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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター4~タシフォーネの砦
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4-18 怒り狂う海での死闘 1

――再誕の暦867年7月26日、探検艦隊旗艦ラズエム=セグネール、作戦室――


 午後になって、私と参謀たちは港に停泊しているラズエム=セグネールに移動した。これから明日の計画を立てるから。しかしカーシュレに天候予測をさせようと思うとき、ちょうど天気が悪くなり、すぐに雷雨になった。


「すごい雨ですね」


「そう言えば、もうこの時期ですか」


「アインシリーさん。その言い方からすると……この雷雨は、季節性のものなんでしょうか?」


「はい。この現象は『ジレンディス』と呼ばれています。ギーアル半島では毎年、夏の後半に入ると数日間強烈な雷雨が続きます」


「……まさか、これを待っていたのか?」


 フェインルーサの艦隊がずっと動かないのは、このため?外交工作など他のことにばかり注目して、この地域の気象についての情報収集を怠ったのは、失敗だったかもしれない……


「アンネ様、まさかフェインルーサ側はこんな荒天で仕掛けてくると言うのですか?」


「……わからない。でも、ありえない話じゃない」


 もしこの気象条件は毎年この時期に発生するものなら、作戦に組み入れるのも可能だ。この天候では燃焼弾は役に立たない。気球も出せない。私たちはアドバンテージの大半を喪失する。相手も悪天候の影響を受けるが、双方の力の差は大幅に縮む。


「しかし、本当に激しい雨の中で戦うなら、視程が極端に狭くなります。私達は魔力レーダーがあるからまだ大丈夫ですが、向こうなら敵の位置を特定するのも大変じゃないですか?」


「相手はこちらの艦隊を発見する必要がない。島にさえ到達できればいいから」


 大雨はただ視程を狭くするだけじゃない。聴覚も大きく制限され、情報の伝達が難しくなる。そして甲板での作業が非常に困難になる。帆船なら操帆するのも大変だ。視野が制限される状態では、リガンジエル城から戦場を俯瞰して指揮するのも不可能だろう。天測航法もできなくなるから、タシフォーネ島を目指すこと自体も簡単じゃない。でも距離が近いから相手は試してみる価値があると思うかもしれない。天候によって大きな被害を受けても、タシフォーネ島を奪還するチャンスに賭けたいと思う――そう、今まで集めた情報で構築したフェインルーサ大公の人間像から見ると、そうなる可能性は高い。


 カーシュレに予測させると、やっぱり明日の海峡の天候は強風と激しい雷雨になる。


「もし敵が本当に悪天候で攻めに来るつもりなら……この予測の結果は秘匿にすべきですか?」


「いや、これまで通りに天候予測の結果をシーリンタの商業ギルド支部と共有しよう。我々は責任感がある海峡の管理者。このスタンスを崩すべきではない。それにフェインルーサ大公ほどの権力者なら、どうせ天候予測できる魔法士を抱え込んでいるだろう。それより今すぐ副司令と参謀、そして各艦長を招集。これから緊急会議を開く」


 10分後、3名の艦長が作戦室に集合した。2番艦分隊は海峡の警護から帰還している最中だが、時間が惜しいので他の3隻は遠話で参加することに。


『アンネ様は、本気でこんな天候の中でフェインルーサが仕掛けてくると考えておられるのですか?』


「わからない。でも今は最悪の場合を想定して対策を練る必要がある」


『向こうは帆船です。こちら以上に天候の影響を強く受けます。嵐となったら交戦する前に多数の船が転覆するでしょう』


「そんなことはわかっている。でもそうしないとこちらとの戦力差を埋めることができない。もし相手に戦う意志がまだあるなら、これが最後のチャンスよ」


 私たちの中で一番帆船のことに詳しいのはケロスのじいちゃんだ。その意見は正しいと思う。帆船でこんな天候で戦おうとするなんて正気の沙汰じゃない。強風に蹂躙され、敵と戦う前に半数以上を失っても不思議じゃない。しかしそういう不可能だと思われる状況だからこそ、奇襲が成功する。


 地球の歴史上にも似たような戦例がある。ロイテンでは、プロイセン軍は二倍に近い兵力の敵を前にして横移動など、自殺にしか見えない行動を取ったが、戦場の地形に対する深い知識と巧みな機動をもって、フリードリヒ大王はそれを成し遂げた。戦闘の前にフリードリヒはこんな訓示を下した――「もし私がこのままシュレージエンが奪われるのを座視するなら、私の人生に残るのは失敗しかない。だからここですべての戦争の原則を背いて、二倍の数の敵軍を攻撃すると決めた」――私なら、そんな賭け事を絶対にしない。そもそもすべてを賭けるような状況に陥らないように立ち回るべきと考えている。でもそんな賭け事をして自分の才能で道を切り開く人間もいる。それを忘れてはならない。でないと自分がいつか彼らの賭け事で敗者になるかもしれない。


「リミア、強烈な雷雨の中で戦う場合こちらの船が受ける影響をまとめて」


「はい。魔導砲の効果がありません。そして気球を出せません。長距離打撃能力は完全になくなります。大雨によって魔力レーダーの精度も落ちるが大した影響はありません。誤差レベルです」


 私たちはまだ魔力レーダーが使えるから、片方の目が見えるようなもの。でも相手は完全に目隠しされて何も見えない。情報面ではこちらの優勢のままだ。非常に不利になるのは武装面だ。


「正直に申しますと、こんな天候条件で交戦するのを想定していません。こちらから有効な攻撃を加えることは期待できません」


 雨などの要因によって魔導砲が使えない状況を想定して、砲撃手たちは砲列甲板から攻撃魔法を撃つ訓練も受けた。でも実戦で一度もそれをやったことがない。これまでのカリスラント海軍は常に主導権を握り、戦いたくないときいつも戦闘を回避している。しかしタシフォーネ島を守るため今回は避けられない。こっちの武装が使えないのに、向こうは使える。こんな状況で一体どう戦えばいい?魔導バリスタの射程は3KMほど、しかも「照準」の付与魔法で驚異な攻撃精度を誇る。汎用バリアでバリスタの攻撃を防げるが、大雨の中で相手の攻撃が見えづらくなり、バリアを展開するタイミングをミスしやすくなる。2番艦と7番艦がシーリンタに訪問したとき、向こうの戦艦にブリッジを狙われた。もし防御に失敗して直撃されると……どうなるかは想像したくもない。


「アンネ様、こちらも『照準』の魔法を燃焼弾に掛けて精密攻撃すれば、雨など関係なく敵艦を破壊できます。その理論はもうほぼ完成しました」


 鹵獲したバリスタと矢弾を分析、そしてクルジリオンの人間に聞き込みをして、「照準」という西の大陸独自の魔法について色々わかった。「遠話」のように、相手の位置情報を把握することで発動する類の術だ。敵は目標を目視しないと使えないが、こっちには魔力レーダーがあるので、相手が見えなくても使える。タスリカの提案通り、それを砲撃に使う燃焼弾と組み合わせると、理論上では敵艦に命中した後で爆発して、船の上に直接火の海を作り出すことが可能だ。爆発の指定時間など、これまでの使い方と多少違うが、それをやるときの計算の仕方は大体完成した。汎用バリアが使える相手でも、正確なタイミングで起爆させるとこれまでと同じバリアの表面に燃料を付着させることができる。従来より砲撃の精度が大きく向上する。でもこの精密攻撃にはまだ未解決の課題が残っている……


「問題は、それの実弾射撃をまだ一度もやってない。ぶっつけ本番で本当にうまくいくのか?それに今『照準』を使えるのは、アインシリーさんだけ……」


「アンネ様の仰る通りです。客分のアインシリーさんにそんなことをさせるわけにはいきません」


 カーシュレの研究によって「照準」の魔法の原理はもう解明した。今後こっちにも使えるようになったが、「照準」は付与の中級魔法なので最低でも二年の修行が必要。今から使うことができない。


「アンネ様、この状況で私達は一体どう戦えばいいでしょうか?」


「これではいつもと正反対に、こちらが一方的に攻撃されるじゃありませんか?」


 参謀たちの疑問に、私は良い答えを持ち合わせていない。2番艦分隊が港に到着したので、ケロスのじいちゃんたちが来るまで会議は一時中断になった。待つ間私がなんとか絞り出した答えはこんな感じだ。


「……そこまで悪い状況にはならないと思う。魔導バリスタを撃つには目標を捕捉する必要がある。視界が制限されるままでは向こうも簡単に撃てないはずだ。撃たれるとしてもバリアがある。私たちは位置情報の優位を最大限に活かして、相手の撹乱と足止めをする。時間が過ぎれば過ぎるほど相手が方向を見失う可能性が上がって、島に到達できなくなる」


 今はこれが最善手だと思うが、本当にこれで大丈夫なのか?自信はないけど指揮官としては不安を部下の前で見せてわけにはいかない。


「……いっそ、相手の上陸を許してやろうか。最初から地上で迎撃するつもりで臨む、と言うのはどうでしょうか」


「副司令、それは……」


「嵐によって相手は大きな被害が免れない。島に到達する数はそう多くないだろう。こちらは海兵隊が十分な用意をして待ち構える。荒波の中で疲労困憊になった敵を叩くのは、そう難しくない筈です」


 海を渡り、消耗したまま船から迅速に展開しなければならない、でないと防御を固める守備隊に返り討ちされるだけ――上陸作戦にいろんな困難が伴うが、一つだけ有利な点もある。適切な上陸地点が複数あるなら中から自由に選べる。第二次世界大戦のノルマンディー上陸の前に熾烈な情報戦があったのもそれが原因だ。タシフォーネ島の場合、北の岩場は不適切、東は距離が遠いし多数の暗礁がある。この二方面は排除していいだろう。南の港は地形的に最適だが防御施設が多い、西は地形が悪くないし一番近い。敵がどっちから現れるかはわからないが、二方面だけなら海兵隊でなんとかカバーできそう。


「……副司令の言う通りだ。海兵隊の大半を島に残して、防衛戦の用意をさせる。でもこれは最終手段だ。上陸する敵が予想より多い場合もう挽回できない。まずは艦隊が出撃して敵の数を減らす」


 後は鹵獲した装備で一つ試したいことがある。本当にできるかはまだわからないが、うまく行けば使える手札が一枚増える。


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