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1-8 父との話 2

「そうだ。一つだけ、包み隠さず教えてもらいたいことがある。お前は、最初からこうなるのを予見していたのか?……例えそうだとしても、今更お前を責めるつもりはないが、これだけははっきりさせておきたい」


 お父様は途中まで言うと、ファルナを一目見てから話の続きをする。言いたいことはわかる。私は同性愛者だから、王太子との結婚を回避するために、海軍を作りザンミアルとの関係を悪化させ、戦争になるように仕向けたんじゃないかと疑っている。しかしお父様は勘違いしている。私がファルナと付き合うことになったのは開戦直後。それまで私は自分が同性愛者だなんて知らなかった……いや。そもそも今でも私は自分が同性愛者ではなく、好きになった人がたまたま同性だと思ってるし……でもお父様にそんなことがわからないから、そう疑うのも無理はない。


「……いいえ。私はザンミアルと戦争するつもりはありませんでした。我が国の海上実力の増強が両国の関係を損害する可能性が高い、というのは昔お父様に説明した通りですが、あの頃は戦争になる可能性が極めて低いと考えていました。なにせ私が向こうに嫁ぐと今度はザンミアルの海軍が強化されます。ザンミアル的になにもしないで私の結婚を待つのが得策だと考えました。しかしザンミアル側の考えは私の予想と全然違うから、戦争が起きました。全ては私の浅慮が招いた結果です。申し訳ありません」


 私は、自分が自由でいられるのはゼーネフォビム王太子と結婚するまでだと考えていた。


 地球の中世と比べると、この世界の女性の地位は高い。魔法があるから、女性が身体能力的に劣るという考えはあまりない。それでも女性には色々不便なところがあるから、全体的に見ると男性のほうがやや優位。うちのカリスラント王国でも相続権基本男性優先などの決まりがあるし、私が海軍を作り始めた頃にもそれは王族の女性がやるべきことではないと非難する人がたくさんいた。


 うちと比べるとザンミアルはもう少し女性蔑視の傾向が強いと聞いた。向こうに嫁いだら同じように好き勝手ができるとは思えない。だから私は小さい頃から一生懸命に実績を作り、ザンミアルに行ったら自分の実績をアピールして、最低でも海軍を動かせる権限を確保したいと考えてた。それさえできればまた実績作りができるし、最終的には自分が船に乗り、探検に出るつもり。


 しかしこの計画に一つ大きな誤算があった。私がやってきたことは実績作りだから、特に隠蔽したり、他の人間を隠れ蓑にしていない。帆船からの脱却、情報伝達の改善、第三世代錬金術(=化学)、など……どれも私の功績だと周知させている。魔導砲と魔導スクリュー推進も製法こそ機密だが開発したのは私だと公表している。秘匿しているのは軍事機密の魔力レーダーと観測気球くらい。もちろん私が嫁ぐ予定のザンミアルにもそう伝わっているが、相手はこの話を素直に受け取らなかった。十代の小娘にそんなことができるわけがないと決めつけた。そしてそんな虚偽の宣伝をしてまで私の価値を高めようとするカリスラントに不信感が募った。私とゼーネフォビム王太子の婚姻を何らかのはかりごとに使うんじゃないかと邪推した。


 同時にカリスラントの海軍戦力と海上輸送能力が急激に増強し、ザンミアルの優位性が揺らぎはじめた。私の海軍計画がザンミアルの経済にダメージを与えてしまうのは最初からわかっていたが、ここまで深刻とは思わなかった。ザンミアルの経済は海上貿易に頼りすぎた。私は連合王国の年間収支の内訳を見たことがないから、貿易税が歳入の6割を占めていたなんて知らなかった。この歪んだ収益構造の原因はおそらくフォミンにある。連合王国としてフォミンを支配することによって、ザンミアルはフォミンの港を自由に利用できる。貿易の発展に大きく寄与した。だが同君連合の体制でフォミンを効率的に統治できたとは言い難い。王が外国にいるのをいいことにフォミンの貴族領主たちが好き放題やってた。ロミレアル湾の戦いの後、情勢不利のザンミアルが徴兵しはじめたら、フォミンの民衆の不満が一気に噴出し、ザンミアルの統治があっけなく崩れた。それだけザンミアルのフォミンにおける支配体制が脆かった。結局フォミンは連合王国にとって大した税収が得られず、商業利益を産み出すだけの存在になった。


 私はいずれ自分がザンミアルの人間になってザンミアルの海軍をこの手で強化するつもりでいたが、ザンミアルは私一人でカリスラントの新時代海軍を築いたなんて信じていない。私がザンミアルの人間になっても海上の優勢を失いつつ局面を覆せない。だから別の手段を探す必要があった。これが戦争の根本的原因なんだろうね。ザンミアルがなぜいきなり裏切ったのか、開戦当時では分からなかったが、こうして全てのピーズが揃った状態で振り返ってみると、たしかにこうなるのは不思議ではないのね。


「……まぁ、そうだよな。いくらお前でも、ここまですべてが狙い通りに事を進めることは不可能か。いや、本当に知りたかっただけだ。さっきも言った通り、お前を責めるためにこの話をしたわけではない。お前の行動を許したのは儂だから、すべての責任は儂にある。お前が気に病む必要はない」


「はい。お父様」


 開戦直後の私がストレスで倒れたことを、最初はお父様たちに秘密にした。心配をかけたくないから。しかしその話をしないと、ファルナにガーデナント・ツィリアを授与する理由がない。すごく悩んだが、やっぱりファルナに報わないと私の気が済まない。その事実を知ってから、お父様たちはこんな風に過保護になった。お父様の気持はうれしく思うけど、やっぱり私はちゃんと自分の行動に責任を持たないとダメだ。それに今はファルナが支えてくれるから。もうそんなストレスには絶対負けない。


 その後は他愛のない話をして、私たちはお父様と別れを告げ、お母様を会いに行く。


「まさか、この信仰心皆無の私が神職になるとはねぇ……でもこれでお揃いだね。ファルナの称号は、何でしたっけ?エレ……エレス?……エレシ?……」


「くすっ。エレシェム、ですよ」


 そう。ファルナも高位神職の称号を持っている。私の記憶が確かなら、そのエレシェムと言うのは大地、季節と豊作を司る大いなる神ユリシカームに仕える女官たちのこと。ファルナはその称号をもらうために高額の寄付をした。目的はもちろん、結婚避け。この前ついに「呪いの令嬢」の噂を恐れず、セラーエリクル公爵家に縁談を持ちかける勇者が現れた。何と言っても今のファルナは超超超お得物件。公爵令嬢、才色兼備、海軍のエリート、サーヴィア・カリスランティアの所持者、そして第二王女のお気に入り……さすがにこれはもう命を賭けてもいいと思う人が出るよね。この手の者はきっとどんどん湧いてくるから、ファルナは先手を打って神職になった。


 ちなみに、ファルナは私と同じ、信奉する神は海神ダルネリトン=ルーだったが、私と付き合うことになってから豊穣の神ユリシカームに改宗した。この世界の宗教観では同性婚は許されないが、同性愛者に対してそこまで厳しくない。ユリシカームのお蔭だ。神話には、悲恋で命を落とした同性カップルのことを憐れんで、ユリシカームが神力を使って二人の魂を受け継いた神の子を作り出した話がある……


「……そういえば、ファルナは今でも毎日ユリシカームに祈ってるの?」


「もちろんです。わたくしは、決して諦めませんから」


 もし私がIPS細胞という存在をファルナに教えたら……ファルナはやると決めるとやり遂げる女だから、ひょっとしたら……いやいやいや、ファルナが本当に生物科学の研究者になったら私は非常に困るから、やめとこう。


ヨーロッパのユニバーサリスなゲームをやったことがあるならわかりやすいと思います。フォミンはザンミアルにとって管理しづらい土地で自治権が高いです。それで税収や人的資源などは当地の貴族たちに吸い取られてザンミアルが得るのは商業利益だけでした。でもその商業利益がかなり大きいので目を瞑るようにしました。当地貴族を厳しく締め上げても反乱を引き起こすだけです。ザンミアルは結局フォミンの民にとっては余所者なのでどんな小さな反乱でも一瞬で危険な状況になる可能性があります。


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