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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター4~タシフォーネの砦
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4-20 嵐の後の展望

――再誕の暦867年7月28日、タシフォーネの砦、アンネの執務室――


 8番艦の戦死者の葬儀の後、ダルシネ=ルーデアの衣装から白い海軍軍服に着替えた私は中央砦の執務室に戻った。昨日の戦いで、8番艦のブリッジが魔導バリスタの直撃を受けて、艦長以下複数の死傷者が出た。副艦長と士官2名は即死、島に帰還するまでにさらに2名の傷が悪化して亡くなった。戦死者は合計5名。救助できた重傷者は3名。艦長はなんとか一命は取り留めたが、左腕切断と欠損治療ポーションの処置を受けて、勤務に復帰するのは最短でも1ヶ月後。海兵隊の地上戦を除けば、これはカリスラントの新時代海軍が単一の戦いで受けた一番大きい損害だ。


「8番艦の新しい副艦長は戦術分析士官のチーフが適任だろう。艦長代理は7番艦の副艦長にやってもらいたい。二人はどう思う?」


「わたくしもそれでいいと思います」


「私も異存ありません」


 それでも私たちは前に進めなければならない。ファルナとリミアと相談して、指揮官を失った8番艦の人事を決める。そして不足している人員を補充するため士官2名を他の船から異動させる。しかし8番艦のダメージは人的被害だけじゃない。幸い船体の構造と操船関係の装置は無事だが、汎用魔力レーダーと魔石ライトパネル1台が壊された。


「補給品のリクエストに、汎用魔力レーダーを入れるべきか?二人の意見を聞きたい」


 6番艦の修理のために魔導エンジンをリクエストしたが、あのときと状況が少し違う。両方とも分解すると自壊する仕掛けがあるから機密漏洩のリスクは考慮しなくていい。魔導エンジン自体は奪われても活用するのが難しい。でも魔力レーダーの運用は仕組みがわからなくても可能だ。敵の手に落ちる場合の危険性は魔力レーダーのほうが遥かに高い。それに魔導エンジンがないと6番艦はほぼ動けない。魔力レーダーがないと8番艦は情報収集能力を失い、仲間が提供する情報に頼るしかないが、まだ動けるし戦える。


「8番艦の情報収集能力は艦隊全体でカバーできるので、私は要請しない方がいいと思います」


「わたくしは新しい魔力レーダーをリクエストすべきと思います。今回の探検の期間もまだ決まっていない、ずっとレーダーがない状態では動きにくいです」


 二人の意見が分かれたので、私が決断を下すしかない。


「んー、そうね……今回はリクエストしない。多分しばらく戦闘にはならないし、冬が終わるまでそんな活発的に動かないから。来年の計画を決める頃になったらもう一度考える」


 フェインルーサの艦隊は昨日の戦いで壊滅した。ここまで来ると向こうは武力で島を奪還するのを諦めざるを得ない。そろそろ話し合いができるはず。七国同盟議会経由で引き続きフェインルーサ大公に圧力をかけよう。今回の敗北と、艦隊が壊滅したことをカーチマス王に知られると、大公の立場はますます悪くなる。責任を追及されたくないなら、こっちと口裏を合わせるしかない。例えばこんな感じ――不運にもジレンディスによって艦隊を失ったので、海峡の治安維持は海賊を討伐したカリスラント海軍の力を借りるしかない。見返りとしてタシフォーネ島の支配権をカリスラントに譲る。このシナリオで行くなら大公は多くのものを失うが、最悪の結果を回避できる。もし誠意を見せてくれるなら、大公の面目が保たれるようにこっちが多少譲歩してもいい。タシフォーネを租界地にして、カーチマス王国にも正当な権利を残すのがいいかもしれない。こっちが毎年タシフォーネの使用料を支払えば、向こうが納得しやすいし、利益を捨ててまで奪い返そうとしないだろう。


「今は外交の成果が出るのを待つしかない。みんなも疲れているし、ちょうどいい休養期間だね」


 この休養期間を活用する計画を立てるために、私はアインシリーを呼び出す。今はまだジレンディスの嵐の最中だからアインシリーも砦の中にいる。すぐに来てくれた。


「ジレンディスが終わったら、探検艦隊はクルジリオンに訪問したいと思う」


「いよいよですね。前にアンネ様が話してくれたように、2隻ずつで訪問するのですか?」


「ええ。まず一度行ったことがある2番艦と7番艦。戻ってきたら3番艦と4番艦。その頃になると6番艦の修理も終わったはず、最後はラズエム=セグネールが他の3隻と一緒に行く」


 安全のために必ず分隊に水面下監視用レーダー装備の艦船を入れるから、このローテーションになった。クルジリオンは半島の南部、タシフォーネからそれなりの距離がある。街に滞在する時間も計算に入れると、15日くらいがちょうどいいかな。


「アンネ様が最後でよろしいのですか?」


「タシフォーネの件を片付けるまでここを離れるのは避けたい。それに、他のみんなは急いでクルジリオンに行きたいけど、私たちはそれほどじゃないかな」


「あぁ……そういうこと、なんですね……」


 クルジリオンの歓楽街は今の艦隊の男性陣の間で最もホットな話題らしい。商業ギルドの職員たちに聞き込みして、行く前の下見をしている人までいる。私としては、もう少し他に調べることがあるんじゃないかと思う――例えばクルジリオンの東にあるダンジョンとか、魔物素材の流通量と相場とか……まぁ人間の欲求を満たすのは大事なことなのは認めるけどね。私はファルナにいっぱいしてもらってるけど、他の人はちゃんと発散できていない。気になるのは仕方ないか。


 それからは4人一緒に昼食を取って、雑談を交えクルジリオン、テュークリム共和国、そして七国同盟のことについて色々聞いてみる。そしたら、アインシリーが妙なことを言い出す。


「アンネ様が執り行ったカリスラントの葬式を見て、どうしても気になるのですが……私がまだ幼い頃一度ストリュア神聖帝国のフーレレヤに行きました。そこで参列した母方の親戚の葬式が、どこかカリスラントの流儀に似ているような気がします」


 ストリュア神聖帝国のことはよくクルジリオンの職員たちの話に出る。ギーアル半島の西の超巨大国家、領域は西の大陸の西海岸まで、非常に広い範囲を支配しているらしい。フーレレヤはその神聖帝国のある公爵の領都で、クルジリオンの近くに位置するから、お互いにとっていい貿易パートナーになっている。


「偶然……なんでしょうか?」


「具体的に、どんなところが似ているの?」


「えっと……確かあの親戚も、海の神を信奉していました。儀礼に使われた祭具のモチーフも似ているような気がします……」


 同じく海神で、モチーフも似ているか。偶然としてはできすぎと思うが、似たようなことは地球にもある。距離が空いているいくつの地域に不思議と共通な昔話が残っている。それも一つだけじゃない。羽衣の天女とか、火を纏う不死鳥とか、冥府の国からの帰還とか、そんな類似点がある伝承は複数ある。それを解釈するために、民族の遠距離移動や、人類共通の原始的な夢とか色々面白い仮説があるね。


「その海の神の名前は?」


「……すみません。だいぶ昔のことでしたから、思い出せません」


 覚えていないなら仕方がない。いずれ私もそのフーレレヤという街に行って自分の目で見よう。これこそが探検の醍醐味だね。


「そういえば、アンネ様はどうして神職になりましたか?それでは結婚できなくなる……あっ、もしかしてカリスラントでは、神職でも結婚できるのですか?」


「ううん、そんなことないよ。んー、どうやって説明すればいいかな?まさにその、結婚できなくなるのが狙い、というか……」


「この前話しておきました、アンネ様が国を二回救った戦いですが、アンネ様の婚約者は敵国の王子だったので婚約破棄となりました。戦争によってアンネ様の名声と地位が高まって、政治上のバランスが原因で結婚が難しくなり、神職になるのが一番という結論に至りました」


「アンネ様は、それでいいのですか?結婚できなくても……」


 ファルナが代わりに説明してくれると、アインシリーは更に踏み込んだ質問をする。いつも一歩距離を置いて、控えめな彼女らしくないね。


「どうして、そんなことを?」


「実は、テュークリムの議員のプライベートの集まりで、アンネ様の婚姻についてが話題に上がったようです……アンネ様はどうやら未婚らしい、なら七国同盟の中で適切な相手を探して縁組みするのが、友好を深める最速な手段なんじゃないかと……」


「なるほど。そういうことね。じゃはっきりさせたほうがいいね」


 アインシリーに見せつけるように、私はファルナの手を握り、恋人繋ぎにした。


「私とファルナはこういう関係だから、そもそも結婚したくないのよ」


 もし七国同盟の王族が婚姻の打診をしてきたら本当困るからね。やっぱり神職になるのは正解だね。お父様には感謝しないと。


「……やはり、そうなんですね。このことを父に報告してもいいですか?」


「ぜひそうしてください。誤解によってお互いを困らせるのは避けたいから。それでも納得できない方がいれば……そうね、こう言えばいいのかな。お父様が私を外国に嫁がせることは絶対ありえないから、入り婿のつもりで申し込まないと門前払いを食らうだけ。これで大半の人は諦めざるを得ないだろう」


 私に同性の恋人がいるのを知ったら、本気で友好を深めたい人は引いてくれそうが、私を利用したいだけの人はそう簡単に諦めないだろう。そんな自分勝手な人にとって神職も障害にならない。やめさせればいいと思うだけ。そういう人向けにもっと詳しく補足しておこう。相手にされずに恥をかいて、こっちを逆恨みするのも面倒だからね。


「アンネ様、そろそろ天候予測と明日の計画を決める時間です」


「あっ、もうそんな時間か。お開きにしましょうか」


「その前に、アンネ様。捕虜たちの件は……」


「あっ、そうだ、忘れるとこだったよ!アインシリーさん、次回クルジリオンの船が来るとき、一つ頼みたいことがあるけど……」


「はい。何でしょうか?」


 リミアが思い出させてくれたのは、昨日捕縛したフェインルーサの兵士のこと。島に上陸した92人、そして転覆した船から漂着してきた26人、今は全員地下牢に閉じ込めてる。彼らは海賊とは違うから、こっちはちゃんと礼をもって接しているが、話に全然反応してくれない。全く聞く耳を持たないって感じだ。フェインルーサ大公は部下たちにすごい人望があると聞いたけど、ここまでとはね。嵐の中で出撃なんて無茶な命令を出したのに、恨み言の一つも出ない。部下たちが死兵になってくれるのをわかってるからあんな作戦を立てたのね。


「フェインルーサの兵士たちを送り返してもらえるか?クルジリオンとシーリンタはあまり仲良くないのはわかってるけど……」


「大丈夫です。確かにシーリンタとの関係はよくありませんが、普通に街に入る分には全然問題ありません。自由港とはそういうものなんですから」


 私たちの船がシーリンタに行くと攻撃される可能性が高い。でもクルジリオンはいくら仲が悪くても同じ七国同盟の人間、無茶なことをするとシーリンタは自由港としての信用をなくしてしまう。だからクルジリオンに協力を頼んだわけ。


「しかし、せっかく捕まえたのに、そんな簡単に解放してよろしいのですか?」


「うん。閉じ込めてもこっちは何も得られないし、食費がかさむだけ。どうせ向こうにはもう戦艦がないから脅威にならない」


 こっちはフェインルーサ大公やシーリンタと敵対するつもりはないので、ここは無条件で捕虜を解放して関係改善を図ろう。ついでに彼らにシーリンタ向けの友好的なメッセージも連れて帰ってもらおう。


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