4-APPENDIX(2) セルフェンギーア聖樹七国同盟(地図付き)
ギーアル半島周辺を支配する7つの国で構成する、連邦に近い密接な同盟体制。同盟全員の領土を合わせるとカリスラント王国より少し上回る。そんな中型、小型国家の集合体だが、共通の信仰によって強固な絆を結んだ。タシフォーネの海賊など内部のいざこざはあるものの、同盟から脱退したり、他のメンバーを本気で攻撃したりするような考えはまず出ない。
聖樹七国同盟最初は大陸西側から中央まで席巻するストリュア神聖帝国の侵略に対抗するために結成した防御同盟。現人神である皇帝を頂点とする多神教、アルフィン神盟教を国教とするストリュア神聖帝国は他の信仰の存在を認めるが、異教の神々を従属神として自分の宗教体系に組み込もうと外征を繰り返した。やがて大陸北東の端っこにあるギーアル半島諸国が神聖帝国の新しい目標にされると、セルフェニの丘の聖樹という共通の信仰を持つ半島諸国は団結して、神聖帝国との戦いに臨んだ。戦争3年目の大敗の後、このままでは負けるとわかった半島諸国は同盟体制を強化することに合意、「セルフェンギーア聖樹七国同盟」の名前はその時調印した条約で初出した。
神聖帝国には終焉教団という最大の敵がいるから、七国同盟との戦いは最初から最後まで本気を出すことがなかった。皇帝ではなく、自分の利益を求める東側の諸侯が主導で戦争をすることが多かった。それで和睦と再戦を何度も経て、200年過ぎると双方の妥協点を見つけた。今から100年前の和平条約で七国同盟の独立地位を神聖帝国が認めたが、セルフェニの丘にアルフィン神盟教様式の神殿が建設され、そして帝都アルスにある神盟大神殿が聖樹の枝を迎え入れ、晴れてアルフィンの神々に加えた。アルフィン神盟教の従属神にされるだけでは実害がないということがわかったから、七国同盟はこの条件を受け入れた。そして成長するギーアル半島の海上貿易が無視できなくなり、神聖帝国は七国同盟と和平を結ぶ利点が大きいと認めた。それから七国同盟は神聖帝国と概ね良好な関係を維持するようになった。
ギーアル半島は西の大陸の東の果て。(トズルサからハインフェーカまでの)北海貿易地域と、(フーレレヤからムサナシピルまでの)東海貿易地域の間にある交通の要衝だから、古くから海上貿易が発達していたが、タシフォーネの海賊が現れたから同盟全体の対外貿易に若干ダメージを与えた。外国人がシーリンタの商業ギルド支部まで通行証を購入するのが不便だから、シーリングス海峡を通過する長距離貿易をやめて、クルジリオンなど他の重要な港を相手とする中、短距離貿易が主流になった。結果的にシーリングス海峡を通過する航路はほぼ七国同盟の人間が独占した。シーリンタに訪れる外国人がいなくなり、その発展が頭打ちになりつつのも、フェインルーサ大公が海賊をやめさせるべきと考えた原因の一つ。
商業ギルドは七国同盟の経済を牛耳る国際組織。貿易活性化のために数々の法整備と国際条約を発案して、同盟議会でも強い発言力を持つ。そういう背景だから、自由港という特殊な統治形態がクルジリオンで実験的に始めた。街に自治権を与えて商業ギルド支部に統治を任せる。経済発展の面で見ればこのやり方は非常に効率がいいのが証明されたが、商業ギルドに武力が足りないから治安が悪化するなど、課題も残っている。シーリンタでのフェインルーサ大公の施策はその欠点を解決した、自由港の理想的な発展型だと見なされている。
~カーチマス王国
ギーアル半島東の南部にある。七国同盟の中で2番目に領土が大きい国。全体的な国力は現在の七国同盟の中のトップだが、典型的な封建王国だから貴族領主の実力が強く、国王の力は制限されている。中でもフェインルーサ大公の力が突出していて、もう国王にも迫っていると噂されるほど。ストリュア神聖帝国と隣接していないから、援軍は出していたが国土が直接戦場になったことはない。その代わり国内の貴族領主たちによる大規模な内戦は何度もあった。
半島の北と南を行き来するに必ず通るから、海上貿易が発達。特に半島の先端シーリングス海峡が急所。アンネ曰く、「絶対に通過しないといけない急所ではないが、ここを利用できなくなると相当困る」。タシフォーネ島と、対岸の港町シーリンタで海峡を制する。港町シーリンタはフェインルーサ大公によって自由港に改造されて大いに栄える。シーリンタの北にフェインルーサ第二の居城、白亜のリガンジエル城があったが、カリスラント海軍の攻撃によって焼失した。
カーチマス王の直轄地は王都カーチヤを中心とする穀倉地帯。ずっと昔から繁栄している地域だが、海上貿易の発達によって沿岸部の経済力が成長、相対的に国王の力が落ちた。港もなく、自前の海軍を持てない現状にカーチマス王は危機感を覚えるが、沿岸部を支配する貴族領主の土地を理由もなく奪うことができない。他の領主たちも納得する大義名分が必要。
現在のカーチマス王は父が不審死の直後12歳の若さで即位した。王都カーチヤの周りを支配する三人の大貴族が宮廷の重要ポストに身内を入れて、都合のいいように国を操っていた。カーチマス王は身の危険を感じたから暗愚を装って、三人の大貴族が反目するように仕向け、最終的に三人まとめて取り潰して権力を取り戻した。しかし王都が政治闘争で混乱している間、地方領主たちの力が増した。特にフェインルーサの躍進が目覚ましい。カーチマス王の地位はまだ安泰とは言えない。
~テュークリム共和国
ギーアル半島西南部にある、七国同盟の中で3番目に領土が大きい国。ストリュア神聖帝国との戦争で荒れ果てた土地だったが、神聖帝国と和解以降対外貿易によって急成長。その頃から商人階級の力が強くなり、戦争で王家の血脈が薄くなったのもあって、テュークリムは共和制に移行した。現在の政治体制は貴族領主たちと商業ギルドの各支部長が議会のメンバー候補として競っているようなもの。
テュークリム共和国の文化と政治の機能は首都タイルスタに集約するが、経済的中枢である自由港クルジリオンこそが一番重要な街。内陸水運で首都タイルスタまで一気に行ける。東にはダンジョンがある。西は穀倉地帯に北東は良質な鉱山。周囲に重要な消費地と多数の資源生産地があるから半島南部の最も重要な貿易センターに発展したが、天然港湾の条件が良くない。それで街の敷地が異常に広くなった。貧富格差と治安の悪化が深刻な問題になっている。半島北部ともっと先にある北の外国との貿易はタシフォーネの海賊によって減ったが、シーリングス海峡を通過する必要がない、東海貿易地域との短距離貿易は逆に成長している。主な貿易パートナーは神聖帝国の港町フーレレヤ、そしてルファークレク人の貿易都市国家ムサナシピル。
テュークリム共和国は契約や保険、倒産の債権配当など、複数の外国から様々の先進的な商業制度を積極的に導入した。アンネは現代地球の知識があるからすぐに適応したが、実は他の探検艦隊メンバーたち最初はあまりわかっていない。これらの制度に守られているのもテュークリム共和国の商業が発展する原因の一つ。
~七国同盟のパワーバランス
現在同盟議会で発言力が強いのは総合国力が高いカーチマス王国とテュークリム共和国。半島西部は神聖帝国との戦いで荒廃したから、カーチマス王国は相対的に被害が軽い。テュークリム共和国は壊滅的な被害を受けたが対外貿易の富でいち早く復興した。聖樹直轄教区セルフェニは宗教的権威と聖地の守護者ユールキ=ガーズルアの武力があるが、議会では大体公正な仲裁者という立場を保っている。他の国にはそれぞれ課題を抱えている。
~聖樹信仰の風習
聖樹信仰には「ユールカ」(意味合いは「試練」に近い)という風習があり、男性はみんな右肩に赤い枝の紋様のタトゥーを入れる。そして普段は右肩が見える非対称な服を着る。寒い冬場ならいつでも右肩を見せられるような厚手の服を羽織る。セルフェニの丘の聖樹へ巡礼を果たしたり、多額の寄付などをすると聖樹の祠がタトゥーに追加の紋様を足してくれる。タトゥーの画数が増えれば増えるほど一種の社会的ステータスになる。昔は女性にもタトゥーを入れるが、肌を傷つけたくないと思う人が増えたから今は右耳のイヤリングで代用する。イヤリングの宝石の数がタトゥーの画数と同じ役割だが重くなりすぎのが嫌と思う人もいる。一部敬虔な女性信者は今でもタトゥーを入れて右肩を露出させる。
もう一つ特殊な風習は葬儀関連。ギーアル半島では土葬が主流、それで聖樹の根の一部となると信じているが、戦場や処刑場で多数の遺体が出る場合ならまとめて燃やす。そうすれば穢れと罪を清めて、魂が聖樹のもとへ帰れる。アンネの考察によると疫病を予防するために、遺体の迅速処理に宗教的意味を付与したと思われる。
~ユールキ=ガーズルア
聖樹信仰の発祥地セルフェニの丘を守るために設立した複数の戦士団の集合体。聖地の守護者だから神職の一面もある。高級幹部なら七国同盟の各王家や執政官に対等で接することが許される。団員たちの「ユールカ」のタトゥーに特別な追加紋様があるから聖樹の信者なら一目でわかる。対神聖帝国の戦争などにも活躍したから、信者たちの間で人気が高い。外国人に「聖樹の盾」や、「聖樹騎士団」と呼ばれることが多いが、本人たちはそんな呼び方を使わない。信仰と伝承的に「聖樹の盾」も「聖樹騎士団」も微妙に間違っているから、昔は正式に抗議もしたが、効果がなくて実害もないし、もう訂正するのが面倒くさくなったからその呼び方を受け入れた。
――付録:ギーアル半島周辺地図――
カーチマス王国
A タシフォーネ島
B 港町シーリンタ
C フェインルーサ家本拠地ミギューレ城
D 王都カーチヤ
聖樹直轄教区セルフェニ
E セルフェニの丘
ポルフェス王国
F 王都ムール
ゲレサース王国
G 王都ゲレス
スゥールミス王国
H 王都チースタッフィ
テュークリム共和国
I 自由港クルジリオン
J 共和国首都タイルスタ
ホーンスタル王国
K 港町ルアルス
L 王都スティーカ
七国同盟外
M ストリュア神聖帝国トミーンジリ公爵領領都フーレレヤ
N ハインフェーカ王国王都タレミサール




