だが、やはり極稀に起爆に失敗という事態が発生する。後日その不発弾が何らかの拍子に炸裂したのか?でもそれで三件も被害が出るのは、さすがに考えられない……


「支部長さん。とにかくこちらが把握している範囲内では被害が起きていないはずです。より詳しい状況説明してもらわないと、そちらが申告した被害の弁償に応じるつもりはありません」


「しかし……カリスラントから弁償金を引き出さない限り、彼らは納得しないでしょう……このままでは、カリスラントとの関係改善などできません……」


「どうして被害状況をもっと詳しく調査しないのですか?」


「もちろん彼らに話を伺ったのですが……一ヶ月前のことだったからもう証拠が残ってないし、詳細な状況を思い出せない、という……」


 泥沼化した状況を見かねて、ミンスターはここで口を挟む。


「支部長殿。この三件の被害を申告したのは一体誰なんですか?」


「……ラナセル氏、クーシルナン氏、そしてトクルーマ氏です」


「街の有力者たちですね……状況は大体わかりました。殿下も既にお察していると思いますが、おそらく彼らは適当に被害報告をでっち上げました。しかもわざとこんなお粗末な形で出しました」


 言いたいことはわかる。本気で騙し通すつもりなら、もっと丁寧に偽造したんだろう。もしそれなりの真実味がある報告があったら、私ももう少し真剣に不発弾などの可能性を検討するし、信じてしまうかもしれない。これは、最初から疑われるつもりでやったんだね。


「なぜそんなことを?」


「そうですね……強いて言えば、鬱憤晴らし?どんな形でもいいから、カリスラントに一泡吹かせたい、と言うべきでしょうか」


 つまり、こっちが謀られたのを知っているのに何もできない状況を作り出すのが目的だね?どうもこっちは思った以上に嫌われているみたい。どうしたらいいかを考えてるとき、支部長がまたふざけたことを言い出す。


「被害の事実はさておき、カリスラントなら弁償できるでしょう?大した額でもないし、これで彼らの溜飲が下がると思います」


「……あなた、それ本気で言ってるのか?こちらがやってないことのために、賠償金を出せ、と?」


「しかし、そうしないときっと彼らはカリスラントが弁償の約束を反故にしたと騒ぎ立てて……街の反カリスラント感情が煽られると、住民たちも……」


「殿下。この件はこちらが対処しましょう。被害申告を取り下げるように私が彼らを説得します」


「ミンスターさん……いいのですか?こちらの問題なのに……」


「この件はカリスラントが動かないほうがいいです。我々にお任せください」


 確かに、こっちがなにをやってもシーリンタ住民の反感を刺激してしまう。これ以上対立が激化するのはカーチマス王も避けたいことだから、調停に乗り出したのね。ならこっちも打てる手は打とう。


「支部長さん、さっき話した街の北の斜面が燃やされた件ですが、改めて考えるとやっぱり弁償すべきと思います。あれは確かにこちらの攻撃指定範囲外の被害ですからね。草地が燃えただけでしたから大した金額でもありませんし。無主地でしたら、商業ギルド支部に直接支払うことでよろしいですか?」


 ここは一度実際に弁償した事実を作っておきたい。弁償の約束を反故にしたとか言いがかりをつけられないように。もしシーリンタ支部が本気でこっちに喧嘩を売りたいならこの提案を拒むこともできる。でもさすがにそこまで露骨に敵意を示さないだろうね。フェインルーサ大公のあの訓示もあったし。


「……わかりました。謹んでお受け取りいたします」


 はぁ、まだ本題に入ってないのにここまでこじれるとは。先が思いやられるね。


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