表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター5~ギーアル半島での外交
86/159

5-1 一ヶ月後……

――再誕の暦867年9月23日、タシフォーネの砦、アンネの執務室――


「はぁ……なんでこうなったのよ!」


 机の上に広がられているギーアル半島東の先端の地図と、地図の上にある部隊配置を見て、私は思わず頭を抱える。


「完璧に勝てる戦なのに、どうしてこんなグダグダになったの?」


「わたくしたちの情報と忠告はほとんど無視されましたね」


「だからなんでそうなったの?王の使者がこちらの情報の信憑性を保証してくれたのに?」


 カーチマス王と協力関係を築いたから、フェインルーサの領地を没収するための戦いに探検艦隊が海上からサポートすることになった。この戦いで敵対勢力を排除して、タシフォーネ周辺の情勢を安定させたら探検艦隊は心置きなく行動範囲を広げられる。ついでにカーチマス王に恩を売ることができる。やることは去年の対アファンストリュ帝国の戦いで陸軍を支援するときと同じ。フェインルーサの領地は半島の東の先端だからそのほとんどは海上から偵察できる。主戦場となったミギューレの河谷はさすがに空中観測の範囲外だが、魔力レーダーで大まかの部隊の動きを把握できる。それでカーチマス王が派遣した討伐軍にとって有用な情報をたくさん集めたと思う。しかしせっかくこちらが集めた情報を、なぜか討伐軍の指揮官が活用してくれない。戦上手のフェインルーサ大公相手に、失策続きの討伐軍がついに総崩れになった。


 最新の戦況を共有するため副司令と参謀全員を執務室に招集した。


「リミア、一度これまでの戦況をまとめて」


「はい。8月28日、カーチマス王の勅令を得たリズカエム公爵は推定兵力6500の討伐軍を率いて南からフェインルーサ領に侵入。30日にロイラスの街を制圧。フェインルーサ大公が騎士団を主力とする精鋭3000人を連れて、強行軍でロイラスに接近しているのを我々が察知して警告を送りましたが、リズカエム公爵は大公がこんな短期間で来るはずがないと断定して、部隊を街の中に入れて休息を取りました。9月1日の夕方、フェインルーサ大公の軍勢が街の外に到着すると住民たちが蜂起、街から追い出された討伐軍がフェインルーサ軍の攻撃を受けてかなりの損害を受けました。おそらくフェインルーサ軍は強行軍によって疲弊したから追撃は途中で断念、討伐軍は決定的敗北を免れたが、領地の境界線まで後退することに」


 これまでフェインルーサ大公と3回やりあって(シーリングス海峡自由航行保証作戦、ジレンディスの嵐の中での戦い、スキジーサ騎士団の強襲)、探検艦隊は3回とも勝利を収めたが、フェインルーサ大公は決して油断できない危険な相手だと思う。敵の強さと弱点をたった1、2回の遭遇で分析する能力がある。戦う前は慎重に計画を立てて、勝負どころで大胆な決断もできる。それになにより大事なのは、彼は部下と領民から深く敬愛されている。フェインルーサの部隊は結束が固く戦意が高い。半独立な小領主たちは日和見せず最初から恩のあるフェインルーサ側につく。そして領民たちは危険を犯してまで領主の戦いに支援してくれる。フェインルーサのホームグラウンドで彼を打ち負かすのは決して簡単じゃない。


「フェインルーサ大公はロイラスで一日休んで、すぐに北へ引き返しました。西北からスミアル候爵とミラエス伯爵などの諸侯連盟軍7000がミギューレの河谷に侵入したという報せが届いたからと思われます。5日の朝、ミギューレ城の西での戦闘をフェインルーサが制したが、ここでも部隊が疲弊したからスミアル候爵の撤退を阻止できませんでした。大公は一旦本拠地ミギューレに入城して態勢を整え部隊を再編することにしました。ここでフェインルーサ大公は誤った決断をしました。疲れ切った狼騎兵を置き去りにして、9000の兵力を率いてミギューレ城から出撃。スミアル候爵を追撃しようと西へ進み、8日の日没前、フェインルーサ軍は河谷の西の村コルスムーに到着しそこで宿営するつもりだったが、コルスムーはすでにスミアル候爵の援軍として来たカイヤンティ伯爵に占拠されました。斥候を出せなかった大公は敵の援軍を事前に察知できませんでした。9日未明、コルスムー村の外で戦闘が発生。先に有利なポジションに陣取ったスミアル候爵とカイヤンティ伯爵に挟み撃ちされ、フェインルーサ大公が敗走。11日ミギューレ城に帰還して籠城することになりました」


 リズカエム公爵の討伐軍と違って、スミアル候爵と傘下の貴族たちが結成した北部諸侯連盟軍は別に王命を受けたわけでもなく、勝手にフェインルーサ領に攻め入り領土を切り取ろうとしている。まあ、恥知らずの火事場泥棒だね。南と北両方から自分と同じ規模の軍勢に攻められ、さすがの大公もここまで不利な局面を覆せない。騎兵が使えない状態でも強引に仕掛けたのは、討伐軍が再び来る前にスミアル候爵とけりをつけたいからだろう。状況を打開しようと南から北へ奔走する姿は、地球の1066年ブリテン島を縦断したイングランド王ハロルド2世を彷彿とさせる。両者の違いは、ハロルドは戦場で決定的敗北を喫して戦死した、でもフェインルーサ大公はまだしぶとく耐えている。ちなみにこのギーアル半島では騎兵が騎乗するのは狼。馬がいないから。それもフェインルーサ大公の決断を影響する要因だろう。狼騎兵は訓練が難しく数を揃えるのが大変らしいので、あまり酷使できない。


「13日連盟軍がミギューレ城を包囲しました。ほぼ同じ時間、リズカエム公爵は彼の再従兄弟のセリーン伯爵と合流、討伐軍の兵力が11000人になりました。進軍する討伐軍はロイラスの街を再び占領、徹底的に略奪して焼き払いました。19日ミギューレの城外で討伐軍と連盟軍が遭遇、リズカエム公爵が王命の旗を掲げてスミアル候爵の行動を咎めると、動揺する連盟軍の足並みが乱れて西へ後退しました。翌日、スミアル候爵に撤退するつもりがないのを見てリズカエム公爵は連盟軍を攻撃すると決意。王命を拝領した討伐軍と敵対することに連盟軍が再び混乱し、情勢不利を見てカイヤンティ伯爵は土壇場で裏切り、スミアル候爵が討ち死に、連盟軍が総崩れになりました。ここでリズカエム公爵はまたしてもこちらの警告を無視して、連盟軍の残党を一掃するために追撃に出ました。22日フェインルーサ大公はミギューレから出撃、領軍をまとめたチャートゥル子爵など小領主たちの後詰と合流して9000の軍勢に。討伐軍はフェインルーサ勢に背後から襲われ壊滅、リズカエム公爵は僅かな手勢とともに自領に逃げ帰りました」


 これは、ツッコミたいところが多すぎてどこから話せばいいのか……とにかくこのリズカエム公爵ってやつは駄目だ。火事場泥棒のスミアル候爵が邪魔だから、情勢の複雑化を避けるために先に排除したいのはわかる。連盟軍の実態が寄せ集めなのを理解して、王命の立場を使って有利に戦うところまではよかった。でもその後の追撃はどう考えても無謀すぎる。フェインルーサ大公の味方が接近しているのを、私たちがせっかく警告してやったのに、はぁ……そもそも彼が率いるのは王命を拝領した討伐軍。いくらロイラスの住民に恨みがあっても、街を焼き払うのは官軍のやることじゃない。彼は明らかに、討伐軍のトップを務める器じゃない。なぜそんなリズカエム公爵に勅令を出したの?政治的判断?それとも、あの謀略が得意のカーチマス王になにか狙いがあるのか?


「この状況で役に立つかはわからないけど……とりあえず、今まで通り現在の情勢の報告を作成して。明日はカーチマス王の使者と会う約束があるから、そのとき渡す」


 敵対勢力を領内から排除できたから、ここまではフェインルーサ大公の勝利と言えるが、フェインルーサの部隊もかなりの被害を受けたし、領内が荒らされた。これで参戦した3つの陣営どっちも満足に動けなくなった。フェインルーサ領の情勢は混迷を極める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ