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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター5~ギーアル半島での外交
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5-4 タシフォーネとアルスタール租借条約の確認 2

「特に訂正する箇所はないみたいですね。では明日シーリンタの代表とも確認できたら、この条約を調印して、七国同盟議会に提出します」


 カーチマス王国を七国同盟という連邦の一員だと思えばそうする意味がわかる。今回の条約を準拠に他の加盟国とも外交関係を築くことができるから。特にテュークリム共和国とは早めに進める必要がある。これまでクルジリオンの支部と何回もやり取りをしたけどまだ正式な外交関係を作っていない。カーチマスに遅れを取ったと思わせないように急いで済ませないと。


 確認作業はここまで。双方が条約、副本や資料を片付ける間、ミンスターは思い出したようにこっちに話しかける。


「そういえば、最後に一つ殿下にいい知らせがあります。こちらが入手した情報によると、フェインルーサ大公が撤退する直前、シーリンタ支部の幹部全員を招集してこんな訓示を下しました」


 ミンスターの話によると、フェインルーサ大公の訓示はこんな感じ――「カーチマス王、そしてカリスラントと良好な関係を保つことがこれからシーリンタの命綱になる。両方とも親密になればシーリンタは安泰、片方だけなら危ういがまだ挽回する機会がある。両方同時に敵を回す時シーリンタは再び戦火に焼かれると心得よう」。


 そうか、あのフェインルーサ大公がそんなことを言ったのか……襲撃の件は本当に腹立ったけど、認めざるを得ない。彼は確かに局面を見通す慧眼を持ってるし、配下と民を慈しむ心がある。これから自分の支配下から離れる者たちの将来を案じて、自分の敵になびくのが最善だと教えた。常人には到底できないことだ。それもシーリンタから急いで引き上げる大事なときに、わざわざ時間を割いた。フェインルーサの人々が大公のためなら喜んで命を投げ捨てるのも納得だね。


 もちろんそれには打算も入ってる。城壁がないシーリンタは防御に適しないが、カーチマス王はシーリンタに被害を出したくないから、凡庸な指揮官ならその心理を利用して市街地で徹底抗戦、一人でも多くの敵を討ち取ることを選ぶかもしれない。でも大公は自由港の性質を十分に理解しているから、それを最大限に利用しようとしてる。今までこんなにも大事にしてもらったから、当然シーリンタの有力者たちは親フェインルーサのままだ。カーチマス王の軍勢だって彼らの心を変えることができない。どうしてもフェインルーサの影響を排除したいなら粛清しかないが、そんな強硬手段を取るとシーリンタの自由港としての信用が地に落ちる。回復するには数年か、もっと長い年月が必要だろう。新しい自由港アルストの商人誘致にも悪影響が出る恐れがある。だからこの先シーリンタの商人たちが情報提供や軍需品の密輸などの手段でフェインルーサ大公を支援しても、厳しく取り締まることができない。獅子身中の虫だとわかっても、その虫自体の価値が高すぎるからカーチマス王も見逃すしかないのだ。


 大公の訓示のキーポイントは、「片方だけなら危ういがまだ挽回する機会がある」のところだ。今のシーリンタは地上ではカーチマス王の軍勢の保護下、そして海上交通はカリスラント海軍が押さえている。その両者との関係が大事というのは明白だ。わざわざそれを言うのは、カーチマスとカリスラントの利害が必ず一致しているわけでもない、付け入る隙はあるのを強調したいから。万が一どちらか片方との関係が悪化したら、もう片方との関係を使って牽制できる。危険なバランスゲームになるが、自前の武力を持たないシーリンタにはそうするしかない。


「なるほど。それなら、明日の会談は意外とうまくいきそうですね」


「ええ。シーリンタの代表が非協力的な場合こちらが助け舟を出すつもりなんですが、どうやら杞憂で終わりそうですね」


 シーリンタでのフェインルーサ大公の人望が凄まじい。そのフェインルーサ大公の拠点を焼き払い、追い出したカリスラントにいい感情を持つはずはない。さらに言うと、自由航行保証作戦とジレンディスの嵐での戦いで犠牲になったフェインルーサの船員に多数のシーリンタ出身者がいたと思われる。その遺族がカリスラントを恨むのも当然か……はぁ、こっちは防衛側なのに、結局こうなってしまうのね。こっちがいくら責任がフェインルーサ大公にあると主張しても無駄なような気がする。それくらい大公の人心掌握が完璧だったから。シーリンタの代表が大公が残した言葉通りに、こっちに歩み寄るのを期待するしかないか……


 ミンスター一行は明日の会談にも出るから今日はタシフォーネに一泊。彼らが退室すると、こっちに各艦長、そして海兵隊の隊長と班長たちを招集して、クルジリオンへの公式訪問についての会議を始める。その前に私とファルナは3階の執務室に戻って一服するが、海外領地財務監査局局長のチースタが人払いをした上で入室する。どうやら内密に報告したいことがあるようだ。


「クルジリオン訪問の件に関して、アンネ様のお耳に入れておきたいことがあります」


 海外領地財務監査局が掴んだ情報によると、私たちのクルジリオン訪問を狙おうとする人間がいるらしい。


「……探検艦隊を襲撃しようとしてるの?その、『本家リミジタース商会』の主は、確か……レンダースが昔世話になった人の息子だよね?」


「はい。彼は地元のいくつの非合法的義侠団体を介して、スラム街の流れ者を集めています」


 クルジリオンがカリスラントと誼みを結んだ過程にレンダースは大きな役割を果たしたし、今もクルジリオンの代表としてタシフォーネに駐在してる。レンダースと争った「本家リミジタース商会」は自然とカリスラントとの商談から弾かれた。それで逆恨みされたのか?そう言えばこいつはタシフォーネの海賊を雇ってレンダースを暗殺しようとしたのね?なんでこんな乱暴な手段ばかり使うの?こいつは商人ではなく、ゴロツキに転職したほうがいいのでは?


「短絡的すぎない?それになんの意味があるの?」


「人員の質と規模を見ると本気でアンネ様に危害を加える意図はないと思います。推測なんですが、おそらく騒動を起こすこと自体が目的です。クルジリオンの行政当局の責任問題にして現在の支部長を失脚させ、その後の巻き返しを目論しているでしょう」


「そうか。支部長はレンダースの親友だよね。チースタさんは、この件をどう対処すべきと考えてる?」


「クルジリオン支部もその動きに気づいて、内密に片付けようとしています。しかしあの街の性質上、事件を未然に防ぐのは非常に難しいでしょう。こちらも警戒を強めたほうがいいかと」


 クルジリオンは本当に治安がすごく悪いみたいね……そういえば先月末も3番艦の士官たちがクルジリオンの歓楽街で乱痴気騒ぎ、危うく現地の義侠団体とやら(まぁ多分ヤ◯ザか、マフ◯アみたいなものだろう)に連れ去られるとこだったと聞いた……この計画的襲撃だけじゃない。探検艦隊のメンバーが街で散発的な犯罪や揉め事に遭遇する可能性もある。注意喚起しておく必要があるね。


「わかった。後で海兵隊に話しておくね。そちらも何かいい提案があれば随時提出するように」


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