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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター4~タシフォーネの砦
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4-25 スキジーサ騎士団の襲撃

――再誕の暦867年8月15日、タシフォーネの砦、港に停泊しているラズエム=セグネールのブリッジ――


 会談の約束の日。今のラズエム=セグネールは港にいるが、私たちはブリッジに集まって魔力レーダーと気球でシーリングス海峡を監視してる。フェインルーサの代表たちが来ると、こっちから2隻を護衛として迎えに行かせるつもり。もし一行がこの島に向かう途中事故して行方不明になると、こっちにとっても非常に面倒なことになる。


「そう言えば、砦に魔力レーダーを設置するのはいつになるのでしょうか?」


「もう少し待ってね。決着をつければ、すぐにトリスタ=フィンダール島に保管してる機材をこっちに運ばせる」


 士官たちの疑問に答えると、ファルナが補足説明してくれる。


「このタシフォーネ島の帰属が確定するまで、機密性が高い機材を島に設置しないほうがいいとわたくしたちが判断しました。レーダーを使うたびに船に乗るのは不便ですが、今しばらく我慢してください」


 帆船は天候の影響を受けやすいからあえて正確な時間を指定してない。午後と約束したから、そろそろ来ると思うが……


『単独のダニシーサ艦を発見しました。座標Q-7です』


 ちょうどミレスファルから報告が来た。レーダーでは艦種がわからないから、この場合はまず目視で目標を捕捉、その後はレーダーで追跡できる。


「多分あれだね。3番と4番艦を迎えに、」


「アンネ様、その……あの船の魔力レーダーの反応なんですが……70人規模、と出ています」


 今回の会談に出席する人数と船はこっちが指定した。島に降りることを許可するのは上限5人で、代表者とその付き人や護衛を想定。船を運航する乗組員は島に降りないなら数に入れない。しかしいくらなんでも70人はない。中型のダニシーサ艦を運用するには普通20人もいれば十分。こんな短距離なら10人だけでもいい。これは、船の狭いスペースにできる限りの兵隊を詰め込んだと見るべきか。こちらの人数はそう多くないのを向こうもすでに把握している。それで50~60人の精鋭で虚ろをつけば、このタシフォーネ島を奪い返すのも可能と判断したんだろう。


「……舐めたマネをしてくれる」


 自分でもびっくりするくらい、低くて暗い、重苦しい声を出した。自分の善意が踏みにじられたとき、こんなにも悔しくて腹が立つとは。暫くの間私は冷静を保つのが精一杯だ。


「アンネ様、どうしますか?今から砲撃します?」


「ダメだ。こちらの招待だから問答無用で沈めるのはまずい。大丈夫。相手の作戦はすでにバレているから、いくらでもやりようがある。キーミル、お互いの損害を抑えるには、なにかいい案があるか?」


「……この場合、デリーミカルを使うのが最善だと思います」


「開放空間で使うと効果が薄いけど、大丈夫?」


「問題ありません。向こうが船を降りる瞬間を狙うから、どうしても集中隊列で浴びることになります」


 デリーミカルとは、錬金協会が開発した即効性の眠り薬だ。効果が強い分、もし悪用されると治安への悪影響が計り知れないので厳格に管理されている。デリーミカルに一つ重要な特性がある。人体に害がないから、毒対策の魔道具やアクセサリーに無効化されることが少ない。毒検知の精度が低いと、ただ人を眠らせるだけの薬は毒だと判定されないから。噴射用の装置は運搬が困難、防衛でないと使いづらいという大きな欠点はあるが、適切な地形で液状化させたデリーミカルを敵部隊に向けて噴射すると無傷で制圧できる。相手を捕縛するのに最適な手だ。


 キーミルはデリーミカルの設置と噴射を采配するから、今回の全体的陣頭指揮はファルナに任せる。相手に奇襲が失敗したのを悟られないように、ジャイラと2番艦の海兵班長が率いる海兵隊は港の両側の裏に配置、それならあからさまに警戒しているように見えない。約束を違えたのはフェインルーサだと証言させるため、一足先に島に来たカーチマス王の使者ミンスター、それとアインシリーたち商業ギルドの人間には状況を説明した上で安全な場所から観戦させる。3番艦と4番艦は予定通り出航するが、乗艦する海兵はぞれぞれ1班だけ、他はこっちに戦力として残留。相手と会話や交渉をする可能性もあるため、指揮官たちにそれぞれカネミング石のイヤリングを装備させる。


「3番艦と4番艦は相手の意図に気づいてないように振る舞って。でも警戒はしてね。向こうが突然接舷しに来る可能性もある」


 もしここで作戦失敗だとわかったら、船1隻だけでも奪って帰る――向こうがそう決断するかもしれない。


「アンネ様、もし敵が最初に約束通り5人しか降りて来ないならどうしましょう?会談が始まって、わたくしたちの注意がそれる時船に残留の兵力が動き出す――そんな作戦かもしれません」


「そうか。その可能性もあるのね。その場合はファルナが率いる部隊で私の警護をする。デリーミカル班と港の裏の班はそのまま敵船を監視。とにかく6人目が降りる時点で攻撃開始」


 3番艦と4番艦より先に、相手の船が接岸した。武装した騎士たちが下船すると、淡い緑色の水と霧が船全体に降りかかる。地上と甲板に出た十数人の騎士はすぐに意識を失った。周りに身を隠している海兵隊が風操作の魔法を使って、薬を含む空気をできるだけ長く船の周りに集中させる。狭い船室の中にまだ多数の騎士が集まっているからすぐに退避できず、直接薬を浴びていない騎士たちも気化したデリーミカルを吸い込んで続々と倒れるはず。そんな中でただ一人無事なのは最初に降りた、銀色の鎧をまとう中年の男性。なんとなく歴戦の猛者のような雰囲気を感じる。どうやら彼が持ってる毒対策のアイテムは特に高品質らしい。


「いきなり毒を使うとは!卑怯な!」


「卑怯なのはどちらでしょうか?5人出席の会談に50人以上の重装騎士を連れて来るとは。一応言っておきますが、こちらは6人目が降りる瞬間まで攻撃を控えたのです。騎士団はただ同乗しているだけで参加人員ではないなんて、見苦しい言い訳をされたらたまらないですから」


「くっ……」


 ファルナに言われて、あの騎士の男も理解したはず。自分たちの企みは最初からバレている。


「仲間の安否を案じる必要はありません。これはただの眠り薬です。貴方達の計略を見破って、自分の思いが無下にされたのがわかっていて、それでも流血を嫌うアンネ様に感謝しなさい」


 ファルナの言葉を鵜呑みせず、騎士の男は警戒しながら仲間たちの容態をよく観察する。本当に眠っているだけだとわかると起こそうとするが、伏兵の海兵隊が姿を表し、彼を包囲してそんな時間を与えない。


「降伏しなさい。大人しくすれば貴方と仲間達に危害を加えないし、誇りを傷つけるような真似もしません。抵抗できない敵にわたくし達は非常に寛大ですから」


「待ちな、ファルちゃん。そんなの面白くないし、こんな強敵と戦えるチャンスはなかなかないぜ」


「お師匠様……」


 ジャイラの勝手な行動を止めるべきか、判断に迷うファルナは後ろに控えている私のほうを見る。


「まぁ、いいでしょう。ジャイラの好きなようにさせて」


「よっしゃ。戦う前に名乗るのが礼儀だ。あたしはジャイラ、ここの海兵隊隊長だ。アンタは?」


「……スキジーサ騎士団団長、イリージスクだ」


 こちらが圧倒的に有利なのに、なぜかそれを捨てて正々堂々な勝負をする流れに。向こうの団長さんは困惑しながらも局面を打開するチャンスを伺っているみたい。


「いいねぇ。大将同士の一騎打ち。じゃこうしようか。あたしが勝ったら、当然アンタは捕まる。だがもしアンタが勝ったら、そのまま帰ってもいい」


「……そんな勝手な約束をしても良いのか?」


「あったりまえよ。あそこのチビはあたしの言う事を聞くから。ただし解放するのはアンタ一人だけだ。他のやつは、まぁ……目覚めたら同じ条件であたしに挑むチャンスを与えてもいいぜ」


「私に、部下たちを見捨てて一人で逃げろと?」


「よく考えな。アンタ一人でも帰還できたら、アンタのボスはより迅速、正確に事態を把握できる。アンタまで捕虜になったら、こっちに何が起きたかを伝える人がいなくなる。違うか?」


「……確かに。君の言う通りだ」


「納得してもらえてよかった。まぁ本当は、アンタはそんなことで悩まなくてもいいけどね……」


 ジャイラがサーベルを抜いたのを見ると、イリージスクも剣を構える。


「勝つのはこのあたしだから!」


 桟橋の側で戦闘が始まった。んー、二人ともめちゃくちゃ強い、私にはそれくらいしかわからない。


「アンネ様。本当にこれでよろしいですか?」


「構わないよ。カーチマス王の使者も見てる。薬だけで勝っちゃうのは格好つかないし、ジャイラが勝つとみんなの士気が上がる。万が一ジャイラが負けても、一人逃したところで大した影響はない」


 こっちの計画に支障が出ない程度なら、ジャイラにいっぱい戦わせて、望みを叶えさせてやる――出発する前からそう決めたから。幸いジャイラは私のおば……ではなく、お姉様だし。私がジャイラの言う事を聞くのは別におかしくないし、艦隊司令の威厳を損なう心配はない。


「それで、勝てるの?」


「うーん、大丈夫と思います。あの騎士団長さんもなかなかやりますが、お師匠様の方が一枚上手です」


 ファルナの言う通り、しばらくすると、ジャイラが優勢になったのは私の目にも明らかに。


「どうした!この期に及んで、部下たちの心配か!もっと集中したらどうだ!」


「くっ、君みたいな戦闘狂にはわかるまい。我らがスキジーサ騎士団の絆を!」


「そうかよ。じゃアンタも仲良く一緒に捕まれや!」


 重い一撃を捌ききれず、イリージスクの体勢が崩れるところでジャイラの蹴りをまともに喰らった。勝負アリだ。


「カハッ……無念、だ……」


「……クソっ!全力を出せる状態のアンタと、やり合うことができたら……」


 惜しいと嘆きながら、ジャイラはサーベルをしまって颯爽に去った。海兵たちは騎士団員の捕縛を始める。まだ抵抗する余力がありそうなイリージスクも大人しく捕まった。


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